頭痛が痛いとはこのことか。



※厳しめもりもり

「お一つ言わせていただけるのであれば、」
「おお、いいぞ。許す。何でも言え」
「何故私達を呼んだんです?」
「そりゃ決まってる。俺達だけじゃあ手に負えないし、証言する人間は必要だろう?」
「せめて本音を後にしませんか?」
「この場で取り繕う必要性を感じないんでな」
「それって皇帝としてどうなのさ」

 本来ならば不敬といわれてもおかしくないシンクの物言いですが、百パーセント同意なので思わず心の中で頷いてしまいます。
 しかしピオニー陛下本人が言っている通り現在謁見の間には限られた人間しかおらず、その中に咎める者は誰もいません。
 それはここにいるのは私とシンクを除いて事情を知っている腹心の部下と呼ぶべき者しかいないからであり、今から行われる行為のためには婉曲的な言葉遣いでは相手に通じないであろうという諦めもあるのでしょう。
 それが解ってしまう分、これ以上の反論が出来ずため息が漏れました。

 ルークの護衛としてマルクトに逗留してから結構経ちました。
 マルクト側も情報の裏付けをとるのに奔走していたようなので、私達も大人しく王宮で過ごしてました。
 そんな中、突如呼び出された謁見の間。ジェイドたちが来たということで呼び出されました。どうして。

 玉座に腰掛けるピオニー陛下は、口調こそふざけていますがその顔からは怒りが隠しきれていません。
 その左右を固めるように立つのはフリングス将軍とノルドハイム将軍。
 彼らにいたっては笑みすら浮かべておらず、背筋をぴんと伸ばし背中で手を組みながら此方を見下ろしています。
 そしてその下座に立っているのが私とシンクで、その背後には罪人達が手足を拘束された状態で兵士の手により地面に押さえつけられています。
 かろうじて自由を得ているのがナタリア殿下ですが、その彼女もまた左右を兵士に固められているおかげで実質的に自由を奪われ口しか動かせない状態です。
 もうやだ。帰りたい。

 不幸中の幸いは、ルークはこのことを知らないことでしょうかね。
 今頃ピオニー陛下が彼の気を逸らすため着けてくれた軍人さんと、剣舞やらなんやらで遊んでいることでしょう。
 ため息をついてジェイドたちを振り返ります。
 誰一人として、自分が捕まっている理由を理解している様子はありません。頭痛が痛いとはこのことか。
 今すぐお暇したい衝動にかられている私の気持ちを理解しているでしょうに、陛下は手を一つ叩いて空気を一変させると本題に入りました。

「さて、問題は山積みだがまずは貴殿に問おう。……貴殿は何者だ? 王女の偽者か?」

 おっと、そうきましたか。
 眉間に皺を寄せた陛下は嘘は許さないとでもいうように重苦しい声で金髪の王女に問いかけました。
 ナタリア王女にとってそれは許せない質問だったのでしょう。
 すぐさま憤怒か羞恥で顔を真っ赤に染め上げ金魚のように口をパクパクさせた後、無礼者! と言って一歩踏み出します。
 左右を固めていた兵士がその前に槍を交差させて止めましたが、そうでなければピオニー陛下に殴りかからんばかりの勢いです。

「わたくしは間違いなくキムラスカ・ランバルディアの正当なる後継者、ナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディアですわ! わたくしへの侮辱はランバルディア王国への侮辱! ピオニー陛下ともあろうお方がそれを理解していないなどと言わせません!」
「ああ、解っているとも。だがな、こっちはこっちで理由がある。先日、ケセドニアに駐在している者から連絡が届いた。親善大使としてアクゼリュスを訪れていたルーク・フォン・ファブレ殿、及びインゴベルト陛下の第一子であるナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディア王女が亡くなったと。キムラスカは二人が亡くなったことをマルクトによる陰謀だと断定し、宣戦布告」
「お父様は誤解しているのですわ!」
「最後まで話を聞いてくれないか? 宣戦布告しようとしたところを、導師イオンがダアトにて導師勅令を発布、同時にルーク・フォン・ファブレの存命を宣言した。これにより宣戦布告はなされなかったものの、キムラスカは依然こそこそと戦争の準備をしていると情報が来ている」

 途中金切り声によって遮られたものの、それは物凄く端的にされた今までの経緯でした。
 ルークという単語に金髪の使用人が反応しましたが、知りません。どうでもいい。
 あとシンクは暇だからと言ってあくびをするのは止めなさい。ここは謁見の間です。

「これにより我がマルクトからキムラスカに緊急会談を要請したが、断られた。まあこれは仕方ない。第一王位継承者が行方不明なんだ。てんてこまいにもなる。ところが今度はキムラスカからな、こう言われた。マルクトがナタリア王女を隠しているのでは? とな。更には『あくまでもマルクトがナタリア王女を人質にするのならば此方にも考えがある』と戦争を匂わせてくるときた! だから此方としても言ってやったさ。『我がマルクトがナタリア王女をお預かりした覚えはない。アクゼリュスに招いた覚えもない。親善大使一考に加わっていると連絡をされた覚えもない。にも関わらず何故ナタリア王女の所在をマルクトが知っているとお思いなのか、逆にそちらの根拠をお聞きしたい』とな!」

