私、戦えますが。
ぱちりと目を覚ませば、そこはレムが燦々と降り注ぐ平野でした。
平原のど真ん中に本気で一人放置されるとは……。
そう思うものの打ち合わせ通りといえばその通りです。
よっこいしょと身体を起こして周辺を確認します。
うん、想定通りですね。
まったく、あの意識集合体は少しばかり他力本願が過ぎませんか?
ため息交じりに立ち上がれば慢性的な気だるさと吐き気に身体がずっしりと重くなったような錯覚を覚えます。
そっとお腹に手を添えつつ、側に落ちていた剣を黙って腰のベルトに差しました。
剣を下げた左腰が重いです。重心がぶれます。
格闘技をするのならば致命的なハンデです。
捨てちゃダメですかね、コレ。いえ、駄目だって解ってはいますけども。
はあ、とため息を一つ。
幸いここいらならばレベル差もありますから戦闘になっても問題ないでしょう。
この程度のハンデはあってないようなものです。
仕方ないのでこのまま目指しましょうか、コーラル城。
前は魔物に捕まって運ばれたので自分の足で歩いて向かうのは初めてです。
ちょっとお散歩気分、なんてのんびり歩いていたら背後から声をかけられました。
「おい、アンタ!」
その声にゆっくりと振り向けば、そこには奇妙な集団が居ました。
神託の盾兵に導師守護役、挙句の果てにはローレライ教団の導師様。
そしてキムラスカの貴族にマルクトの兵士。やっぱり意味が解らない集団ですね。
コスプレが趣味の集まりだと言われた方が納得できるかもしれません。
私は奇妙な集団の先頭を歩いていた見事な赤毛の青年に声を返しました。
「何か御用でしょうか?」
「アンタこんなところで何してんだ? こっから先はウチの別荘しかねえぞ」
「ウチ……もしやファブレ家のお方ですか?」
「ん? ああ、そうだけど……ルークだ。ルーク・フォン・ファブレ。あんたは?」
そんな軽々に名乗っちゃダメでしょ貴方。
心の中だけで突っ込みつつ、貴族に名乗られ名前を聞かれた以上私も名乗り返す他ありません。
軽く頭を下げて膝を降りながら簡易的な礼を取ります。
「トモカと申します。場所が場所ですので簡易的な礼でお許しください」
「それは別にいいけどよ。アンタ顔色悪いぜ、大丈夫かよ?」
「病気ではありませんので、お気になさらず」
「そうか? で、こんなところで何してんだ?」
「コーラル城を目指しておりました。人を探しに。多分そこに居ると思うんですが……」
声をかけてきたルークに初対面の対応をしつつ、コーラル城を見やります。
まだ遠いですが外観は見えています。
お化け屋敷と言われた方が納得できる廃墟はとても貴族の別荘には見えません。
私達のやり取りを聞いて、神託の盾兵らしき女が口を開けました。
「コーラル城で待ち合わせをしているのなら、引き返した方が良いわ。カイツール軍港を襲った妖獣のアリエッタが人質を取ってあそこを拠点にしているようだから」
「ご心配ありがとうございます。自衛は出来ますので大丈夫です。しかしカイツール軍港を襲撃、ですか…………物騒ですね」
色々と突っ込みたい。
神託の盾兵がキムラスカの軍港に襲撃とか最早宣戦布告では?
しかも人質取ってキムラスカ貴族の別荘に立てこもりなんて、軍が出動してもおかしくないのでは?
しかしその言葉を呑み込んで当たり障りのない言葉だけ零しておきます。
なにせ現在RTA中ですからね。余計な面倒は起こさないに限ります。
ご忠告はありがたく受け取りつつ一人コーラル城を目指そうとしたのですが、そこで待ったがかけられました。
どうせ行く先が一緒ならと、一緒にコーラル城に向かうことを提案されました。
その方が安全だろ? って言いますけど、今の私多分貴方がたより強いですよ。
しかしここで断るのは不自然ですかね。
私も万全とは言えませんし、行く方向が一緒なら同行するのが自然でしょうか。
少し考えてから頷いた私に、それならとルークが戦闘になったら私にイオンと一緒に後方に居るように言いました。
おっと、戦力外告知ですか?
