こっち来んなあっち行け。




 私とシンクであーだこーだと話していると、質問に答えろよ! と怒った青年(多分ルーク)が割り込んできます。
 後ろでやけに髪の長い陰気な雰囲気の神託の盾兵(多分ティア)がルーク! と声を上げたので確定です。

「貴方たち、ここで何をしているの? 弱いとはいえ魔物が出る森に一般人二人で足を踏み入れるなんて危険よ」
「僕達がここで何してようとあんた達に関係ある? 大体、僕達アンタより強いから。相手の力量も読めないド素人は黙ってな。軍人ごっこなら余所でやれ」

 ティアの剣呑な声に、シンクが鼻で笑って挑発します。
 拳を握らないだけマシなんでしょうが、シンクの態度にムッとするティア。
 明らかに二人の機嫌が急降下している模様。触らぬ神に祟り無しと私はそろそろと側を離れます。
 こっそりルークに近寄り、簡易的な礼をとった後こそこそと声をかけてみました。
 ルークも空気を読んでひそひそ声で話してくれます。いい子ですね。

「お初お目にかかります。トモカと申します。失礼ですが、お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「……ルークだ。なぁ、何でアイツあんなに不機嫌なんだ?」
「ちょっと訳ありでして。私達はライガ・クィーンの説得のためにここまでやって来たんですが、ルーク様達は何故このようなところに? 彼女の言う通り、弱いとはいえ魔物が出る土地です。キムラスカ王族であろう貴方がわざわざ足を運ばれるような場所ではないでしょうに」
「……なんで俺がキムラスカ王族だって思ったんだ?」

 しまった、失敗しました。話の流れ上必要な質問だろうと思って聞いてみたらちょっと警戒されちゃいました。
 でも隠しもしない貴方もいけないんですよ?
 シンクに食って掛かるティアを横目に私はルークを上から下まで見ます。



「軍人ごっこって、失礼ね! 私は神託の盾兵よ!」
「へぇ? 見えなかったよ。どう見てもド素人だし?」
「貴方みたいな子供に言われたくないわ!」
「だからさっき言っただろ? 君よりは強いよ、さっき言われたことも覚えてないなんて馬鹿じゃないの?」



 うん、やっぱり見る人が見ればバレバレです。
 ばれたくなきゃちょっとは隠す努力をしてください。

「一つ、赤い髪と緑の瞳はキムラスカ王族のみが持つ特徴です。どちらか一つならともかく、両方持っているのは王族のみです。二つ、服の質がかなり良いものです。かなりの上級貴族でない限り、こんな良い布をふんだんに使って奇抜なデザインを作ったりはしません。三つ、服についているボタンに家紋が掘り込まれています。これは……ファブレ家のものですね。キムラスカ王族にしてファブレ公爵の子息であるルーク・フォン・ファブレ様であると推察いたしますが、いかがでしょうか?」

 私の言葉にルークが目を見開き、自分の服をまじまじと見ます。そんなに予想外でしたか?
 せめてフードつきのマントくらい被った方が良いですよと言えば、気をつけるとのお返事。素直な子ですね。
 ヒートアップしているティアを横目にルークは私を見下ろします。



「武器一つ持っていない貴方達が強いなんていわれても説得力がないわ!」
「僕は拳闘士なんだよ。力量も測れない軍人もどきさん?」
「もどきですって!?」
「すぐにカッとなってる時点でもどきじゃないか」



「で、お前は何者なんだよ? クィーンを説得ってどういうことだ?」
「あぁ、大変失礼致しました。私はケセドニアでウェイトレスをしている一般市民です。休暇を利用してエンゲーブに小旅行に来た際、チーグルの森に寄ったところライガ・クィーンとお会いしまして。このままですと被害者であるクィーンが討伐されかねないので移住をお願いして了承して頂いたのです」
「は? てことはクィーンは?」
「無事粘菌の森へと移動してくださいましたよ」
「そっか。じゃあ討伐されずに済むんだな?」
「はい。あそこは滅多に人が近寄らない区域です。わざわざ討伐隊を出す必要性はありませんから」

