しっしっ。



 突然現れた鶏冠、もといルークの被験者に私とシンクとアニスがアイコンタクトをとります。
 全員こくりと頷き合い、何故超振動を使ったと喚く彼を前に各々譜陣を展開。
 ぎょっとする鶏冠が剣を抜く前に、さっさと詠唱に入ります。

「悶え苦しめ」
「歪められし扉よ開け」
「魂をも凍らす魔狼の咆哮」
「グラビディ!」「ネガティブゲイト!」「ブラッティハウリング!」

 ぺしゃんと潰れたアッシュの頭上に闇の扉が開き、赤黒い触手がその身体を叩きます。
 まぁ素敵。闇属性の攻撃のラッシュです。
 別に図ったわけではありませんが、全員闇属性になりました。
 そういえばこの三人だと全員第一音素の適正があるんですよね。
 ま、アニスはまだブラッティハウリングを使うほどの適正はないようですが。

「で、どうします、これ」
「捨てれば良いんじゃないかな、魔界に」
「底無しらしいですからね。ゴミ捨てには便利ですね」
「いくらお姉ちゃんたちでも街中での殺人に目は潰れないんだけど。あたしも一応神託の盾だしぃ」
「お、おい……その辺にしといてやれよ」

 潰れたアッシュの踵を持って障気の泥の海に捨てようとしていたシンクでしたが、アニスとルークが止めたことで何とかとどまりました。
 というかアニス、街中じゃなければ良いんですか。これ思い切り私怨だと思うんですが。

「ぐ……くそっ、てめぇら……っなんでそのレプリカなんぞ庇いやがるんだっ!」
「え? だってルークさまのほうがお金持ちだから」
「すぐに切れるアンタよりマシだから」
「あちらの方が話が通じるので」

 スパンと言い切った私達に今度は精神的なダメージを食らったようで、うぐっとか言いながら胸元を抑えているアッシュがいます。
 コントでもしたいんだろうか。
 俺だって話ぐらい聞ける! とアッシュが言うので、だってセフィロトはルークが壊したって言う前提でいきなり罵倒してたじゃないですかヤダーと言ったら、アイツが壊したんだろう!? と思い切り怒鳴ります。
 嫌です怒鳴らないで下さい。唾が飛んできてばっちいです。

「だからそれが思い込みなんですよ。大体貴方ルーク様がパッセージリング壊すとこ見てたんですか?」
「だがヴァンはそこの屑を使って壊そうとしていると!」
「壊そうと『している』でしょう? 自分で言っておきながら言葉を理解できないんですか?」

 はぁああぁと特大のため息をつきながら言ってやればまた言葉を詰まらせるアッシュ。
 阿呆なんですねぇ。思わずそう呟けばアッシュはカッと顔を赤くしながらルークをキッと睨みつけます。
 それを世間でなんていうか知ってますか。逆恨みって言うんですよ。

「お前さえ……お前さえいなけりゃ!」
「あー……その、何かよくわかんねーけどさ、生きてりゃいいことあるって。俺も師匠から裏切られたり変な暗示かけられたりしたけど、こいつ等居たから何とかここにいられるんだし。お前もちゃんと友達大事にすれば……いるよな? 友達」
「馬鹿にしてんのかこの屑がっ! 劣化レプリカ風情が見下してんじゃねーぞ!!」
「え? 友達いるんですか?」
「嘘ぉ!? アッシュって友達いたの!?」
「どこのどいつ? そんな奇特な人間いたっけ?」

 ルーク、劣化レプリカ? と首を傾げます。
 対して私とアニスとシンクの反応にアッシュはわなわなと震えていて、とうとう剣を抜こうとしたアッシュにシンクが踵落しをお見舞いしました。
 綺麗に入った踵落しに、アッシュの意識も綺麗に落ちます。
 哀れアッシュ、どうもこの世界では貴方がギャグキャラに見えて仕方がありません。

 アッシュが倒れたことにルークがおい、と声を上げながら近付こうとしてそのままたたらをふみました。
 イオンが慌てて支えますが、額に手を当てて膝を着いてしまう彼に全員の視線が集まります。
 治癒術が必要な類ではなく、むしろ睡眠不足か精神的なものでしょうね。
 ルークの前に膝を着いて確認すれば、やはり眠気があるのに眠れない日が続いていたとのこと。

「町の人に頼んでどこか休めるところを貸してもらいましょう。タルタロスの中で眠るよりも、ちゃんとベッドで眠った方が休める筈です」
「そうですね。町長に頼んでみましょう。交渉は僕がします。お二人にはルークをお願いしても構いませんか?」
「はい」
「そういう契約だからね、任せてよ」

 ふらつくルークをシンクが背負い、そのままユリアシティの中へと足を踏み入れます。
 途端に住人たちからの視線を向けられますが、無視です無視無視。
 町長であるテオドーロから空き部屋を借り受け、ルークをそこで休ませます。
 シンクの背中でいつの間にか意識を飛ばしていたらしく、くぅくぅと寝息を立てているルークをそっとベッドの中に放り込みました。
 あまり血色のよくない顔色から、やはり無理をしていたことが読み取れます。

「ルークは大丈夫でしょうか……」
「あまり眠っていないようですし、疲れも溜まっていたでしょうから暫くはベッドとお友達になるかもしれませんね。まぁその時はなるべく精のつくものでも作りましょう」

