必ず助けます。



「なあ、お前たちは……何なんだ?」

 イオンとぎゅっぎゅっとし合って落ち着いたらしいルークから、当然の質問をされました。
 その疑問に行きつくだけの冷静な思考回路が戻ってきたのだと見て良いのでしょうか。

「僕もお聞きしたいです。そもそも、シンクは一体どうしてしまったんですか? 僕は兵士ではありませんが、それでも解ります。貴方はあそこまで強くありませんでした」

 イオンもまた同じ質問を飛ばしますが、それはルークよりも具体的なものでした。
 シンクは以前の自分と比較したイオンに笑いながら、僕は僕だよと煙に巻くように言います。
 けれどイオンは引きません。ルークの手を握りながら今度はラルを見ます。

「それに導師イオンのレプリカは七体しか作られなかった筈です。十三番目なんてありえない」
「だろうね。僕は特別さ。そこのトモカと一緒でね。いうならば世界の異物ってヤツ?」
「世界の、異物……?」
「ねえ、もうここで話しちゃおうよ」
「それも悪くはないね。実際、ルークの協力は欲しい」
「そうですねえ……長い話になりますよ。聞きたいですか?」

 ラルとシンクの言葉を検討してイオンとルークに確認を取れば、二人は唇を引き結んでしっかりと頷きました。
 なのでラルに飲み物のお使いだけ頼み、私も椅子を持ってきて二人と相対する形で腰を下ろします。

「荒唐無稽な話になりますが……まず私とラルはこの世界の人間ではありません。こことは別のオールドラントからやってきました」
「……ど、どういうことだ?」

 当然分岐世界のことなんて解らない二人は既にちんぷんかんぷんです。
 イオンも口にこそしませんが頭の上にクエスチョンマークを浮かべています。
 そりゃそうですよね。だから長い話になっちゃうんですよ。
 いわゆるパラレルワールドの概念がオールドラントにはありませんからね。

 でも人が知覚していないだけで、オールドラントには多くのパラレルワールドが存在します。
 私達は既に外殻大地を降ろし、預言から外れた未来を受け入れたオールドラントから来たんですよ。という説明をじっくりと時間をかけて二人にします。
 外殻大地云々を言うと更に面倒になるので実際言いませんでしたが、要は違う未来を辿ったオールドラントから来たんだよと解ってもらえれば結構です。

「つまり、貴方はこの世界の人間ではない……?」
「その認識であっています。この世界ではイオンレプリカは七体までしか作られなかったようですが、私達の居た世界ではもっと作られていたんです。それでラルが産まれたんです」
「あ、頭がこんがらがってきた……」

 まだ序盤も序盤ですよ。大丈夫ですかルーク。
 ひとまず私達が生まれ育ったオールドラントをα。今居るオールドラントをβと呼称しましょうか。
 オールドラントαではあらかたの問題が解決して平和に暮らしていたんですが、オールドラントβから要請を受けて私達はこの地に降り立ちました。

「要請、ですか? 一体誰が?」
「ええ、ローレライです」
「ローレライ……てーと、確か。七番目の音素意識集合体……だっけか?」
「そうです。かつてユリアと契約したと言われていますが、未だ存在は確認されていません」
「ローレライは実在します。私が持っていた剣、あれがローレライの剣です。シンクがローレライの剣で刺されて平気だったのは、あれが第七音素の塊だったからです。まあレプリカだから出来る荒業ですね」
「ああ……レプリカは第七音素のみで出来ていますから」
「そういうことです。私とラルはオールドラントβには存在しないので身体ごとこちらに移転してきましたが、シンクはαとβ両方に存在します。そのためβシンクにαシンクの記憶をインストール……注入するために刺したんです」

 要はローレライの宝珠が記憶のバックアップで、剣が接続装置です。
 シンクが突然強くなったのも、αシンクの経験値が加算されて一気にレベルアップしたからですね。

「あんたたちが違う世界から来たってのは解ったけど……じゃあ何しに来たんだ?」
「簡単に言えば、このまま預言に従っていると世界が滅んでしまうのでそれを阻止して欲しいと要請されました」
「世界が滅ぶぅ!?!?」
「どういうことですか!?」
「第七譜石にそう詠まれてるんだよ。もっともその第七譜石もとっくに地殻に沈んでるから、確認のしようがないんだけどさ」

 ラルが買ってきた飲み物をカップに注いだシンクが私に渡しながら口を挟んできます。
 いや、私だけじゃなくて二人にも分けてあげなさいよ。

「地殻……? 何故そんなところに」
「元々はホドにあったんですよ。でもホドが消滅して、地殻に沈んでしまったんです」
「ち、地殻ってなんだ……?」

 ルークの質問にシンクが答えるのを聞きながらコップに口を付けます。
 一応二人の分もあったようで、ラルが二人に紅茶を配ってました。
 ああ、中身が違うんですね。私のはカフェインレスでした。お気遣い感謝です。

「そしてローレライも地殻に居る」
「ローレライまで!?」
「ローレライは預言を覆して人類が存続して欲しいというユリアの願いを叶えたいんです。そのために地殻に居たんですが……もう時間がありません」
「パッセージリングの耐用年数を考えると、アクゼリュスが崩落してしまえば人類は滅亡に向かって一気に進むことになる。それを阻止して欲しいっていうのが僕等への依頼なわけ」
「ア、アクゼリュスって、確か障気が出てるっていう……」
「はい。マルクトが和平を申し込んで住民の救助を行おうとしていた、鉱山の町です」

 時折質問こそ挟みますが、ルークって今まで教えられてきたことはきちんと覚えてるんですよねえ。
 地頭が良いんでしょうね。そんな彼を勉強嫌いにさせた家庭教師はどれだけ無能なのか。

