あー、面倒くさい。


※続けてきびしめ

 ナタリアが強制連行され、ついでにファブレ家の使用人であるということでガイも一緒にキムラスカに強制輸送されることになりました。
 ナタリアはともかく、ガイは本気で荷物扱いされて輸送されそうですね。この調子じゃお家再興も絶望的でしょう。
 なお、何故か一緒に居たティアはちょっと扱いが面倒なので牢に放り込まれました。
 てかなんで貴女一緒に居るんです? 本気で疑問。兄を止めるんじゃなかったのか。

 アッシュが捕まらなかったことだけが心残りですね。
 確かアッシュは既に別行動をとっているんでしたっけ。
 駄目だな、記憶が古すぎて細かいところが思い出せません。

「さて、ジェイド・カーティス。何故自分が捕縛されているか……その顔だと理解していないようだな。非常に残念だ」

 部外者が全て消えたところでピオニー陛下の声が一気に冷え込みます。
 王が、そこに居ました。頬杖を突き、笑みすら消して私たちを見下す絶対君主。
 自然と私とシンクが跪こうとすれば、それを止めるように掌を向けられたので黙って控えます。
 ただ陛下とジェイドの視線の邪魔にならないよう、そっと脇に移動しました。

「仮想敵国でもある隣国の王族に対する不敬。ダアトに置ける暴徒扇動。キムラスカでの独断専行。全て証拠は揃っている。その全てを抑えた上で、ジェイド・カーティス。貴様には今、反逆罪の嫌疑がかけられている。弁明はあるか」
「恐れながら陛下、私にはそのような罪状に覚えはございません!」

 背中できつく腕を拘束され、芋虫のようにはいつくばった状態でジェイドは叫びます。
 が、その言葉にまさかまだ自覚がないんかーい、としか言いようがなく。私はもうコイツ駄目なんじゃね? と諦めモードです。

 そのせいかどうかは解りませんが、カーティス大佐からはお前がでっちあげたんじゃないかと言わんばかりに睨まれました。
 まあそんな芋虫状態で睨まれても全然怖くありませんが。
 それにしても彼は人に冤罪をかけるのがとてもお好きなようです。
 このまま牢屋にぶち込まれるのでしょうが、だからといって放置すると後から面倒くさいことになりませんか、これ。
 全部全部ちょっと考えれば解ることなのに、何故そんな思考に至るのでしょう?
 私はちょっと悩んだ後、恐る恐る挙手をしてみました。

「……陛下、発言をお許し願えますか?」
「許そう」
「カーティス大佐に質問してもよろしいですか?」
「ああ、構わない」

 こちらを睨みつけるカーティス大佐に歩み寄り、目の前でしゃがみこみます。
 ほんと、彼の頭の中って何が詰まってるんだろう?
 天才って設定じゃありませんでしたっけ?

「カーティス大佐、聞いても宜しいですか? 私、解らないんですよね」
「何故和平への協力を断られたからといってイオン様をこっそり連れだしたんですか? 教団の力を揮ってほしいなら公務でなければ意味がないでしょうに」
「何故大詠師派が導師を監禁しているなんて噂を流したんですか? 信者が傷つけば導師イオンが悲しみ教団とマルクトの関係にひびが入ることくらい解っていたでしょうに」
「何故エンゲーブでキムラスカの王族が冤罪をかけられていると解っていながら口を挟まなかったんですか? あなたは彼が漆黒の翼でないことを知っていた筈なのに」
「何故マルクトの国民がキムラスカの王族に暴力をふるうのを見過ごしていたんですか? それだけでマルクトの国民の命が簡単に刈り取られてしまうことくらい理解していたでしょうに」
「何故事故による不法入国と解っていながらそれを罪と突き付け、協力してもらえないなら監禁するなんて言ったんですか? それで協力が取り付けられても、後からキムラスカにばれれば顰蹙を買うことくらい子供でも解るでしょうに」

 いっそのこと天才の思考とやらをお披露目願おうと疑問をぶつけてみます。
 しかし私の怒涛の何故何故攻撃にカーティス大佐の赤い目が見開かれたかと思うと、どんどん顔が青ざめていきます。
 それを見下ろしながら私は質問を続けました。

「何故タルタロスが襲われたのに報告を上げなかったんですか? 救援のための人手も物資もなくなって、どうやってアクゼリュスの人々を救うつもりだったんですか? 亡くなった部下の方々のご家族のこととか考えなかったんですか? そもそも導師イオンを穏便に連れ出していれば六神将による襲撃もなかったと思うんですけど、そのあたりはどのようにお考えですか?」
「そ、れは……」
「何故ルーク様がコーラル城へ行くことを止めなかったんですか? 何故キムラスカが和平を受け入れたことを本国に報告しなかったんですか? あんな少人数でアクゼリュスに行ってどうするつもりだったんですか?  ルーク様がグランツ謡将に操られたと私とイオン様が説明したのに、詳しい事情を聞きに来なかったのも理由が解らないんですよね。自国の領土が害されたんですから、軍人なら正確な情報を得て上に報告する必要があるのではないのですか? ユリアシティでは何故ルーク様を置いてったんですか? 預言を順守する町なのですからルーク様が害される可能性は考えなかったのですか? 親善大使に任命されたキムラスカ王族を放っておいていいと思ったんですか? 何故」
「トモカ殿、そのあたりにしてやってくれるか。というかそれは、その、なんだ。新手の尋問方法か何かか……?」
「……天才と名高いカーティス大佐ならば私の疑問にも答えていただけると思って質問していただけですが」
「そうか……そうだな。その意見には俺も同意だが、ちょっと聞き方が怖いというかだな……その辺で止めてくれると助かる」

