見てたなら助けてくれませんか!?



「シン……ッ、んっ、待っ、んぐっ」

 角度を変えて何度も降ってくる口づけにまともに声もかけられません。
 何でこのクソガキこんなキスがうまいんだ。
 時折漏れるシンクの吐息が色っぽくてむかつきます。
 あなたまだ十四歳でしょう!

 けれど抵抗したくとも縫い留められた手は拳を握ることも出来ず。
 体にかかる体重を押しのけるには罪悪感が邪魔をします。
 というか出会った当初ならともかく、今はシンクの方が体格が良いんですよね。
 幼い頃の栄養不足がこんなところで顕著に出ました。
 まさかそれがこんな結果につながるとは思ってもいませんでしたが。

「モカ」

 私を呼ぶ声が熱っぽくて、思わずカッと顔が熱くなります。
 オールドラントに来てから無縁だったときめきを覚えてしまって心臓がうるさいです。
 ……え? 私シンクにときめいてるんですか? なんで?

「無視するな」
「あ」
「僕を見ろ」

 手が解放されて、シンクの手で無理やり視線が合わされます。
 睨むように私を見降ろすシンクが居ました。
 その視線だけで人を射殺してしまえそうなほど強い視線でした。
 ……私だけを見ている視線でした。

「僕を見ろ、モカ」
「見、てます……」
「そう。なら覚えておきな。僕はもう、君を手放すつもりはない」

 熱烈ですね……。

「覚悟しておくんだね。逃げたら承知しないよ」

 私今愛の告白されてるんですよね??
 犯罪予告されてるわけじゃないですよね????

 口の端を上げて笑うシンクの顔は完全に悪役のものでした。
 散々しごかれたおかげでシンクには敵わないと叩き込まれています。
 この笑顔を見て逃げようなんて思いません。後が怖いので。

「とりあえず、どいてください。シンクの気持ちは解りました。ただ私は同意した覚えはありません。これじゃあ性犯罪者扱いされても文句言えませんよ、シンク」

 ひとまず現状を何とかしようと、努めて冷静に私の上からどくように言います。
 けれどシンクは私の言葉に目だけで笑い、私の耳元に唇を寄せてそっと囁きました。

「うそつき」

 その甘くかすれた声にぞわぞわとしたものが背中を駆け上がりました。
 なにを、と私が問い返す前に、シンクが私に覆いかぶさってきます。
 完全に全体重を預けられ、シンクの固い身体が私の動きを封じて。

「抵抗できるのに、しないくせに」
「あっ貴方相手に私が勝てるわけ、」
「勝てなくたって逃げることは出来る。君は小賢しいからね。でもしない。それが君の答えなんじゃないの」

 笑みを含んだ言葉が頭の中でリフレインします。
 どくんどくんと心臓が煩いです。
 え? 私ってシンクのこと好きだったんですか?

「ほら、しなよ。抵抗。出来るだろ? 僕を投げ倒せばいい。体術は散々教えたじゃないか」
「っ、」

 シンクの舌が耳を這う感覚に身体が跳ねそうになりました。
 同時に漏れかけた自分の声に慌てて口を塞ぎます。
 そう。私の手はもう自由なんです。それなのにシンクの言う通り、私は抵抗していません。
 何故?

「逃げないの?」
「っぁ」

 つう、と舌が耳たぶをなぞる合間に囁かれる声が奇妙に甘ったるい。
 ぞくぞくと背中を駆け上がる感覚にぎゅっと目を瞑ります。
 シンクは自分の下でびくびくと震える私を見て笑っているようです。
 じんわりと目尻に涙が浮かびかけたところで、シンクの片手が私の内腿を撫でて……。

「そこまで許した覚えはありませんが!?」

 気付けば反射的にシンクを投げ飛ばしてました。
 ああ。できましたね、抵抗。
 ひらりと着地したシンクが楽しそうにくすくすと笑っています。

「やっぱりできるじゃないか、抵抗」
「ええ、どこかの誰かさんのお陰でね!」

 やけくそ気味に言いながら体を起こせばシンクがベッドに近寄ってきます。
 来るんじゃありません。もう流されませんよ。

「続きはまた今度ね」
「しませんが!?」
「覚悟しとくんだね」

 だからもうそれ愛の告白じゃなくてただの犯罪予告なんですよ。
 脱力する私の肩にぽんとシンクの手が置かれます。
 誰のせいですか。睨みつければシンクはまた楽しそうに目を三日月の形にします。

「流石に僕も見られながらする趣味はないからさ」
「は? え、あ」

 シンクの言葉にどういうことかと眉を顰めます。
 目線だけで促された先を見れば、ベッドの上に胡坐をかいて膝に肘をつき、掌に顎を乗せたラルがこっちを見ていました。
 心なしか呆れたような目でこっちを見ている気がします。

「終わった? 続けるなら僕移動するけど」
「見てたなら助けてくれませんか!?」
「そいつじゃなくて僕が良いってこと? それとも僕も混ざれってこと?」
「一言も言ってませんが!?!?」
「混ぜる訳ないだろ、馬鹿?」
「人が寝てる横でおっぱじめようとしたアンタに言われたくないね」

