会議は踊る。されど進まず。
「久しぶりだっていうのに随分と冷たいじゃないか」
「感動の再会でもしろっていうんですか」
「まさか。君はあの二人に対して昔から一貫してるよね」
「正常な親という生き物を知っている身としては、あれは親になってはいけない人種だと思ってますので」
「ふうん。それは前の両親?」
「そうですよ。私にとって父と母は前の世界での両親です」
呆然としていたオリバーとパメラを置いて神託の盾に向かいます。
そもそも家族というものを知らないシンクは私の発言にふうんと返すだけでした。
神託の盾の受付でラルと面会したいと言えば、あっさりと押されました。
この辺りもイオンが話を通してくれていたのかもしれません。
面会室に連れてこられたラルは私を見てパッと顔を明るくしました。
囚人だからでしょう。服装も質素で仮面も付けてません。
けどその髪型は一緒なんです? 囚人でも髪のセットってできるんですか?
面会室と言ってもガラス越しではなく、普通にテーブルを挟んで向かい合って座れます。
けれどラルはぎゅむっとしがみついてきます。
はいはい、嬉しいんですね。
「思ったより元気ですね、ミストラル」
「メシはまずいし聴取以外は暇だけど、まあ悪い扱いはされてないよ」
そう言ってラルはすぅーと私を吸います。何故。
シンクによってベリッと剥がされたことに少し不満げでしたが、ひとまず互いに席に着きました。
ああ、譜術封じの腕輪はつけっぱなしなんですね。そりゃ剥がされるしかないか。
「乱暴にされていたりしませんか?」
「特には。元々部下だった奴等も多いし、導師がレプリカのこと公表しただろ? どっちかっていうとどう扱って良いか解らないって空気が伝わってくるかな。あと……」
「あと?」
眉尻を下げたラルが困惑気味に言います。
「なんか……書類の書き方とかについて相談に来られる」
「あなた一応罪人ですよね?」
「だよね。僕も思わず罪人に情報漏洩するなって怒っちゃったよ」
それもうただの上官なんですよ。
シンクなんてため息ついてますよ。
それからシンクに説明されたのを聞くに、神託の盾は元々実力主義を敷いているそうです。
正規軍ではないので文字の読み書きができない志願兵も採用します。
そのため戦うことは出来ても書類関係は苦手とする兵士が大変多いとのこと。
ある程度大きい街でないと幼年学校なんてありませんからね。
それは仕方ない。
ただそのせいで士官学校で読み書きを習った後も苦手意識を持ち、書類関係は嫌がる人が多いそうです。
シンクもラルも最初から文字の読み書きは刷り込みがされていました。
それに師団長候補としてそのあたりは徹底的に仕込まれたそう。
そのためバッサバッサと書類を捌ける、神託の盾の中でも数少ない人間なんだとか。
だからってとっ捕まった元上司に報告書の書き方教わりに来るんじゃありません。
「ただ残ってた面子からして、どうも書類関係に強い人間が居ないみたいでさぁ」
「ああ、多少頭が回る奴は全部ヴァンが引っ張っていっただろうし、残ってるのは教団への忠誠心が揺るがない愚直な馬鹿か、ヴァンが引き取る価値もないと判断した馬鹿しか居ないからね」
全部馬鹿ってことじゃないですか。
シンクの神託の盾馬鹿呼ばわりはともかくとして、今の神託の盾は辛うじて体裁を整えているものの、実情は大混乱だそうです。
そりゃまぁ上層部と兵士の大半がごっそり抜ければそうもなる。
ラルが帰ってこなければ全員でひいひい言いながら書類に慣れるしかなかったのでしょう。
しかしいざとなれば助けてくれる元師団長が居ると解って……甘えてるんだろうなあ。
「いっそのことモースに全部丸投げしちゃえばどうです?」
「あれが奏将としてちゃんと働くなら僕はこんな苦労してない」
「確かにね。奏将なんて名ばかりのデブだもんね」
緑頭たちのモースへの評価が辛いです。
一応私が知る限りモースはヴァンの上司だった筈なんですけどね。
とはいえ書類を持ってくる兵士の方々はラルのことをレプリカだからと蔑んだりしないそうです。
実力主義が身に沁みついているので、レプリカだろうと何だろうと生き残った者勝ちなんだとか。
名前もシンクではなくミストラルで通しているそう。
流石に書類上は無理でしょうが、通称が変わっただけでもラルとしてはだいぶ気持ちが変わるのではないでしょうか。
でも聴取してる相手に名前を書き間違えたミスを指摘されるのは流石にどうかと思います。
そんな感じで近況報告なんだか愚痴なんだかよくわからない話を聞きつつ、精神的には安定しているように見えるラルに密かに胸を撫でおろします。
きちんと聴取にも応じているようですし、これなら極刑なんてことにはならなくて済みそうです。
まあ本人は暇だってぶーたれてますけども。
面会時間は然程長くありませんが、なるべく足を運ぶと言えばラルは嬉しそうでした。
次は差し入れに本でも持ってきましょうか。情緒を育てられるような物語が良いですかね。今まで無縁だったでしょうし。
本人が思っていた以上に喜んでくれたから、というのもあって私は連日ラルの元へ足を運びました。
シンクは毎回付いてきます。そして毎回ラルと言い合いになっています。貴方何しに来てるんですか?