 ホッとするルーク。心配していたんでしょうか。
 根っこは良い子のようです。七歳児ですし、こんなもんでしょうかね。
 顔を真っ赤にして怒鳴っているティアを横目に、ルークがおろおろしている導師にクィーンが移住したことを説明しています。



「いい加減にして頂戴! 初対面なのになんて失礼な子供なの!」
「それは失礼? 君に敬意を払う必要性を感じなかったんでね。大体先に食って掛かったきたのは君のほうだろ」
「私はあなたたちに忠告してあげただけよ!」
「忠告? はっ! あんな見下した言い方の忠告なんて初めて聞いたよ。アンタよっぽど人とコミュニケーションとれない性格なんだね。友達居ないでしょ。かわいそー」


 導師もホッとしています。チーグルは救われるんですね、って何ですかそれ。
 何かおかしい発言が聞こえました。

「そちらは導師イオンとお見受けいたしますが」
「はい。イオンといいます。貴方のお名前をお聞きしても宜しいですか?」
「トモカといいます。チーグルが救われるとはどういうことですか?」

 私の質問に導師は悲しげな顔をした後、チーグルの失態をつらつらと語ってくれました。
 えぇ、それこそチーグルが被害者のようにね。
 馬鹿ですか、馬鹿じゃないですか。一応全部知ってますが、言いたくなりました。
 全部チーグルの自業自得でしょう。

「時に導師、もしや貴方はチーグルの味方をするためにこちらに来たのですか?」
「はい。チーグルは教団の聖獣です。導師である僕が何とかしなければと」
「チーグルは加害者なのに?」
「……え?」

 やっぱり解っていませんでした。頭の中がお花畑なのかもしれません。
 ため息をつけばびくりと跳ねる肩。まぁ中身が二歳児じゃ仕方ないです。
 喚いているティアはさておき、2歳児にも解るようにチーグルがしたことを人間に例えて話してみます。



「貴方に私が友達が居ようと居まいと関係ないでしょう!?」
「馬鹿? 君の性格を見て友達作れないだろう、作れてもすぐ離れてくだろうって馬鹿にしてるんだよ。嫌味だってこともわかんないの? あ、もしかして本当に友達居ないんだ? よっぽど性格が悪いんだね! そんなヒステリー持ちじゃ仕方ないけどサァ」
「貴方よりマシよ!」
「残念、僕は仲間も友人も居るから。君と違って」



 導師がチーグル、クィーンがルーク、私がエンゲーブの村人です。
 そうやって知り合いに置き換えて話してやれば導師の顔はどんどん青くなり……やっと理解してくれたようで何よりです。

「で、クィーンをなんと説得するおつもりだったんですか?」
「この森から……出て行ってくれるようにと……」
「つまり、泣き寝入りをして出て行けって言おうとしたんですね」
「違います! 僕はただ、ライガがチーグルを狩るのは正常な食物連鎖の形ではないと!」
「導師はチーグルがライガより上位の魔物だと思ってるんですか? ライガがチーグルを餌にするのは正常な食物連鎖の形ですよ。人間のエゴでそれを壊せば生態系に異常が出ます。貴方がやろうとしていることは立派な間違いです」

 キッパリと言い切れば導師はしゅんとしてしまいました。
 ルークにあんまきつく言ってやんなよと怒られます。
 正論しか言ってませんよ。それにこの導師、何かムカつくんですよね。
 凄いエゴの塊です。しかも自覚がない辺りたちが悪い。

「それで導師、反省されるのは結構ですが、エンゲーブの被害に対する補填くらいはして下さるんですよね?」

 でもまぁルークに止められたので追い詰めるのはここらへんまでにして話題を変えれば、きょとんとした顔をされました。
 やっぱり解ってません。誰だ教育係。
 あとルーク、何故私をガン見するのですか。
 私の顔見てどっかで見たような、って呟かないで下さい。
 多分アニスを連想しているんでしょうが、今となっては赤の他人です。