 恥ずかしがる素振りすらないラルとしらっとしたシンクに思わず頭を抱えます。
 このクソガキ共置いてケセドニア帰っちゃダメですかね、私。
 シンクとラルの嫌味の応酬が始まりますが、流石に止める気力がわきません。
 同時にシンクに促されるまで抵抗しなかった自分に気付いてしまって、それが意味することを理解したくない自分が居てそちらに手いっぱいです。

 だって癪じゃないですか。
 いくら回数を忘れるくらいループしてるからといっても、年下のシンクに全部引っ張られるなんて。
 私だって前回の生を合わせればそれなりの年齢なんですよ?
 いえ、子供だ子供だと思っても彼の精神年齢は肉体年齢にそぐわないものだと解ってはいるんです。
 けどそれはそれとして年下にリードされるのはちょっと、というか。
 ああ、いえ、全部言い訳ですね。自分の気持ちを認めたくないだけです。

 はあ、とため息がもれます。
 ひとまず拳が出る前にシンクとラルの喧嘩を止めねばなりません。
 ちょっと乱暴になっても、まあ……仕方ないですよね。今回は。



 それからその日は三人で同じ部屋で眠って、翌朝にラルは出頭していきました。
 ヴァンの計画全部ぶちまけて情報提供の代わりに罰を軽くしてもらいなさいと背中を押しました。
 ラルは最後に私にぎゅうとしがみ付くと、最後の念押しとして私がダアトにとどまるかどうか聞いてきます。
 なのできちんとラルが出てくるのを待っていると言えば、何度も振り返りながら神託の盾へと向かいました。

 しばらくしてからラルが神託の盾に捕縛されたという連絡が届きました。
 イオンが気を回してくれたのかもしれません。
 落ち着いているので、私なら面会はいつでも可能との伝言も貰いました。
 たまには顔を見に行きましょうか。いえ、同じ顔は隣に居るんですけどね。

 それと一緒にしばらく待機していて欲しいと頼まれ、私は素直にそれに従っておきます。
 ついでに地殻であったことの詳細な報告書を書き出し、時折昨日話したことの再確認に来る教団員さんに渡しておきます。
 昨日は私が乱入してしまい急遽話がスライドしましたが、まだ外殻大地降下作戦は終わっていません。
 そのための会談はまだ続いているようですし、ヴァンの討伐だってしなければなりません。
 まだまだ問題は山積みです。頑張って解決してください。私の仕事は終わりました。もう引き受けませんよ。

 ただシンクからのアピールが凄いです。
 当然のように同室で寝泊まりする気のようで荷物も運んできました。
 私はまだ返事をしてないのに当然のように日常の合間にキスをされます。
 抵抗しないなら同意したも同然と言わんばかりのこの態度!
 女の扱いにも慣れてますし、絶対どこかのループでヒモかツバメでもやってたでしょう!?

 隙あらば手を出そうとしてくるシンクと攻防しつつ引きこもっていた私ですが、更に翌日の会談の後から急速に教団員たちの間に困惑が広がったのが解りました。
 世話係のように食事を運んでくれたり、伝言を持ってきてくれていた教団員がちらちらとシンクに視線を寄越すんです。
 ああ、イオンが自分がレプリカだと暴露したのだなと解りました。シンクも疑われてるんでしょうね。
 一応イオンよりシンクのほうが背が高いんですけどねえ。
 多分これフリーダムに生きてるせいでストレスから解放されたお陰ですよ。
 ただ年齢的に体格がそこまで差がないんですよね。元々筋肉がつきづらい身体なのかもしれません。
 シンクがスピードファイターなのもそのあたりが原因でしょうか。
 更に背が伸びても鈍重型になるのは無理かもしれません、

 さて、教団は騒がしいですがラルの面会くらいは行きましょうか。
 面倒事に発展するかもしれませんし、シンクに留守番をしているかと聞いてみればついてくるとのこと。
 図太いですね。実際部屋から出ても周囲の視線なぞ知ったこっちゃないと言わんばかりの態度です。
 まあシンクが良いなら良いんですけど。
 周囲から突き刺さる視線を感じながら神託の盾本部まで歩いていると、背後から声がかけられました。

「ヒュー? ヒューレンかい?」
「レンちゃん?」

 振り返らなくても解ります。オリバーとパメラです。
 私はそんな名前ではないので無視して歩きます。
 なのにぱたぱたと足音がしたかと思うと、オリバーに腕を掴まれて振り返らざるをえませんでした。
 これが嫌で引きこもっていたというのに、何故ピンポイントで会ってしまうのか。
 うんざりとした顔の私と違ってオリバーとパメラはぱあっと顔を明るくします。

「ヒューレン! ああ、ヒューレン。心配していたんだよ」
「良かった。もう会えないかと思っていたのよ。アクゼリュスには行っていないって言うし、一度も連絡もなくて……っ」

 私はオリバーの手を振りほどき、抱擁しようとしてくるパメラを避けます。
 拒否されると思っていなかったのか、困惑する二人に淡々と返しました。

「申し訳ございませんが、人違いでは? 私はトモカ。ケセドニアの傭兵です。あなた方なんて知りません」
「ヒューレン!?」
「レンちゃん!? パパとママのことを忘れてしまったの!?」

 驚く二人を置いて、失礼とだけ残してさっさと歩きます。
 だから嫌なんですよ、この町は。


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