 はんっと凶悪に鼻で笑いながら陛下が告げた言葉に、私とシンクは揃って「あー……」となんとも言いがたい反応を示します。
 そりゃそうですよね。もっと根本から言うなら親善大使の派遣自体陛下は了承していません。
 了承していないのに勝手に派遣したから責任とってね、はいくらなんでもありえない。
 ただこちらは名代であるジェイドが了承しちゃっているので、深く突っ込むと陛下にもダメージがくるのでちょっと隣に置いておきましょうか。今はナタリアです、ナタリア。
 そのナタリアが何か反論する前に、さっさと話を終わらせようと陛下は話を続けます。

「まあそう聞けば途端にキムラスカは貝の如く口を閉じる。だからマルクト側としても疑われないために、ケセドニアで収集した情報をキムラスカに渡したんだ」

 曰く、親善大使一行にナタリア王女と思しき女性が同行している。
 曰く、ナタリア王女と思しき女性は『自分を王女として扱うな』と発言し、アクゼリュスへ向かうと話していた。
 曰く、ナタリア王女と思しき女性は赤い髪の男性に命令口調だった。

「ま、他にも色々あるが主だったところはこのあたりだ。さて。これのどこにマルクトの責任がある?と聞くとキムラスカはこう言ってきた」

『ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアは偽姫であった。本物の王女は死産であった。以降、王女を名乗るものが現れてもキムラスカは一切関係のないものである。万が一王女を名乗る偽者が現れた場合、その者は罪人なのでキムラスカに引き渡して欲しい』

 わお、キムラスカそこでカード切っちゃいましたか。どう考えても悪手じゃありません? それ。
 私がケセドニアで情報落としてきたのがこんな風に作用するとは思いませんでした。
 もしかしたら神託の盾の横暴に怒ったマスターが情報を拡散した可能性が無きにしも非ず。
 ナタリア見ると真っ赤になっていた顔が今度は真っ青になってました。
 まあキムラスカの対応を考えれば当たり前ですが。

「事態は把握してくれたようだな?ではもう一度聞くぞ。貴殿は何者だ? ナタリア王女を語る、金髪の姫よ」

 先ほど話を遮られた報復でしょうか。ぐさりとナタリアのコンプレックスを刺激してから陛下が問い直します。
 なんと答えるのでしょうね。ここでナタリアだと答えればキムラスカに引渡し。ナタリアでないと答えたらそれは王女の名を語った罪人です。
 青ざめた顔で瞼を閉じていたナタリアでしたが、やがて何か覚悟を決めたように暗緑の瞳を開くと、くっと胸をはって堂々と答えました。

「わたくしは間違いなく、ナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディアですわ。偽者ではございません! きっとお父様は何か誤解をされているのでしょう。どうぞわたくしをキムラスカに引き渡してくださいませ! この身に流れる青き血にかけて、わたくしの故郷はキムラスカであり、わたくしの父はインゴベルト陛下以外にいないことを証明してみせましょう!」
「そうか。では王女であるならば身分証明となるものくらい、持っているだろう? 出してくれ。確認後、キムラスカへ引き渡そう」

 ででん、と胸をはって自信満々に告げた言葉を陛下はあっさりと流した後、なら証明して見せろと言い放ちました。
 途端にナタリアはきょとんとすると、困ったわといわんばかりに頬に手をあてます。
 続いて申し訳ございませんが身分を隠して旅をしていましたので持っておりませんわ、と告げました。
 駄目駄目っていうかぐだぐだっていうか……。帰りたい。

「では貴殿がナタリア王女とは証明できないな」
「わ、わたくしは間違いなくナタリアですわ!」
「身分証明書も持たずに出歩く王女など居るわけがないだろう?」
「ですから身分を隠していたのです!」

 堂々巡りですね。
 二人のやり取りに私まであくびをしそうになりましたが、ナタリアがシンクに水を向けたのであくびも引っ込みました。危ない危ない。

「あ、あちらの傭兵が謁見の間でわたくしの顔を見ているはずです! 証人としてここに居るのならば証言してくださいませ!」
「ほう? シンク殿、彼女はああ言っているが……どうだった?」
「はっ。確かに私はキムラスカで、親善大使に任命されるルーク様と共に謁見の間に足を踏み入れました」
「そうでしょう? 緑色の髪が印象的で覚えておりましたもの! 彼が証人ですわ!」
「ですが、王から許しの言葉をいただけなかったため、私はずっと顔を伏せておりました。故に私は王女のご尊顔を確認しておりません」
「そうか。では彼女がナタリア王女であると証明はできないな」
「はい」
「その後の旅でずっと一緒だったではありませんか!!」
「一緒だったのか?」
「キムラスカを出立し、ユリアシティに辿り着くまでの旅は一緒でした。しかしそれが王女であるという証明になるのですか?」
「いや、ならないな」

 一応証人としての証言だからでしょうか。口調こそ丁寧ではありましたが、ばっさりとシンクはナタリアを切り捨てていました。
 まあ道中散々嫌味を言われたらしいですから、味方をする義理もないといったところでしょうか。

 結局自分が王女であると証明できなかったナタリアは、王女の名を語った偽者として丁寧に拘束されキムラスカに送られることになりました。
 こっちだと対処するの面倒くさいからそっちの罪人はそっちで裁けってことですね。わかります。
 きんきんする声で何か叫んでいるナタリアが引きずられていったのを見送り、私とシンクはまだ一人しか減っていないことに揃ってため息をつくのでした。


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