 心配するイオンに微笑んでおき、私は早速キッチンを借りてシンク達のご飯を作ることにしました。
 その間にシンクは公爵家に提出する報告書を書き上げるとか。
 あなたルークが死ぬのは預言だって知ってるくせにそういうことするんですか。
 まぁ意図は解りますよ? ルークは死んでないぞって公爵家に釘を刺したいんでしょう?
 でも公爵家から預言を成就させんと暗殺者が送られてきたらどうするんですか。
 いえ、シンクなら返り討ちにできそうですけども。

 それから食事をふるまった後、とりあえずはイオンにも隣の部屋で休むように言えば、イオンは申し訳無さそうにしながらもアニスを連れて部屋から出て行きました。
 別に悪くは無いですよ。というか貴方虚弱体質なんですから休める時に休んでおきなさい。
 ルークが目覚めていないのを確認し、お皿を洗ってシャワーから浴びてきたシンクと話します。
 場所が場所なので包帯は巻きっぱなしですが、髪が降りているので後姿だけだと一瞬誰だか解りませんでした。
 ややこしいな、もう。

「ルークが目覚め次第、この町からは出て行った方が良いんでしょうね」
「だろうね。預言を監視するための町だ。いつ預言を成就させようとルークに襲い掛かるか解ったもんじゃない。アラミス勇水道も二〜三日で復活するって言ってたし、いつでも出て行けるよう準備しておかないと」
「出て行ってからはどうします? バチカルへ向かうのは無謀かと思われますが」
「馬鹿にしてる? そこまで考えなしじゃないよ。まぁルークの意見を聞きながら決めるさ。恐らく戦争回避の為に動きたいって言うんだろうけど」
「もしそういうならばイオンとは別行動を取った方が良いでしょうね。導師としての立場は各国を回るよりも、ダアトに居てくれた方が役立ちますから」
「むしろダアトに行ってもらって親善大使の無事を発表してもらった後、導師勅令を出して戦争とめてもらうのが一番楽なんじゃないの」

 あぁ、それが一番な気がします。
 結局翌日イオンとも話し合い、イオンはダアトへ行って導師勅令を発布し戦争停止の為に動いてもらうことが決まりました。
 何でもジェイド達がタルタロスを打ち上げて外郭大地に戻ろうとしているらしく、一緒に行こうと誘われているのでそれに同乗させてもらうとか何とか。

 いえ、成功するの知ってるので良いですけど止めましょうよアニス。
 そんな一か八かの賭けに導師の命を預けるんじゃありません。
 一体何度私を突っ込ませれば気が済むのかこの小娘は。

 ルークが目覚めたらダアトに連絡することを約束して、そうしてイオンはアニスと共に外郭大地へと帰っていきました。
 何かアッシュも一緒に行ったらしいですが、しらね。あんな鶏冠なんてどうでもいいです。
 何かティアは残っているとのことですが、もっと知らない。むしろ知りたくなかったです。

 ルークが目覚めたのはイオンが外郭大地に戻ってから更に二日後でした。
 よく寝ましたね。おはようございます。二日も寝てたと知って本人も驚いてました。
 とりあえずまずご飯を食べましょう。一応ユリアシティのお医者さんに点滴打ってもらってましたけど、やっぱり胃袋は空っぽですし。
 あと何かルークが目覚めたと聞いてティアが来たそうですけど、知りません。
 部外者は立入禁止です。しっしっ。

「ん。やっぱり俺はグランコクマに行きたい。こんなんになっちまったけどそれでも俺は親善大使だから、報告の義務とかもあるだろうし」

 私が作ったご飯をぺろりと平らげ、シンクから現状の説明を受けたルークはしゅんとした様子ながらもはっきりとグランコクマに行くと言い切りました。
 それにシンクがニヤリと笑い、それならバチカルに報告した方が良いだろうね、と言います。
 どうやらルークがテオドーロ市長から真実の話を聞く前に、自分の報告書だけでなくルーク直筆の手紙を書かせて公爵に送る寸法のようです。
 ま、イオンの導師勅令のみに頼るよりは良いかもしれません。

 シンクの言葉に素直に頷いたルークはさらさらと報告書、というより自分は無事ですという手紙を書いた後、出しておくよというシンクに素直に手紙を預けます。素直って怖い。
 その後すぐに動けるというルークに更にイオン宛てに手紙を書いて貰い、世話になった礼を言うためにテオドーロ市長の居る会議室に向かいました。
 正確に言うならば、私とルークだけで向かいました。

 シンク? お手紙出しに行きましたよ……。
 案の定テオドーロ市長から秘預言を聞いたルークは自分が生きてることを知った父親がどんな行動にでるか解らないと顔を青ざめました。
 が、既にお手紙は商人の手に渡りダアトの町へと届けられている最中です。最早どうにもなりません。
 お前知っててやっただろっ! とシンクの胸倉を掴んで揺さぶるルークという実に珍しい光景が見れました。
 シンクは勿論馬鹿笑いです。

 しかし出してしまったものは仕方ありません。
 お前も共犯だったのかと睨まれましたが、私シンクに逆らえないんです、主に腕力的な意味で。
 と言うとルークは睨むのをやめて同情してくれました。ホント、素直ってちょろい。

「待って」

 そんな風にじゃれあいながら(?)ユリアロードを通ってアラミス勇水道に入ろうとしていた私達でしたが、声を掛けられて振り返ればそこには軍服を纏ったティアの姿が。
 ちょっと誰かコイツ部屋に縛り付けといてくれないかな。
 犬追い払うみたいにしっしってやったら怒るかな? 怒りますよね。
 でもそれで追い払えたらもうけもの。しっしっ。

「……馬鹿にしてるの?」

 あ、やっぱり怒った。
 しっしっ!

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