「アクゼリュス……崩落するのか? たくさん人が居るんだろ?」
「……ルーク、落ち着いて聞いてくださいね。ユリアの預言には、聖なる焔の光が鉱山の町を消滅させる、と詠まれています」

 ひゅ、とルークが息を呑みました。
 ようやく戻ってきていた顔色がまた青くなっています。

「何青くなってんのさ。僕たちはそれを阻止しに来たって言ったろ」
「あっ。そ、そうか。そうだよな。そうだった」
「しかし、何故……?」
「それにより開戦してキムラスカが勝つって詠まれてるんですよ。大詠師が熱心にキムラスカに通ってるのはそのせいですね」
「まさか! モースは秘預言を持ちだしているんですか!?」
「そのまさか」

 今度はイオンが青ざめる番でした。二人ともさっきから忙しいですねえ。
 まあ内容が内容ですから仕方ないのかもしれませんが。
 あとそろそろキャパシティオーバーしそうなので、少々強引ですが話を締めたいと思います。

「ルーク。一気に話しましたが、いきなりこんなことを言われても信じられないと思います。ですからよく聞いてください」
「な、なんだよ……」
「カーティス大佐が持ち込んだ和平にはアクゼリュスの救助が盛り込まれています。キムラスカはこれ幸いと和平の話を受け、貴方を親善大使としてアクゼリュスに送ろうとするでしょう」
「!」
「そうなった時こそ、私達の話を思い出してください。そして私達を呼んで下さい。何とかします」
「なんとかって……どうするんだ?」
「そのための仕込みは既にされてるからね。僕がローレライの剣を取り込んだのは、何も記憶を植え付けるためだけじゃないってこと」
「よ、呼べばいいんだな? わかった」
「無理そうなら貴方のお父上に自分はレプリカだとバラせば恐らく動きは止まる筈です。キムラスカはアクゼリュスの崩落が未曾有の繁栄への第一歩だと信じてますから。ただそうなると貴方の扱いがどうなるか解らないので、無理はしないでください」

 私の言葉にルークはぎこちなく頷きました。
 これで最悪の事態は避けることが出来るでしょう。

「それともう一つ。貴方には更に辛い話になりますが、落ち着いて聞いてくださいね」
「なんだよ……まだなんかあるのかよ」
「貴方を作った人、誰だと思いますか?」
「誰って……そういや、誰だ?」
「七年前、アンタが誰に救助されてきたかくらい聞いてるだろ」
「そりゃもちろん、ヴァンせんせ……ヴァン師匠が俺を作ったっていうのかよ!? 嘘だろ!? 適当なこと言うな!!」

 思わずと言った風に立ち上がったルークに怒鳴られます。
 けれど以外にもそんなルークを止めたのは隣に座っていたイオンでした。

「……ルーク。僕を作ったのも、僕の被験者とディスト……そして、ヴァンです」
「……うそだろ」

 イオンの言葉に脱力したルークが、ぽすんと腰を下ろしました。
 頭を抱えてしまったルークにイオンがそっと寄り添います。

「なんで……なんで、ヴァン師匠が」
「良いですかルーク。もしヴァンが貴方を誘拐したのが自分だったとか。アクゼリュスで障気を消せば英雄になれるとか。そんなことを言いだしたら従順に頷くふりをして距離を取って下さい」
「待ってください。ヴァンは一体何を企んでいるんですか? ルークを使って何をしようとしているんです!」
「……そこまで話してしまうと更に混乱しませんか?」

 憤るイオンにルークを視線で指せば、これ以上ルークの負担になる話は避けたいという意思は伝わったようです。
 その意図を正しく読み取ったイオンは唇を噛んで俯いてしまいました。

「それは……そう、かもしれませんが」
「ひとまず、ここまでにしましょう。一気に話しましたし、ルークだって全部信じられないでしょう?」

 私の言葉にルークはのろのろと顔を上げました。
 一気に憔悴したルークが小さく頷きます。

「お前らが嘘ついているわけじゃない……とは、思う。けどヴァン師匠が俺を利用しようとしてるってのも、信じたくねえ」
「それは当然の感情です。人を好きになることは悪いことじゃありませんから、無理にヴァンを疑えとも言いません。ですが、私が言った通りになったら……私達のことを思い出してください。必ず助けます。そして貴方に協力してほしいことがあるんです」
「ファブレの力が必要ってことか?」
「いいえ、ルークである貴方の力です」
「俺、レプリカなのに?」
「ルークはルークなんでしょう?」
「……わかった。言われた通りになったら、お前らに連絡すればいいんだな?」
「はい。私達もこれからバチカルに向かって宿を取りますので」
「なら、その時になったら人をやる」
「はい。お願いします」

 ルークの了承を得たことで、話はここで切りです。
 二人に疲れただろうから良かったらベッドを使うように言うと、揃って同じベッドにもぐりこみました。
 仲が良いですねえ。
 いえ、これ共依存の開始になりそうですね。
 適度なところで止めましょう。
 そう思っていたらもそもそとベッドにもぐりこんだルークが、うっすらと目を開けながら最後の質問を投げかけてきました。

「なあ」
「なんです?」
「なんで……この世界のこと、助けてくれるんだ?」
「勿論、私達にも利益あってのことですよ」
「利益?」
「個人的なことです」

 そう答えて私は自分のお腹を撫でました。
 後ろからシンクに抱きしめられ、シンクもまた私のお腹を撫でます。

「守りたいものがあるんだよ」

 そう答えたシンクに二人はそれ以上何も言わず、黙って目を閉じました。
 ゆっくり、おやすみなさい。


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