人に迷惑をかけないでください。



「私も一緒に連れて行って」
「「お断りします/だよ」」
「すげぇな、綺麗にハモった」

 ティアの提案に即断した私とシンクに感心するルークは小さくパチパチと拍手をしていました。
 一方、私とシンクの答えが不満だったのでしょう。
 あからさまにムッとした表情を作ったティアは、私には兄を止める義務があるのよ、と何故か胸を張って言います。
 私はそれにため息をつくと、止めたければお好きにどうぞと返しました。

「貴方に義務があろうと無かろうと私達には関係ありませんから、それじゃあさようなら」

 そう言ってくるりと背を向けようとすれば何故かきょとんとしたティアが慌てて私の服の端を掴みます。
 触るな鬱陶しい。というかさっさと出発したいのに何で貴方に捕まらなきゃいけないんですか。
 勝手に行ってくださいよ。人を巻き込まないで下さい。

「兄は世界を壊そうとしてるのよ!?」
「だから貴方が止めるんでしょう?」
「世界のためなのよ? 協力しようと思わないの!」
「僕は今ファブレ公爵家に雇われてルークの護衛をやってるんだ。そっちを優先するに決まってるだろ。大体なんで僕達がアンタに協力する前提なのさ。それとも何? 協力したら僕達のこと養ってくれるわけ?」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう!?」
「自分の食い扶持自分で稼いで何が悪いんです? とにかく私達はルークの護衛なんです。貴方に協力する理由も、義務も、善意もありませんから着いてこないで下さいね。着いて来たらローレライ教団にストーカーとして訴えますから」

 世界のためなら協力してくれて当たり前とでも思ってたんですかねぇ。
 私とシンクの言葉に絶句したティアは口を開けたまま固まっていたので、さっさとルークの手を引いてアラミス勇水道を通ります。
 そもそも貴方が兄をしとめ損ねたせいでしょうに。自分のしでかしたことの尻拭いを人に押し付けないでほしいです。
 後ろで追いかけてきたらしいティアの悲鳴っぽいものが聞こえた気がしましたが無視です無視。
 いざとなればユリアシティに逃げ込めば助かるでしょう。しぶとさだけは一人前なんですから。

 こうしてユリアシティを出た私達は戦争の噂を聞きつつルークの希望を叶えるためにグランコクマへと向かいました。
 国境は多少ピリピリしているようですが、幸いイオンがダアトにて親善大使の無事を公表し導師勅令を出したために開戦には到っていないようです。
 今回ばかりはイオンに感謝ですね。

 グランコクマに入る際もイオンの発表があったために、軍人さんにルークの身分を明かせばあっさりと通してもらえました。
 赤い髪と緑の瞳で一発で理解してもらえるのが物凄くありがたいです。
 だってルークってば公爵家の身分を証明するものをひとっつも持ってなかったんですよ。
 持ちなさい。貴方公爵子息なんだから持って当然、むしろ持たなきゃ駄目なんですと野営しながら説教してしまいました。

 それと少しだけテオルの森でラルとラルゴに会う可能性も考えて警戒していたんですが、それも無し。
 ただ不穏な空気が漂っているために赤い髪と緑の瞳は国民達を刺激しかねないと言う事で、グランコクマではルークは全て馬車での移動でした。
 勿論私とシンクは馬車の両脇に着いて護衛です。
 一緒に乗ったりなんかしません、当たり前ですね。

 そうして馬車に揺られるルークにくっつき、辿り着いた先は当然のように王宮でした。
 恐らく謁見するのでしょう。頑張って下さいとお見送りしようとしたら、兵士さんに貴方方もご一緒にと言われてしまってちょっと困惑気味です私。
 普通ただの傭兵に皇帝陛下が謁見許すか?
 いや、そういやここの皇帝は普通じゃなかった、そういえば。
 仕方ないのでシンクと私もルークの背後にひっついて謁見の間へと足を踏み入れます。

 ルークは立ったまま皇帝陛下とお話できますが、私とシンクは無理です。
 すぐさま膝をついて顔を下げれば、ルークと陛下は二言三言挨拶らしいやり取りをした後、さっそく本題に入りました。
 私達にとって幸いだったのはピオニー陛下が非常にフランクな性格をしていたことです。
 そうでなければ公式の場での口調や態度など付け焼刃でしかないルークは即座に相手の機嫌を損ね、下手をすれば謁見の間から丁寧に追い払われていたでしょう。

 一応グランコクマに辿り着くまでに、ピオニー陛下に話さなければならないことなどは一緒に知恵を絞ってあります。
 その甲斐あってルークは所々どもったりつっかえたりしながらもきちんと説明します。
 ええ、ちゃんと話してくれましたよ。

 ティアに誘拐されてタタル渓谷で目覚めたことも。
 エンゲーブで泥棒に間違えられて蹴られたことも。
 ジェイドに不法入国者として捕縛されたことも。
 協力しなければ拘束すると脅されたことも全てね。