「チーグルの被害を被ったライガの群れは存続のために移住を受け入れましたが、同じく被害を被ったエンゲーブにはどう落とし前を着けるのかとお聞きしてるんです。チーグルのことを導師が解決しなければならないのなら、勿論農作物を盗まれたことによる金銭の補填くらいはするんですよね?」
「みゅうぅぅぅ、お野菜を盗んだのはボクですの。だからイオンさんは悪くないですの! ホテンもボクがするですの。だから、イオンさんを責めないでほしいですの」
「……それも一個疑問なんですよね。何で野菜盗んだんです?」
「みゅ? 長老の指示ですの」

 私の質問に眩暈を起こしている導師の腕の中で、水色の仔チーグルが声を上げます。
 チーグルをまじまじと見つめた後、私が聞けば仔チーグルはあっさりと答えてくれました。

「ライガに差し出すために野菜取ってたんだろ? 何かおかしいのか?」
「おかしいですよ。ライガは肉食ですよ? それなのにわざわざ野菜を持ってくなんて、ライガからすればこんなもの食えるか! となるわけです。しかしエンゲーブでも被害に合っていたのは農作物のみ。家畜や肉の類が盗まれたなんて話は聞きませんでした。家畜は無理でも、血抜きをして販売されている肉ならチーグルにも運べるにも関わらず、です」
「あ……確かに、おかしいな」
「みゅみゅ? 長老、間違ってたですの?」

 小首を傾げる仔チーグルですが、いかんせん耳がでかいのでそのまま倒れそうです。見ていて非常に怖い。
 ティアをのしているシンクを横目に考え込んでいたら、何やら人が近付いてくる気配。



「あーもう、君うるさい。こんな森の中でキンキンした声で怒鳴らないでくれる? 魔物が寄ってくるだろ。軍人ならそれくらいの自制心持ちなよコスプレ軍人」
「誰のせいで……っ!?」
「あー……やっと静かになった」



 やば、立ち話なんてせずにとっとと立ち去るべきでした。逃げようとしても既に時遅し。
 案の定、茂みの奥から顔を出したのは帝国軍人とピンクの導師守護役の制服を着た子供です。アニスです。
 目を大きく見開いて固まってますねー。

「……お姉、ちゃん?」

 私、貴方なんて知りません。
 こっち来んなあっち行け。

「シンク、気が済みましたか? そろそろ戻りましょう」
「そうだね」

 私を見て呆然としているアニスを無視し、昏倒しているティアを置いて立ち去ろうとします。
 しかしそれを遮る帝国軍人。邪魔だどけ馬鹿この無能眼鏡。

「いやはや、随分な腕をお持ちのようで」
「ありがとうございます。随分長話をしてしまいましたのでそろそろ戻ろうと思うんですよ。というわけで失礼します」
「そうつれないことを言わないで下さい。こちらも色々とお話をお聞きしたいですし、ね」
「……のす?」
「シンク、相手は一応軍人です」

 シンクの端的な質問に私はため息混じりに応えます。
 お願いですからこんな所で問題行動起こさないで下さいね。
 そんな事をしているうちにアニスも復活したらしく、お姉ちゃん! と叫びながら走り寄ってきます。
 だーかーら、私貴方なんて知りません!!

「姉なのか?」
「いいえ。人違いじゃないですか?」

 ルークに聞かれたのでキッパリと答えれば、アニスが傷ついたような表情を浮かべながらも私の腕を取ってきます。
 そして私の顔をじっと見つめ、その黒い瞳に涙が溜まっていきます。
 あーもう、やめてもらえませんかね。ホント。

「お姉ちゃん、お姉ちゃんでしょ!?」
「私、貴方なんて知りません。離してもらえますか」
「その慇懃な喋り方も! それなのにちっとも表情が変わらないのも間違いなくお姉ちゃんだよ!! 二年前から変わらないじゃない!」

 アニスの悲痛な叫びに私はため息をつきます。
 導師とルークは私の態度におろおろし、帝国軍人は無言を貫き、シンクはにやにや……助けろ馬鹿!!
 仕方ないのでアニスの手を無理矢理振り払い、私はシンクに歩み寄ります。

「私はトモカ。ただの戦災孤児です。今はケセドニアでウェイトレスをしています。貴方の姉じゃありません。人違いでしょう。では、御機嫌よう」


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