 怖いって何ですか。失礼ですね。
 ですが陛下に言われたので青い顔をして固まっているカーティス大佐の前から立ち上がり、シンクの元に戻ります。

「私そんなに怖いですか?」
「無表情の女が抑揚のない声で何故と繰り返し続けるとかある意味ホラーじゃん」

 それは確かに怖いかもしれません。夜中に見たらびっくりする自信があります。
 私としてはこちらを睨む思考回路を知りたくて疑問を投げつけただけなんですけどね。一個も答えてもらえませんでしたが。
 ですが睨まれることはなくなったので良しとしましょう。

「さて。ジェイド、その顔を見るにようやく自分が何をしたのか理解したようだな」
「……はい」
「では改めて聞こう。俺の名代という立場でありながら、何故愚行を犯し続けた。本当に俺に反逆するつもりだったのか?」
「違います!!」

 じゃあ何で?
 素直に首を傾げる私に大佐は俯いて答えません。けれどピオニー陛下は黙秘を許すほど優しくありません。
 答えろ、と告げる陛下の声に背筋がびりびりします。怖い。魔物と戦う時は別種の怖さです。

「……可能な限り、効率を重視したつもりでした」

 何言ってんだこいつ??
 逆向きに首を傾げます。意味が解りません。
 そこからぽつりぽつりと零された言葉を聞くに、一応大佐なりに考えてのことだったようです。
 ダアトで暴動を起こしたのは導師イオンを引っ張り出すために一番最短ルートを選択しただけ。
 エンゲーブでルークへの暴挙を見逃したのも、放っておけばその内誤解は解けると思ったから放置しただけ。
 ルークに和平交渉に協力するよう脅したのも、それが一番成功率が高いと思ったから。
 タルタロス拿捕について報告を上げなかったのも、和平の邪魔を可能な限り排除したかったから。

 なるほど、効率を重視しています。
 ただそこに巻き込まれる人々の心情や周囲からの評価は考慮されていません。その後の可能性については欠片も配慮がありませんが。
 そしてそこが皇帝名代として致命的すぎる。何でこいつが皇帝名代に抜擢されてしまったのか。

「……ジェイド、ここは戦場じゃない。戦場じゃないんだ」

 ジェイドの話を聞いたピオニー陛下が悲し気な顔で首を振りました。
 ああ、なるほど。確かに状況が刻一刻と変化する戦場でなら、おかしなことではありません。
 大佐としては自分の持つ権限の中でその場で最適な行動をとったつもりだったのでしょう。
 命のやり取りをする戦場でなら相手の心情やその後の関係なんて考慮しなくていいでしょうし。
 非常時においては定められたルールよりもその場の責任者の判断の方が優先されます。
 つまり大佐の頭の中は未だ戦時ってことですか? それを回避するために動いてたんですよね??

「……お前に反逆の意思がないことは解った。だがお前のしでかしたことは決して目を瞑れることではないし、目を瞑るつもりもない。俺の民を傷つけ、その尊厳と誇りを無視し、結果的に多くの国民の命と領土を失う方向へと導いたことを、俺は許さない」
「……はい」
「だがキムラスカはどうも戦争を起こしたがっている。可能な限り回避に動くつもりではあるが、その際にお前が強大な戦力となりえることも否定しきれない事実だ。ユリアシティからグランコクマまでの道中についても聞きたいことはある。罪人として、全て詳らかにせよ。お前の処分はその後決める」
「畏まりました。恐れ多くも和平の使者として抜擢された身でありながら、陛下のご期待に添えなかったこと深くお詫び申し上げます」

 お前敬語喋れたのか。
 すっかり大人しくなった大佐は兵士に連れていかれました。
 全てを見届けた私達は見苦しいものを見せたという陛下に静かに頭を垂れます。

 ただねえ。
 その後の陛下の話の持っていき方からどうも私達をマルクトで取り込もうとしているのをひしひしと感じてしまいます。
 今回の件も証人として呼ばれましたが、こんなとこまで見せたんだから当然ウチにつくよな? ん? みたいな空気を感じるんですよね。

 そういうのが面倒くさいからケセドニアに居たのに、このままでは確実にマルクト側と見なされるでしょう。
 あー、面倒くさい。これで拒否したらきっと身に余る秘密を知ってしまったという理由で処分されかねません。
 ルークの元に戻りながらシンクとこそこそ喋ります。マルクト側につくならなんとしても秘預言は回避しなければなりません。
 秘預言通りにいけばマルクトは敗戦国ですからね。

 私の知る物語とも、シンクの知る前回の生とも、今回の生は大幅に変わってきています。
 シンクはシンクなりにこの流れを結構楽しんでいるようですが。
 でも問題はまだまだ山積みです。既存ルートを辿れない以上、適宜情報を小出しにする必要も出てきます。
 そのためには陛下とのパイプがあるのはありがたいんですが、情報源を明かせないのでこれはこれでまた面倒……。

 どうしたもんですかねえ。
 ケセドニアに戻って引きこもりたいです。
 あー、面倒くさい。

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