「私、戦えますが」
そう言えばルークは顔を眉根を寄せます。
「そんな顔色の悪い奴を戦わせられるかよ。ここいらの魔物なら俺達だけで平気だ、アンタは後ろに居ろ」
「その……後で罰せられたりとか」
「はぁ? する訳ねーだろ。良いから下がってろ。邪魔だ」
「ちょっとルーク」
「解りました。ありがとうございます」
あらま、優しいですね。
うっとうしそうに手を振るルークに頭を下げて礼を言います。
そのまま陣形を少し変えて進むことになり、自然と全員と自己紹介を交わしました。
ガイ・セシル。ティア・グランツ。ジェイド・カーティス。アニス・タトリン。そして導師イオン。
ようやく名前が呼べますね。
私の記憶と違ったらどうしようかと思ってましたが、全員同じ名前のようです。
あとこのオールドラントではタトリン一家は一人娘のようです。
私をお姉ちゃんと呼んでこないアニス、新鮮ですね。
サクサクと草を踏みつつお喋りをしながらコーラル城を目指します。
魔物が視界の端で逃げていくのを見つつ、歩きながらお喋りです。
多分向こうからすれば情報収集も兼ねてます。
不審がられないよう、素直に答えておきましょう。
「戦えると言っていましたが、トモカは剣士ですか?」
「いえ、この剣は預かりものでして。戦闘ではモンク兼人形士、といったところでしょうか。譜術も使えるので前衛後衛どちらもできますよ」
「人形士? でも人形連れてないよね?」
「私の人形は使い捨てなんです」
イオンから想定内の質問が来ました。
素直に腰に佩いている剣は預かりものだと答え、アニスの質問には腰のポーチから紙人形を取り出します。
音素を付与して宙に浮かせれば全員の視線が滞空する紙人形に注がれます。
「へぇー、そんな使い方もあるんだ」
「面白いな。これで戦うのか?」
「はい。色々使えて便利ですよ」
「紙なんてすぐ破れちまうだろ、本当に戦えるのか?」
「ふふ、試してみますか? 恐らくルーク様より強いですよ、私」
「はぁ? お前みたいな小さい奴に負けるほど弱くねぇっつーの!」
「おぉっと。ルーク、人は見かけによらないもんだぜ? 案外本当に俺達より強いかもしれないぞ?」
私の言葉に機嫌を損ねたルークを、ガイがからかいまじりに宥めにかかります。
その様子に小さく笑みを零しつつ、雑談を交わしながら歩いている内にコーラル城に付きました。
案の定、道中魔物は一切近寄ってきませんでした。
当たり前ですね、レベル差ありすぎますもの。
「どうだルーク、何か思い出さないか?」
たどり着いたコーラル城の入り口でガイがルークに声をかけています。
その横でコーラル城を見上げれば、中に感じる魔物の気配。
……ここで会えるといいんですが。
「探し人は居そうですか?」
「居る筈なんですが……」
声をかけてくる大佐にそう答えますが、どうやら不信感を抱かれているようです。
まあ当然ですね。廃墟となった貴族の別荘で探し人なんて怪しさしかありませんから。
「こんなところで待ち合わせなど、何故そんな危ない真似を?」
「待ち合わせをしているわけではありませんよ。探しているんです」
「どなたを?」
「夫を」
私の言葉に全員がぎょっとするのが解りました。
ルークの記憶はもういいんですか?
目を丸くしたルークが声をひっくり返して言います。
「お前結婚してたのかよ!?」
「してますよ。これでも十七歳ですから、おかしくないでしょう?」
「しかも同い年かよ。見えねー……」
「奥さん放り出してこんなところに居るなんて、あんまり良い旦那には思えないが」
「こちらにもいろいろ事情があるんですよ。私は中に入りますが、皆さんはどうしますか?」
確かに私は小さいですが、そこまで驚くことですかね。
いつまでも動かないので先に行ってしまおうかと声をかければ、全員中に入るそうです。
ならさっさと行きましょうか。
未だ驚きの目で見てくる面子を置いてさくさく進もうとします。
しかしやっぱりイオンと一緒に居るように言われました。
ですから戦えるんですけど、私。
あちこち探索しながら進んでいる内に、封印された扉のようなものを発見しました。
解呪に必要なものを魔物が持っているということで討伐しようという流れになりましたが、そこに待ったをかけます。
そんな面倒なこといちいちしてられませんよ、めんどくさい。
私は全員に下がってもらうと、扉を叩いて強度を確認します。
うん、問題ありませんね。
「ルーク様、この扉。壊しても?」
「へ? あ、ああ……別にいいけど、壊せるのか?」
「はい」
扉の前で半歩片足を下げ、手袋を嵌めなおして腰を落とし構えをとります。
まさか、と全員が驚いたところで私は筋力強化した拳を思い切り叩き込みました。
派手な音を立てて吹っ飛んでいく扉。
崩れた壁岩がいくつか転がり落ちましたが、部屋そのものが崩れる様子もありません。
ぽっかりと開いた入り口に、私は振り返って声をかけました。
「開きました」
「開きましたっつーか、空けたっつーか……」
「うっはー……すご」
「……旦那、マジで俺達より強いかもしれんぞ」
「ええ、見事な一突きでした」
全員呆然としています。
というかドン引きしています。
何でですか、この方が都合が良いでしょう。
動かないなら一人で行くと言えば、慌てて全員ついてきました。
流石にもうイオンと一緒にはされませんでした。
だから戦えるって最初から言ってるでしょうに。まったく。
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