お互い様ですね。


 イオンがかどわかされた。
 その報告を持ってきた神託の盾兵は、眉を顰めるラルを見ていました。

「それを僕に言ってどうするのさ! 上官に報告しろ上官に!」
「その上官が大詠師の命令を受けて導師をかどわかしたのです!」
「それかどわかされたって言うの?」

 思わずという風にシンクが突っ込みます。私も同意です。
 しかしどうやら大詠師の命令に従っているのは過激な大詠師派か、大詠師に借金をしている兵士のみとのこと。
 実際大詠師は導師の私室に押し入り、止めようとした導師守護役が攻撃をしたため、彼は大詠師による反逆と判断したようです。

「師団長! お願いします、指揮を執って下さい!」
「……僕は罪人だってお前も解ってるだろ」
「誰も居ないんです! 師団長、導師をお助け下さい!!」

 いつの間にか面会室の外に集まっていた兵士たちが口々にラルのことを師団長と呼びます。
 結構慕われてるじゃないですか。
 ラルがレプリカだと避けられなかったのも、元々の信頼があったからかもしれませんね。
 ラルはしばし葛藤していましたが、ガシガシと頭を乱暴に掻きました。
 そして立ち上がると次々に指示を出していきます。

「すぐに詠師トリトハイムに報告、それから今一番階位が高い……そう、お前だ。一時的に僕に指揮権を貸与することを宣言。僕の指揮下に入っていいという奴を急ぎかき集めろ。この際箝口令は敷かなくていい、導師守護役の手当は?」
「手すきの教団員が当たっています!」
「緊急時につき、導師奪還までシンク元師団長に指揮権を譲渡します!」
「確かに引き受けた。この際疑惑でもいい、大詠師が何故この時期に導師をかどわかしたか少しでも情報を集めろ。手当てを受けている導師守護役達からも聞き取りを。僕が使っていた部屋はそのままだね?」
「はい。すぐに団服もお持ちします」
「移動する。とにかく少しでも関係があると思しき情報は片っ端から持ってこい!」
「「「はっ!」」」

 貸与どころか譲渡されてるじゃないですか。
 そのことに呆れながらもラルは黙って指揮権を引き受けました。
 そして譜術封じの腕輪を自分で外してポイっと近くの神託の盾兵に投げ渡します。
 自分で外せる譜術封じの腕輪の意味とは。
 自由になった手首をぐるりと回しながら、ラルは私達を見て言い放ちました。

「悪いけど、手伝ってもらうよ。人手が足りないからね」
「依頼っていうなら引き受けてもいいけど?」
「そうですね。流石にここで見て見ぬふりは胸が痛みます」

 ラルに続いて立ち上がりながら、私達は導師奪還作戦に急遽組み込まれることになりました。
 以前ラルが使っていたという参謀長のための部屋に移動してから、ラルも団服に着替えます。
 詠師トリトハイムも現れ、大詠師が導師をかどわかしたという事実に苦虫をかみつぶしたような顔をしていました。

「……今は神託の盾の指揮をとれる人間が居ません。非常時の特例措置として、詠師トリトハイムの名でシンク謡士の一時的な神託の盾復帰を認めましょう」
「確かに承った。終わったらさっさと独房に帰るからね、僕」
「ええ、勿論です。あくまで非常時の一時的な措置ですから」

 奇妙な会話の後、続々と集まってくる情報を全員で精査します。
 参謀総長のお仕事は情報を精査してまとめることです。
 しかしラルはそこからの作戦の立案なども任されていたそうで。
 十四歳に責任重大な仕事を任せすぎでは?
 シンクの助言と導師守護役の証言から、どうやら大詠師は導師に惑星預言を詠ませる気なのではないかという推測が立てられました。
 ……あ、ザレッホ火山のイベントか!

「ラル、シンク。どこかこう、隠し部屋みたいな場所はありませんか? 邪魔が入らなさそうな、それと人質がとっておけるような部屋です」
「人質?」
「私に紙人形が届いたでしょう」

 詠師トリトハイムへの状況説明も兼ねて、私は助けてと走り書きされた紙人形を取り出します。
 私が使う紙人形は、人形士パペッターの力を応用したものです。恐らくこの紙人形が飛んできたのも同じ絡繰りでしょう。
 三人の視線がそこに集まったところで、原作知識を元にした憶測を口にしました。

「紙を飛ばしてきたのは恐らく人形士のアニスです。導師守護役として導師を守ろうにも、オリバーとパメラを人質に取られているのかもしれません。確か大詠師に借金を肩代わりしてもらっていたはず」
「なるほどね。となると……確か、図書室に隠し通路があった筈だ。ザレッホ火山に通じてる。おあつらえ向きに罪人用の檻もある」
「すぐに兵を派遣しましょう」
「いや、僕とトモカとコイツで行く。あそこは道中の魔物が手強い。今の神託の盾じゃ足手まといにしかならない。詠師トリトハイムはこのまま情報収集と指揮を頼みたい。もし何か別の情報が入ったらそっちに兵を回してよ。教団内の隠し部屋に潜んでるなら今の兵の練度でもなんとかなる筈だから」
「……解りました。イオン様を頼みます」

