だから身分が違うんだってば。
ジェイドからの情報を得たことでセントビナーの地盤沈下を知らされた陛下は急ぎ救援隊を編成しました。
ゲームと違ってキムラスカが積極的に戦争を吹っ掛ける理由がないので今なら軍を派遣できるそうです。
キムラスカが偽姫のカードをマルクトにまで切ったお陰ですね。やっぱ悪手ですよね、あれ。
とはいえこのままでは連鎖的に大地が崩落しかねません。
陛下もそのことに思い立ったようで、急ぎダアトに情報開示を求める連絡を送ったようです。
ユリアシティとセフィロトツリーのことも私達と大佐から知らされているため、教団なら何かしらの情報を持っていると判断したようですね。
私とシンクは相変わらずルークの護衛として待機です。
時折情報が回ってきますが、それが着々とマルクトに取り込まれているようで心情としては複雑です。
王宮でいっそのことケセドニアに逃げることも視野に入れるか? とシンクと話している内にセントビナーの救援は完了。
非常に幸いなことに、崩落に巻き込まれる民はいなかったようです。
ゲームと違って導師救出の時間がなかったのと、人海戦術による救助が良かったのかもしれません。
しかしルグニカ平野一帯も崩落の兆し在りとのこと。これ流石にちょっとマズくないですか?
と、思っていたら導師からの要請でケセドニアにてマルクトとキムラスカの会談が持たれることになったそうです。
ルークも同行することになり、必然的に私とシンクも同行することになりました。
ただしあくまでもルークの護衛として、です。マルクトに着いた覚えはありません。
陛下も今はそれでいいと言いました。今はって言葉に含むところが見えて大変複雑です。
そうしてやってきたケセドニア。
護衛として同行しているフリングス将軍に情報収集を兼ねた一時帰宅を要請すれば許可されました。
まあ情報を共有することは求められましたが、それは予想の範囲内なのでまだ良いです。
帰宅後酒場に顔を出せばマスターは私の無事をそれはそれは喜んでくれました。
本気で心配してくれていたみたいで、神託の盾の横暴と親善大使一行のおかしさを積極的に拡散していたことを教えてくれました。
やっぱり私がここで情報を落としたことも影響してたみたいです。
お陰で国民の不満と王家に対する不信はかなり高まっている模様。それはそう。国民だって馬鹿じゃありませんからね。
ただ地盤沈下とアクゼリュスの崩落は民衆にも知れ渡っているらしく、今回の会談を戦々恐々とした気持ちで見守っている様子。
導火線に火がついている状態だとキムラスカが理解してくれなければ、不満が爆発して反乱に繋がるかもしれませんね。
集めた情報をフリングス将軍に共有しつつ、流石に会談の場には呼ばれることはなかったのでルークの護衛もここで終わりになりました。
ただファブレ公爵の元に帰されることになったルークとしては私たちに着いてきてほしかったみたいです。
いくらなんでも無茶なのでそこは頑張って説得しました。だから身分が違うんだってば。
そこから先は流石に私達も伝聞形式ですが、どうやら導師イオンによって大地の崩落の危機が示唆されたようです。
ただの傭兵に詳しい事情は説明されませんでしたが、ダアトに緊急対策チームの本部が置かれることが決まったとのこと。
まああそこが一番資料があるでしょうから妥当でしょう。
ルークはキムラスカ代表としてセフィロト巡りに行くことになったそうな。
原作通り、セフィロトツリーの制御のために抜擢されたのでしょう。アッシュも居ませんし。
確かヴァンの手によってプロテクトがかけられていましたものね、セフィロト。
それを超振動で無理矢理削って一括制御できるようにしていた筈。
同じ流れになったのは大佐あたりの入れ知恵ですかね。ただの憶測ですが。
ルークとしてはやっぱり私とシンクにも着いてきてほしかったようですが、流石に三か国合同の作戦に一介の傭兵を関わらせる許可は下りなかったようです。
