失礼ですね、失礼すぎます。



「いらっしゃいませー」

 ドアが開かれ、カランコロンとドアに付けられたカウ・ベルが鳴ります。
 反射的に笑顔で声を上げれば驚いたようなお客様。その反応にももう慣れました。
 仕事を始めてもう一週間経ちますが、殆どのお客様は初対面の私の存在に驚きます。早く慣れてください。

 あれから必要なものを揃えた私達は、早速仕事を始めました。
 シンクは今船の護衛の仕事に出ているのでケセドニアにはいません。
 多分明日には帰って来るんじゃないですかね。

 まあシンクはさておき、お客様が席に着いたので喫茶目的のお客様だと解ります。
 傭兵の仕事を探されているお客様は大抵カウンターに来られますから。
 後カウンターに座るのは常連のお爺ちゃんがたぐらいです。
 お水を出して注文をとってからマスターに告げ、他のお客様の注文品を席へと運びます。
 忙しいですが、てんてこ舞いというほどではありません。
 マスターも私が働くのを見て驚いてました。

「アンタも笑えるんだなぁ……てっきりずっと無表情なのかと」

 そう驚いてました。私をなんだと思ってるんですか。失礼ですね。失礼すぎます。
 こちとら中身は日本人です。スマイルゼロ円は接客業の基本ですよ。
 だいたい表情が動かないのは動かす必要が無いからです。
 驚く時は驚きますし笑う時は笑いますよ。

「お嬢! 追加注文や!」
「はーい、畏まりましたぁ」

 ちょっぴり語尾を延ばすのは堅くなりすぎないためです。
 ハキハキ答えては逆にお客様に拒絶感を与えてしまいます。
 こういったフランクなお店にそんなお堅い感じは要りません。
 必要なのは親しみやすさと話しかけやすさですね。

 新しい注文を受けてマスターに告げると、またカウ・ベルが鳴ります。
 いらっしゃいませ、と笑顔で言えばそこには三日前に仕事を引き受けていった傭兵さんがたがいらっしゃいました。

「お嬢! 帰って来たぜ!」
「あらまぁフランツさん、お帰りなさい。ご無事のお帰りで何よりです。今ランチやってますよ」
「んじゃAランチくれや! 大盛りでな!」
「プラス50ガルドですが、良いですか?」
「どんとこいやぁ!」

 豪快に笑うフランツさんたち。
 何でも砂漠に出る魔物の討伐に出ていたそうです。
 ケセドニアという場所柄でしょうか、傭兵は砂漠の魔物や盗賊討伐ができるようになればようやく一人前だそうです。
 シンクも早く行けるようになると良いですね。

「マスター、A大盛り四つです」
「はいよっ、ほら、二番のB二つできたぞ!」
「はい、ありがとうございます」

 手書きの注文伝票を壁に張り付け、二番テーブルにBランチを二つ運びます。
 それからお勘定をしている間にAランチも出来上がり、お盆を四つ持ってテーブルへと運びます。
 フランツさん、何でそんなハラハラしてるんですか。
 落としたりしませんから落ち着いてください。

「お待たせいたしました、Aランチセット大盛りを四つです」
「お嬢、頼むから二回に分けて運んでくれねぇか。見てるこっちが怖い」
「これくらい序の口ですよ?」

 というか、そのお嬢ってのやめてくれませんかね。
 先日仕事を探しに来た時ちっこい店員が増えたと笑っていたフランツさんでしたが、いつの間にか呼称がお嬢になってます。
 確かに私は童顔です。この店に就職する時も念のためと言って年齢確認のために旅券を見せるよう言われました。
 身長も一四八センチから伸びません。せめて一五〇は欲しかったのですが、叶いそうにないです。
 でも確かに一五〇もないチビ助が大盛り乗っけたお盆を四つも持ってれば怖いですかね。

「落としたりしませんから、ご心配なく。それより早く食べないと冷めますよー」

 そう言って食事をするよう促し、仕事に戻ります。
 五時を過ぎるとお酒が解禁されるので、その時間になるとちらほらお酒目当てのお客様も来店されます。
 その時間帯になると選手交代、私はキッチンに篭ります。
 マスターがカウンターに出てシャカシャカカクテルを作るのです。
 私はおつまみを大量に作りおきしておき、ようやく仕事は終了です。
 大体ダアトで働いていた頃と変わりません。

