私のせいじゃありません。



 ND2018になりました。
 けど私もシンクも相変わらずケセドニアで暮らしています。
 当たり前ですね、関わる気皆無ですし。
 どこぞのダアトの一兵卒がファブレ邸に襲撃をかけようと、そのせいで一人息子である公爵子息が誘拐されようと、私にはなんら関係のないことです。
 知っているのに事件を防げないとか、そういうことに関して胸が痛んだりとかはありません。
 ケセドニアの場末のウエイトレスが何かできるとも思いませんし。

 ちなみにシンクはティアがファブレ邸襲撃犯だとは知らなかったらしく、私から聞いて目を点にしていました。
 その後の愚痴から察するに、ティアの尻拭いに毎回苦労していた模様。
 どこかで出会っても出会い頭恨みを込めて拳を握らないで下さいねって釘を刺したら、多少の嫌がらせくらいは許されるよねと笑顔で返されました。
 この瞬間、まだ見ぬティア・グランツは『盲目の拳闘士』として名を馳せるようになったシンクの標的となりました。
 ある意味私のせいですが、元を辿れば自業自得なので同情はしません。ざまぁとは思います。

 まぁそんな感じで預言の年になろうと何だろうと日常生活を謳歌するつもりだった私ですが、一つだけ気になることがありました。
 チーグルの森の、ライガ・クィーンの件です。
 今思い返してみても、クィーンは完全に被害者でした。導師が関わったせいで更に酷い結末になったと言いますか。あれだけは気になります。胸が痛みます。
 シンクに個人的に依頼してでも何とかしたいです。

 なのでシンクに依頼しても良いかと夕食の時に聞いたところ、どうせならば休暇も兼ねて一緒に園芸部に行こうかという話に。
 私も着いてくるなら依頼費用は雑費及び足代だけで良いそうです。
 魅力的な提案ではありますが、私にも仕事があります。
 なのでマスターに相談すれば、それならば有給使って行って来いと言われました。

 待ってください。有給なんてあったんですか。
 そう聞けば一年以上勤務した人間には有給をつけてるそうです。
 契約書にそんな文字はありませんでした。説明もありませんでした。
 説明してなかったか悪い悪いなんてあっさり言わないで下さい。
 本当に悪いと思ってないでしょう、貴方。

「でもまぁ、嬢が今まで真面目に勤めてくれてたのも事実だ。一回も休んだことないしな。ここでちょっくら休んで英気を養ってくればいい。なに、まだ若いんだ。ちょっとくらい羽目を外したって誰も怒りはしないさ」

 胡乱げな目を向ける私に対し、マスターはそう言いながら私の頭をわしゃわしゃと撫でます。
 これは……多分、本気で言ってくれています。
 最年少コンビということで何かと気にかけられることが多かった私とシンクですが、それでも仕事である以上子ども扱いされることは殆どありませんでした。
 なのにいきなりこの扱い。何か裏でもあるのでしょうか。

「……何か企んでますか?」
「なに、帰ってきたら依頼を受けてくれれば良い。ちょっとばかし面倒だが、嬢なら問題ないだろう」
「やっぱり企んでるんですね」

 笑っているマスターは隠す気すらありません。
 しかしまぁくれるものならば貰います。貧乏性ということなかれ。
 仕事の都合上レムデーカンの上旬中は無理でしたが、十九の日には私とシンクはケセドニアを出ることができました。
 ところでルークとティアが超振動起こすのっていつでしたっけ?
 細かい日付まで覚えてないんですよね。
 レムデーカンノ二十何日だったかってのまでは覚えてるんですが。

 鉢合わせしませんようにと願いつつ、馬車に揺られて辿り着いた園芸部、もといエンゲーブ。
 やはり食料泥棒の被害にあっているらしく、町全体の雰囲気がピリピリしています。
 一応シンクが何事か聞く為に近場に居たオッサンに声をかければ、オッサンはシンクに久しぶりだな! と言った後に説明をしてくれました。
 シンクは傭兵になったばかりの頃、ケセドニアとエンゲーブ間の商隊の護衛をよく引き受けていたので、エンゲーブの人たちとも顔見知り(?)です。
 いえ、エンゲーブの人達は包帯を巻いた顔しか知らないので、顔見知りといって良いのか解りませんが、まぁ知り合いです。
 そのシンクの連れであることから私も疑われることなく、うまい食事にありつきたくてエンゲーブに休暇に来たと言えば皆さん笑ってました。

「というわけで、晩ご飯よろしくね」
「シンク、貴方そのためだけに私を同伴させましたね?」
「それ以外に何があると思ったわけ?」

 エンゲーブの新鮮な食材を使った晩飯をよろしくと平然とのたまったシンクに、そんな理由だったのかとちょっとイラっとしてしまいます。
 シンクは文句を言わずにご飯を食べるので私も黙々と作っていたのですが、次第にあれが食べたいこれが食べたいとリクエストされるようになりました。
 一年位前にトモカの料理が一番美味しいと言われてからはちょっと張り切って作っていた自覚はあります。
 その弊害とでもいいますか、シンクはやけに舌の肥えた子供になりました。今では細かいリクエストをされることも多々あります。
 食材の新鮮さに拘るようになったあたり、食通になる日も近いです。