それはそう。護衛はキムラスカとマルクトが出すそうですから、素直にそちらを頼って下さい。
シンクは遅まきながらファブレ家から護衛の費用を払われ、私も自主的にルークを護衛していた謝礼金をいただきました。
この支払いついでにルークから情報を漏れ聞いたんですけど……聞いてよかったんですかね。ファブレ公爵の眉間の皺、凄いですよ。
こうして私達とルークの繋がりは切れた訳ですが、その後のマルクトからの勧誘を断るのに随分苦労しました。
軍人なんてなりません。痛いの嫌いなんです。諜報部なんてもっと嫌です。
キムラスカ軍に入るつもりもないという言質を与えることでようやく引いてもらえましたが、フリングス将軍めちゃくちゃしつこかったです。
あんたはセシル将軍とイチャついてりゃいいんです。私達を巻き込むんじゃありません。
ようやく落ち着いた私とシンクはしばらくケセドニアでのんびりと過ごすことになりました。
土地柄ルークの快進撃の情報があちこちから入ってきます。頑張ってるみたいですね。
シェリダンでも何やら大掛かりな装置の開発が始まっているそうです。地殻振動停止作戦も同時進行ってことですかね。
ナタリア王女の名を語り王家を謀った平民が処刑されそうになり、逃げ出したようです。これはどうでもいい。
イオンからも手紙が来ました。神託の盾が大量に離反してひいこら言ってるそうです。
他にも当たり障りのない近況報告と、何か情報があったら買い取るから教えてほしいという内容でした。
今のところケセドニア周辺で盗賊崩れが大量に出たという話は聞かないという無難な返事を返しておきました。こっちはこっちで頑張っているようです。
アニスからも手紙が来ました。元両親は相変わらずで、私のことは伝えていないそうです。こちらは返事はしませんでした。赤の他人ですから当たり前ですが。
そんな各地の情報をちょこちょこ入手しつつ、たっぷり身体を休めた後は私とシンクも仕事に復帰しました。
またウエイトレスとして雇ってくれたマスターの懐の深さにちょっと泣きそうになりました。
けどその直後に面倒な情報収集の依頼を投げられて溢れかけた涙は引っ込みました。
この人情報収集の手段を手放したくないだけですね、これ。
実際ピオニー陛下と顔を合わせて導師イオンと手紙でやり取りできて、公爵子息と交流がある民間人なんて早々いません。
デメリットよりもメリットの方が多いと判断したのでしょう。
まあ酒場のマスターとしては当然の判断なので、私は黙ってウエイトレスに復帰しました。
世界は今激動の時代を迎えていますが、私とシンクはただの民間人です。
あとはもうなるようにしかなりません。私達が関わる必要もありません。
大地を降ろすのも、グランツ謡将討伐も、ローレライの解放も、後は偉い人たちが何とかしてくれるでしょう。
私達みたいな下々の人間は上の横暴にぐちぐち言いながら日々せっせと生きればよいのです。
そう思ってたんですけどねえ……。
「……お嬢、シンク坊。国からの依頼だ」
青い顔をしたマスターから差し出された依頼書と言う名の命令書に、私とシンクはまだまだ巻き込まれることを察して思わずため息が零れました。
蜜蝋で封のされた依頼書に目を通せば、地殻振動停止作戦のメンバーとして私たちの名前が推挙されたようです。
依頼書というか実質召喚状ですね、これ。シェリダンに来るように、という内容でした。
「……使い捨てにするには、まあ。ちょうどいいですからね。傭兵は」
「傭兵なのにそれだけ各国の重鎮から信頼されている、って考えないところが君らしいよね」
「ご冗談を。そこまで夢に溢れた若者じゃありませんよ、私は」
「本来なら若者なんだよ。君も、僕も」
「そういえばそうでしたね……」
シンクに言われて気付きましたが、私もシンクもまだ十代です。将来を期待されながらも未来のために経験を積む世代です。