 理路整然と並べられたラルの言葉に詠師トリトハイムは静かに頷きました。
 眉間の皺が凄いです。不本意なんだろうなあ。
 ラルは改めて指揮権を返上した後、立ち上がった私達ににやりと笑いました。

「着いてこれないなら置いていくからな」
「誰に向かって言ってんのさ」
「私もスピード型ですから、お気遣いなく」
「マルクトとキムラスカへの対応はこちらでします」

 詠師トリトハイムの言葉に頷き、私達三人は一気に部屋から飛び出しました。
 一応スピードには自信があったのですが、ラルも結構早いですね。
 曲がり角も勢いを殺すことなく壁を足場にして一気に突き進みます。
 音素による筋力強化を存分に駆使しながらたどり着いた図書室で、隠し通路に通じる本棚があっさりと破壊されました。
 隠し通路の意義とは?
 というか本が傷むなんてレベルじゃありません。
 オールドラントじゃ古書なんて貴重品でしょうに。

 殆どスピードを殺さず隠し通路に飛び込み、途中ホーリィボトルを使用して魔物との戦闘を極力避けます。
 なんか大きい魔物も居ましたが、脇を通り抜けてスルーです。
 ちんたら相手なんてしてられません。

「邪魔だよ!」
「命が惜しかったらどきな!」

 更に進んだ先に居た神託の盾兵はラルとシンクの蹴りによって吹っ飛ばされました。
 容赦がないですねえ。する理由もありませんが。
 ついでに紙を飛ばして第一音素による足止めもしておきます。
 やらないよりマシ程度でしょうが、時間稼ぎの一助にはなるでしょう。

 そうしてたどり着いた空間では、アニスがちょうど蹴っ飛ばされているところでした。
 ……ツインテールがありません。リボンはどうした? 髪を降ろしている……わけでもない。

「アニス!!」

 視線だけ動かして声の主を探せば、巨大化したトクナガに押さえつけられたイオンが居ました。
 その背後には檻に入れられたオリバーとパメラ。
 再度アニスを見ればその髪は短くざんばらで、彼等に切られたのだと嫌でも解ってしまって。

「モカ!!」

 シンクに呼ばれましたが、気付けば私はアニスの側に立っているモースに突っ込んでいました。
 その巨体を蹴り飛ばし、くの字に身体を丸めてか細い息をするアニスの側に立ちます。

「お……ね、ちゃ……」

 微かに聞こえるアニスの声。
 それを上書きするようにガシャガシャと鎧を鳴らして私を取り囲む神託の盾兵。
 しかしそれもラルとシンクによって吹っ飛ばされます。
 頼もしい子供たちです。ありがたいですね。今ちょっと冷静じゃないので助かります。

「アニス」

 しゃがみこんでヒールをかければ、血の混じった咳をするも呼吸音が僅かにましになりました。
 全快とはいきませんが、ある程度回復したのでしょう。
 ほろほろと涙を流しながら、アニスが私の方に手を伸ばします。

「お、ねが……いお、さま……」
「ええ、解ってます。もう大丈夫ですよ」
「……うん」

 その涙をぬぐうために頬に手を伸ばせば、アニスは嬉しそうに頷いて私の手に頬ずりしました。
 そのまま長く息を吐いて意識を落とすのに合わせ、トクナガから解放されたイオンが駆け寄ってきます。

「アニスは!?」
「気を失っただけのようです。ご無事で何よりです、イオン」
「アニスが守ってくれたんです。ただオリバーとパメラを人質に取られて……トクナガを使って僕と二人を守るアニスに、モースが、兵たちに命令して、暴行を……」
「事情は分かりました。安全を確保するまでオリバーとパメラの近くに居て下さい。分散されるとまた人質に取られかねません」
「解りました」

 アニスを抱えてイオンと共にオリバーとパメラの近くに行きます。
 澱の中にいる二人はある意味安全なので放置です。
 なんか喚いてますが知りません。

 沸々と湧き上がる怒りを堪えながら広場を見渡します。
 ラルとシンクが神託の盾兵を制圧しています。
 あの調子ならすぐに完了するでしょう。
 その奥で私に吹っ飛ばされたモースが身体を庇いながらよたよたと起き上がっています。
 ああ、まだ意識があったのか。

 手早くそちらに足を向ければ、モースは忌々しそうに私を睨みつけました。
 私の蹴り一発で満身創痍ですか。よく奏将を名乗っていたものです。
 敵意を失っていないことだけは評価しましょう。
 お互い様ですね。

「おのれ……っ、よくも邪魔してくれたな、孤児風情が。私はユリアの預言を」
「そんなことどうでもいいんですよ」
「ユリアの預言を侮辱する気か!? これだから学のない傭兵など、」
「るっさいなぁ……」

 舌打ちが漏れます。
 いけません。シンクの癖が移ったかもしれません。
 でもまあ、たまにはいいですよね。

「とにかく捕縛します。なにせ導師誘拐の現行犯ですからね。多少痛めつけても問題ないでしょう?」
「なっ、待て、私はユリアの」
「音素爆発……連撃、行きます」

 フォンスロットを全開にして胸の前で拳を打ち付けます。
 今更青い顔をする男に、私は感情のままに秘奥義を叩き込みました。

 無様に吹っ飛ぶ大詠師。
 辛うじて生きてるだけでしょうが、問題ありません。

 ざまあみろ!

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