 結局その日は屋台を見て良い食材を探し回り、残りの時間は宿屋のキッチンに篭って晩ご飯を作って終わりました。
 流石はエンゲーブ、食材の新鮮さと質が段違いです。
 ケセドニアにも流れてきますが、ここまで新鮮なのはやはり出産元ならではでしょう。
 そう言えば林檎屋のおじさんが林檎分けてくれました。気前が良いですね。
 ついでにセントビナーより流れてきた香草と調味料を使えばかなり良いご飯ができました。
 シンクもいつもより美味しい晩ご飯にご満悦です。
 満足したならクィーンの件もちゃんとお願いしますよ。
 エンゲーブに来た理由、忘れないで下さいね。

 翌日、シンクと私で観光と言い訳してチーグルの森へと足を運びました。
 シンクが任せろと言うのでチーグルの元へは行かずにそのままクィーンの元へと行ったのですが、驚きました。
 シンクも魔物とコミュニケーションが取れるそうです。
 何でも何回目かの逆行の時にアリエッタに教わったそうですよ。
 ただ魔物と一緒に育ったわけではないので、アリエッタのように従えるとまではいかないそうです。
 そこは群れで生きた実績がないとできない芸当なんですって。

 でもまぁ説得するなら充分すぎます。
 チーグルの森が危険なことと小賢しいチーグルのせいでクィーン達の危険が増していることを説明すると、クィーンは低い声で唸りました。
 気に喰わないだろうが群れの存続とアリエッタのためにも引いて欲しいとお願いすればクィーンが吠えます。
 そして立ち上がります。何だか嫌な予感がします。

「なんと言ってますか?」
「お前たちの言い分は理解した。だが被害を受けた我等が移動をするのは不条理極まりない。それでも我等を従わせようというのであれば、力を持って従わせてみせよってさ」

 流石は魔物。弱肉強食の世界です。しかしまぁ必要なことなのでしょう。
 群れを納得させるだけの材料を寄越せって事ですね。
 私も紙を構え、シンクも拳を握ります。
 タマゴを割らないよう気をつけつつ、クィーンを殺さないよう手加減するのは骨が折れましたが、何とか勝利することはできました。
 途中音素の調節を誤って思い切り巨木を殴り倒しちゃいましたが、結果オーライです。
 でもクィーン、腹を見せる必要はありませんよ、服従されても困ります。

「君の馬鹿力に怯えてるんだよ。いい加減音素の肉体強化くらいちゃんと調節できるようになったら?」
「そもそもの原因はシンクが無理矢理フォンスロット開いたからでしょう。フォンスロットが音素を取り込みすぎるのを調節するのって大変なんですよ?」

 そうなんです。シンクが無理矢理私のフォンスロット開いたせいで必要以上に音素を取り込んじゃうんです。
 フォンスロット開きすぎてバカスカ音素が出入りするって結構不便なんですよ。
 お陰で肉体強化の度合いが半端ないことになり、結果的に馬鹿力の持ち主になってしまったのです。
 だから私のせいじゃありません。えぇ、知りませんとも。

「とにかく……"勝敗は決した。ライガの群れはチーグルの森を去り、粘菌の森へと移住せよ"」

 シンクがそう言えば、クィーンが遠吠えを一つ。
 そうすれば森のあちこちからそれに呼応するように遠吠えが聞こえます。納得してもらえたようです。

「は?ちょっと待ちなよ、そんなの受けれな、っておい!!」

 クィーンがぐるぐると唸り、シンクの返事を聞く前に群れを率いて行ってしまいました。
 あれ? タマゴは?
 置き去りにされたタマゴの前でシンクが頭を抱えます。
 そしてため息をついた後、置き去りにされたタマゴを抱えて私の方へやってきます。
 何か嫌な予感がします。こっち来んなあっち行け。

「クィーンから伝言。自分が持ってくのは無理だから娘に……アリエッタに渡してくれ、ってさ。君が言い出してここまで来たんだから、君が責任もってよね」
「つまり私に丸投げするんですね」
「何か文句ある?」
「無いと思ってるんですか?」

 シンクに言い逃げしたクィーンが憎いです。折角助けに来たのに何この仕打ち。
 しかし私まで置き去りにするのは良心が痛むので渋々受け取ります。どうすんだこれ。
 確かセントビナーで神託の盾が検問敷きますよね。
 その時に渡しましょう、そうしましょう。
 お願いですからそれまで孵らないで下さいね。
 ライガの赤ちゃんの育て方なんて知りませんよ、私。

「あれ? 誰だお前ら。こんなとこで何やってるんだよ?」

 そんな中、赤い髪の青年が私たちを見て声をかけてきました。その手にはボロボロの木刀が。
 その背後には水色の仔チーグルを抱いた導師と、ロッドを持った神託の盾兵が一人。

「……読みがちょっと遅かったみたいですね」
「あれ?わざと無視してたんじゃないの?」
「……気配に気付いてたなら言ってくれませんか?」
「気付いてないとは思わなかったんだよ。帰ったら鍛えなおしね」

 ……何か墓穴掘った気分です。
 傭兵でもない私が何でそこまで鍛えなきゃいけないんでしょうか。
 いえ、ここ数ヶ月私の持つ力の特性上たまに依頼を受けることはありましたが、私は傭兵になった覚えはありません。あれは提示された給金が魅力的だったから受けただけです。
 私はただのしがない場末のウェイトレスですよ。
 だから私のせいじゃありません。

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