でもなまじっかお偉い方々に関わってきてしまったがために、使い勝手のいい駒扱いされてる気がしなくもない。
いや、実際されてるんでしょうけども。
イオン辺りは本気で私達なら任せられると思ってるのかもしれませんが、多分マルクトは打算八割信頼二割。キムラスカはガチで捨て駒扱いといったところでしょうか。
マスターはまた怒ってました。怒ってくれるんだなあ、とちょっと感慨深くなりました。
三か国からの直々の依頼を蹴るわけにもいかず、私とシンクはシェリダンに向かうことになりました。
そこで告げられたのはやっぱり地殻振動停止作戦への参加命令でした。
地殻に降りるのは私とシンク、それからカーティス大佐とアルビオールです。凄い少人数です。
あらま、大佐も捨て駒でしたか。久しぶりに会った大佐は随分としおらしくなってました。
捨て駒扱いにも納得しているようです。まあ本来なら極刑ものの罪人ですからね。
一応私とシンクには報酬としてとんでもない金額を提示されましたが、どうせ断れないのでしょうと私達は素直に引き受けました。
成功すれば一生遊んで暮らせますよ。その場合ケセドニアにとどまることすら出来なくなるでしょうが。
いやだってそんな大金持って平素に慎ましくなんて暮らせませんよ。ただでさえこの世界って情報の秘匿が難しいのに。
飴に群がる蟻みたいにたかられるのが目に見えてます。どうあがいてもウエイトレスに復帰するの無理ですね、これ。
ヴァンからの妨害が予測されているとのことで、キムラスカ軍が常駐するシェリダンで数日過ごし、私達は地殻振動停止作戦に挑むことになりました。
最悪私達を見捨てても良いからアルビオールに乗って帰って来いと言われているノエルは大変肩身が狭そうでした。
せめて私達が居ないところで言ってあげなさい。私達が自分の立場を理解してるってノエルに解らせるためなんでしょうけど。
案の定、ヴァンによる妨害はありました。
あらかじめキムラスカ軍が配置されていたことでだいぶ被害は軽減されそうです。
ちなみに何の因果か地殻振動停止作戦に使われたのはタルタロスだそうです。
そういう運命なのかもしれませんね、この奈落の名を持つ戦艦は。
妨害を振り切り、戦艦に乗り込みます。極少人数でも動かせるようほとんどの機能を切り捨て、ただの船として動かします。
ある程度沖に出れば後は自動航行機能に任せればオーケーです。
後は時が来るのを待つだけになって、私とシンクは甲板でこっそり内緒話に勤しみます。
「来ますかねえ」
「来るだろうね」
「懐かれてたと思ったんですけどねぇ」
「だからって恨みを忘れられる訳じゃない」
「それは経験則ですか?」
「そうだよ。悪い?」
「いいえ。シンクの人生観に口を出すつもりはありませんよ。シンクの痛みはシンクだけのものですからね」
私の言葉にシンクは口を噤みます。
話しているのはラルのことです。
アクゼリュス以来、彼とは顔を合わせていません。
正直何故アクゼリュスで見捨てられたのか、未だに解っていません。
シンクにも言いましたが、懐かれてた自信はあったんですよね。
それなのに私は切り捨てられました。
あの子は何を考えているのでしょうか。
そんな風に考えてしまうのは、やっぱり彼がシンクのレプリカだからでしょうか。
「時間ならありますし、どうせなら探しときます?」
「どうせ時が来れば嫌でも顔を合わせることになるんだ。無駄な体力を使う必要はないだろ」
戦闘を避けようという私の提案をシンクは切り捨てます。
そして地殻へと潜った私達の前に、彼は立ちふさがりました。
帰還のための譜陣は案の定消されていました。
現れたラルにシンクが構えを取り、大佐が槍を取り出します。
私の中でラルへの情は確かにあるのでしょう。
けれど彼と心中する気はありません。
仮面越しに突き刺さる視線を感じながら、私もまた紙を構えました。
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