オリバーとパメラも私が神託の盾に通っていることに気付いたらしく、待ち伏せしてくるようになりました。
ヒューレンと呼ばれても返事をしてやるつもりはありません。私はトモカなんです。
貴方達とは赤の他人です。
私がオリバーとパメラに辟易している間にも会談は続いています。
会議は踊る、されど進まず。そんな感じのようです。
そのためにローレライの鍵と宝珠を調査したいと言われて貸し出しました。
純粋な第七音素の結晶のようなものらしく、まさしくローレライの名を冠するに相応しいアイテムだとのこと。
間違いなくローレライから託されたものだと判定を貰い、私の発言も信憑性が増した様子。
あ、まだ疑われてたんですか。まあ当然でしょうが。
詳細な報告書も出してあるのですが、たまに会談の場に呼ばれて再度話を聞かれたこともありました。
ただ話せることは全て話してるんですよね。これ以上は逆さに振っても出てきません。
その間もイオンは預言は未来の選択肢の一つでしかない、と一貫して主張しているようです。
その先に滅亡があるのであれば未来は人の手で切り開くべきであるとも。
これを機に教団の体勢も変え、死の預言や危険な預言は秘匿することなく回避できるように動いていくべきではないかとも言ったそうな。
ピオニー陛下もこれに賛同してくれているとのこと。まああの人ならさもありなん。
教団員達は多少困惑しながらも導師がそう仰るなら……と頭ごなしに否定する様子はない様子。
イオン、頑張りますね。まだ勉強中でしょうに。
ただストレスため込んでるみたいなんですよね。
たまには茶しばきに部屋に来ますが、愚痴がすごいんですよ。
なんでも大詠師モースはイオンの言い分に大反発しているそうです。
預言は順守されるべきであり、ユリアの預言は人類の繁栄を詠んだものであるのは間違いない。
だから私の言葉は地殻にローレライが居るところまでは本当でも、預言に関しては疑わしく信じるに値しないと。
ま、これも筋は通ってます。ローレライの鍵や宝珠はローレライの存在しか裏付けてくれませんから。
キムラスカはどちらかといえば大詠師寄りのようです。
ちらほらとレプリカであるイオンを軽視している部分が見て取れるとのこと。
キムラスカは未曾有の繁栄が詠まれた側ですからね、繁栄の言葉を信じたいっていう思いもあるんじゃないでしょうか。
私からいわせりゃそれを自力で何とかするのが国王の義務じゃろがいって感じですが。
ところでそれ私に漏らしていいんですか?
私もシンクも弁えてるから問題ないと。そうですか。
私が仕事で諜報活動もしてるって解ってます?
言っときますけど元職場のマスターに請われたら流しますからねこの情報。
まあケセドニアに届く頃には鮮度も落ちて情勢が変わってる可能性大ですけど。
そんな明らかに一介の傭兵が知るべきではない情報を漏れ聞きつつ、ダアトでのんびり過ごしてます。
体もすっかり癒えましたが、一応教団側からの待機要請が解けてないんですよね。
ラルのこともありますけど、いつまで居ればいいんでしょう?
会議はいつになったら終わるのでしょうか。
あ、アッシュ捕まったんですか。お疲れ様です。
ベルケントに居たそうで、白光騎士団に取っ捕まったそうです。
情報収集のために立ち寄ってたのかもしれませんね。
日課となりつつあるラルとの面会のために神託の盾に足を運べば騎士団の人が教えてくれました。
確かにここ数日で随分仲良くなりましたがそんなこと私に伝えていいんですか?
あ、イオンからの伝言でしたか。そうですね、宝珠渡さなきゃですもんね。
ダアトに連れてこられるらしいので、その時に押し付けなければいけません。
今日はオリバーとパメラに会うこともなく、ラルと面会室で顔を合わせます。
聴取も終わって暇を持て余しているラルに本を差し入れます。
最近では読書の合間に団員の人達と組み手をしたりもしているそうです。
あなた罪人ですよね??
そんなんで大丈夫なのか神託の盾騎士団。
私が他人事ながら神託の盾のぐだぐだっぷりに頭を抱えていると、ふよふよと紙が飛んできました。
私の使う紙人形とよく似た紙は私にぺちりとあたってテーブルに落ちました。
手に取って見ればそこにあったのは「たすけて」という走り書き。
自分の紙人形を確認しますが、全て揃ってます。なくした覚えはありません。
思わずラルとシンクと顔を見合わせます。
嫌な予感がします。
妙な胸騒ぎに眉を顰めていると、面会室の扉が勢いよく開いて騎士団の人が駆けこんできました。
「大変です! 導師イオンがかどわかされました!!」
……だから、何故、それを私たちに言う????
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