 傭兵業の受付というのはまだ慣れませんが、強面のおじ様方も借金取りの人たちで慣れてるのであまり怖くありません。
 でも適切な仕事を割り振れるようになるのはまだまだ先でしょうね。
 こればかりは経験と知識がないとどうにもなりませんから。

 六時を過ぎてマスターに挨拶をした後、夜勤の店員さん達に引継ぎをして職場を出ます。
 居るじゃないですか、店員。そういったら昼は居ないんだと笑われました。

 表通りで店を閉めるために安売りしてる屋台から晩ご飯の材料を買って帰宅です。
 住宅街の方に足を運べばこっちはとても静かです。私もシンクもこの静けさが気に入りました。
 夜にも煩いのはゴメンです。だって寝れないじゃないですか。
 それに比べたら多少遠いのなんてへでもありませんよ。

 と、思ったら何故か家に音素灯の灯りがついてます。
 音を立てないようそろそろとドアを開けたら、椅子に座ってお茶を飲んでるシンクが居ました。

「おや? 帰りは明日のはずでは?」
「積荷が早めに入ったとかで、船客も居ないしさっさと帰ってきた」
「そうでしたか。お帰りなさい」
「…………」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」

 おや、ただいまもなしですか。良い度胸ですがまあ良いでしょう。
 シンクが居るなら今日の晩ご飯は二人分ですね。材料足りますかね。

「そういえばさっきのドアの開け方は何さ? 忍び込むわけじゃないんだから普通に開ければ良いだろ」
「空き巣でも居るのかと思ったんですよ」
「ぶちのめせ」
「無茶言わないで下さいね。私はか弱い一般市民ですよ」
「か弱い? 君が?」

 キッチンに立って晩ご飯を作っていると、嘘付けと言わんばかりのシンクがカウンターに移動してきます。
 嘘じゃありませんよ。荒事は一切できません。何の訓練も積んでいませんし。
 というかマスターといいシンクといい、私を一体なんだと思ってるんでしょうね。失礼ですね。失礼すぎます。

「アニスみたいに人形使ったりとかできないわけ?」
「できませんよ。大体何の訓練もしてないのにできるわけ無いでしょう」

 野菜を切りながら言えばシンクが何か考え込み始めます。
 嫌な予感がします。ここは聞こえないふりをするべきでしょうか。
 アーアーキコエナイ。

「明日休みだよね?」
「そうですね」
「じゃあちょっと身体鍛えようか」
「どこら辺がじゃあなのかが解りません。脈絡が無さ過ぎます」
「僕が居ない間に本当に空き巣が入ったらどうするのさ。僕の貯金も全部この家にあるのに」

 成る程、財産を守るためにも私も護身術くらい覚えろということですか。
 それなら納得です。でも身体鍛えるとか面倒です。
 さっさとケセドニア銀行の口座開設しましょうよ。
 そしたら貸し金庫だって借りれますし、お金だって預けられます。

「それがなくとも身体を鍛えることにデメリットなんてないし、そうしよう、うん」

 なんか一人で納得してますが、私の意見は無視ですか?
 まだ頷いてません。了承してません。
 でもこの勢いだと無理矢理鍛えられそうな気がします。
 私も働いてますが、お給料が出るのはまだまだ先です。
 スポンサーであるシンクには逆らえないのです。こんちくしょうめ。

 結局シンクに鍛えられることになり、格闘技全般を叩き込まれることになりました。
 でも正直肉弾戦とか無理です。痛いの嫌です。
 そう言ったらフォンスロットこじ開けられて(目茶苦茶痛い!)譜術を覚えろと言われました。
 第一、第三、第六、第七が使えそうです。
 治癒術あるならもっと過酷でも平気だよねって言われましたがそんな事ないです。治るとしても痛いのは嫌です。

 肉弾戦は嫌なので何か武器を持つべきか悩みましたが、何かこうしっくりくるのがありません。
 剣や譜銃、槍なんかだとシンクの師事も受けられません。
 なのでない頭をこねくり回し、人型に切った紙を武器として使うことにしました。
 アニスのトクナガと同じです。トクナガと違って使い捨てですが数で押すことができます。
 譜術もこの紙を媒体にして発動します。

 あれですね、何か陰陽師みたいですね。
 そう言ったらシンクが変なものを見る目で私を見てきました。
 やっぱり失礼です。失礼すぎます。このクソガキが。


戻る
ALICE+