 ルークはそこまで話す必要があるのか? って言ってましたけど、重要ですよ。
 勿論アクゼリュスに向かうまでの話とか、アクゼリュスの状態とか、アクゼリュスで何が起こったのかとかもきちんと話してましたけどね。
 なんかピオニー陛下の声が非常にぶれぶれだったけど気のせいでしょう、きっと。

 わからないところはきちんとわからないと答え、答えられる範囲ではきちんと答えるルーク。
 私は膝をついたまま顔すら上げていませんでしたが、よくぞここまで成長してくれたとちょっとだけ涙がちょちょ切れそうになりました。
 そしてルークが全てを話し終えた後、ピオニー陛下から顔を上げろと言われたために私とシンクはようやく顔を上げます。

「ケセドニアの傭兵らしいな。名はなんと言う? これ以降は直答を許す。まずはそうだな、そっちの包帯をしている方から話せ」
「はい。私はケセドニアにおいて傭兵業を営んでおります。シンクと申します」
「シンク、シンク? なんか聞いたことがあるな……アスラン?」
「はい。ケセドニアの傭兵、緑色の髪に包帯の少年と言えばたった一人でラダニア海賊団を壊滅させたという異例の強さを誇る『盲目の拳闘士』が該当いたします。名前も合致いたしますし、間違いはないかと」
「そうなのか?」
「はい。そのように呼ばれております」

 どうやらシンクの噂はグランコクマまで届いていたようです。
 護衛のようにピオニー陛下の側に侍っていたアスランが優雅に腰を折って陛下の疑問に答えました。
 ピオニー陛下はシンクに興味津々のようで、まるで包帯の奥を見破ろうとするかのようにまじまじとシンクを見下ろしています。

「ほう。若そうに見えるのに対したもんだ。で、そっちの女子の方、名前は?」
「トモカと申します。以前はケセドニアでウエイトレスをしていました」
「傭兵じゃないのか? となるとシンク殿との関係はなんだ?」
「諸々の事情がありウエイトレスは現在やっておりません。以前から副業として傭兵として活動していた腕を生かし、現在はルーク様の護衛としてアクゼリュスからご同行させていただいております。シンクとは血は繋がっておりませんが、お互い親無し家も無しということで幼い頃から身を寄せ合って生きてまいりました」

 私がそういった事でホド戦争による戦災孤児だと察したのでしょう。
 そうか、なるほどな、と答えただけで詳しいことは突っ込んできませんでした。頭の回る人はこういったところで助かります。

「しかしウエイトレスをしている傭兵……アスラン?」
「はい。ケセドニアの傭兵、諜報活動を得意とし戦闘では数多の紙片を舞い散らせながら無類の怪力を誇る『紙闘術士』のことでしょう。シンク殿ほど名は知られておりませんが、確実な情報を持ってくるという事で一部の間では重宝されているようです」
「ほうほう。だから聞いたことがあったんだな」

 待ってください。私までそんな噂になってたんですか?初耳です。どういうことですか。
 アスランがよどみなく答える内容に内心冷や汗が止まりません。
 確かに諜報活動は私の得意とするところですが、重宝されているというのも初耳です。
 いえ、お得意様は確かにいらっしゃいますけども。

 私達について確認したピオニー陛下はすっと目を細めると、傍に控えていた兵士に視線をやります。
 それだけで一礼をして兵士は出て行きました。
 私たちのことを調べさせるよう指示でも出しましたかね。まぁ探られて痛い腹は持ってないので、まったく構いませんが。
 それに調べたくなる気持ちは解ります。親善大使についてる護衛が傭兵二人だけってどうなのって私だって思いますもの。いろいろとおかしすぎるだろう。

 その後はルークがアクゼリュス崩落を止められなかったことを謝罪しましたが、ルークの話が本当ならば最終的に悪いのはヴァン・グランツだろうとピオニー陛下は断言されました。
 まぁそうなりますよね。ルークは利用されただけ。言い方は悪いですが、道具としてしようされただけ。
 人を殺したとき剣に罪はありません。悪いのは剣を使った人間です。

 ただルークの言葉には証拠がありません。調べればある程度のことは露になりますが、現在では証明するものはゼロ。
 マルクトから見れば、ルークがヴァンに責任を擦り付けるために事実をでっち上げている可能性だってあります。
 なのでピオニー陛下は裏づけが取れるまで王宮でゆっくりと休んでほしいと告げ、最後にもう一度だけルークをねぎらった後、そこでようやく謁見は終了しました。

 ところで私とシンクも王宮に滞在することになったんですが、なんでピオニー陛下からお茶に呼ばれなきゃいけないんですかね。
 周囲からの邪推の目が痛いです。陛下のお手つきになるつもりは毛頭ありませんよ。
 まったく、人に迷惑をかけないでください。


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