最悪の守護者01


物心着いた頃から、俺の側には悪魔が居た。
正確に言うと俺が生まれた頃から悪魔は一緒に居たらしいが、俺が悪魔のことを知ったのは俺が作成(生ま)れてから2年ほど経った頃だ。
ルークと呼ばれることに違和感も無くなり、かつての自分と比べられる苛立ちしか存在しなかった日々。
そんな中、悪魔は突然姿を現した。

「初めまして、『ローレライの力を継ぐ者』。私はアルメフィリア、メフィって呼んで?
私は『絢爛の愚者』との契約により、貴方の守護をしている悪魔よ」

白いワンピースをふわりとたなびかせ、現れたのは今まで見たことが無いくらい綺麗な少女。
けど感じたことの無い異様な雰囲気と、初めて見る赤い瞳が凄く怖かったのを今も覚えてる。

メフィの言葉の意味は最初は全然解らなかったけど、メフィは俺が解らないことを笑うことはあっても馬鹿にすることは無かった。
そして俺が解るまで、ちゃんと教えてくれた。
前の俺と比較せず、俺が解るまで教えてくれる、俺だけにしか見えなくて、俺だけを見てくれる、ずっと俺の側に居る存在。
今思えば俺が傾倒するのは当たり前といえば当たり前で、メフィはそんな俺にどんどん新しいことを教えていってくれた。

俺がレプリカという人間じゃない第七音素の塊であること。
オリジナルと呼ばれる人間達がとても愚かなこと。
2000年前、ユリアが詠んだ預言には星の終焉が刻まれているということ。
そして預言に詠まれていないイレギュラーの存在ではあるものの、オリジナルではなくレプリカである俺が『ローレライの力を継ぐ者』として選ばれたこと。

メフィは、本当に悪魔だった。
俺以外の人間には姿を見せないようにしているらしく、俺が一人のときにのみメフィは現れ、また俺が慣れてきた頃を見計らって他の人間が居る時でも宙にふわふわと浮いていた。
地面に足をつけていないと、他の人間には見えないらしい。

時折メフィはフラっと姿を消すことはあったが、その度に父上がげっそりしていくので多分何かしているんだろうなというのはおぼろげながらに解った。
だってその時のメフィは凄く楽しそうだったし、メフィは自分が楽しむために誰がどうなろうと全く気にしないからだ。

だから、キムラスカの城の謁見の間に地殻に沈んでいたという第七譜石を丸ごと置いてきたり。
実はナタリアが本物の王女じゃないって伯父上に証拠付きで暴露したり。
家に来たヴァン師匠の背中に『少年愛』って書いた紙をこっそり貼ったりしていたと聞いても、あんまり他の人に迷惑かけちゃ駄目だぞとしか言わなかった。

被害が拡散するのはいただけない。
特に第七譜石を丸ごと置いて来た後は俺まで被害を被った。
勉強の時間が格段に増えたのだ。お陰でメフィと話す時間がぐっと減ってしまった。

けどこの勉強の時間が増えた事でまた、人間の社会は面倒、ということを知った。

メフィはやりたいようにやる。好きなことはするし嫌いなことはしない。
例えそれで人が死のうと気にしない、欲望のままに赴く正真正銘の悪魔だ。
けど人間の社会じゃそうはいかない、というのを俺は家庭教師たちに学んだ。
メフィは悪魔だけど俺は人間だ。人間社会で生きる以上、人間社会の常識を身に付ける必要がある。

人の命の尊さや大切さとか、いかに身分社会が理不尽で歪な構造をしているかとか。
大人の世界って言うのは醜悪で、権謀術数渦巻く王宮はその代表だとか。
実は俺のベッドに潜り込もうとする女性ってのは多々居たにも関わらず全部知らないうちに追い払われていたとか。(コレは多分メフィだ)

コレに関しては、俺はメフィを反面教師にすることにした。
本人にそれを言ったら頬を膨らませていたが、でも間違っては居ないわね、むしろまっとうな人間になりたいのなら正しい選択だと思うわ、と言っていたので間違っては居ないんだろう。
つまり好きな事だって我慢しなきゃ行けないし、嫌いなものもやらなきゃいけないってことなんだけど、公爵子息のレプリカなんだからそこは仕方ないのだろうと諦めた。

そして俺が一通りの勉学を収めた頃、確か俺が17歳になった頃だったと思う。
俺は産まれて初めて屋敷を出て、父上と共に登城した。
そこで聞かされたのは、キムラスカは預言脱却を図っているということ。
何でも第七譜石に世界の滅亡が書かれていたらしく、いくら預言が大切でも世界の滅亡にまで付き合う気は無いと結論を出したらしい(当たり前のことだと思うけど)。

そこで問題になるのが、預言に詠まれた俺の存在。
少なくとも預言では俺が鉱山の街を滅ぼすことで世界の滅亡を招くことになる、と書かれているらしい。
となれば俺を鉱山の街へ行かせるわけには行かないが、教団がどう出るか解らない。
だから軟禁は続けさせてもらうし、警備も厳重にするが自分でも周囲に気をつけるようにと、初めて会う伯父に言われたのだ。

それを聞いた俺の感想は、めんどくせぇ。この一言だった。
もういい加減、箱庭のような屋敷の生活から解放されたかった。
今までナタリアの突撃とか、他の貴族からのおべっかとか、軟禁されている筈なのに何故か回ってくる公務とか、のらりくらりとかわしていたがいい加減面倒臭すぎる。
なので俺はもう、自分がレプリカであるということを暴露することにした。

メフィが俺を守護している以上、屋敷を追い出されても、最悪殺されかけても何とかなるだろう、という打算があったことは否定しない。
父上と伯父上は俺の告白を聞いて最初は意味が解らなかったらしいが、レプリカについて説明した途端父上は顎を外し、伯父上は真っ青になってしまった。
そこから先のことは、言うんじゃなかった、と後悔するほど面倒になったことだけを記しておく。
ただ俺がレプリカだと暴露した時、メフィが腹を抱えて笑ってたのは聞いててムカついた。
俺だってお前みたいにフリーダムに生きてみたい。無理だろうけど。

レプリカであることを暴露してから二月後、俺はファブレ邸の第二子として迎えられた。
預言に詠まれていないキムラスカ王家の正当なる血筋、ということで結局解放して貰えなかったのだ。
レプリカだけど良いのかと聞いたこともある。

けど、
貴族達とやりあえてるし(のらりくらりと逃げてるだけ)、
勉強はそれなりにできるし(だってメフィを反面教師にしたら自然とそうなる)、
王家の血筋を引いてる割には病気一つしないし(父上に似たんじゃね?)、
やらなきゃいけない所とサボって良いところはきちんと見極められているから(ちょこちょこサボってたのばれてたらしい)、
と返事を貰った。

面倒から逃げ出したくて暴露した筈なのに何故こうなった?と首を捻る俺に、いい加減諦めろと笑いながらメフィが肩を叩いてきた時はちょっと殴りたくなった。

そうして訪れたND2018、俺の被験者はダアトに暮らしているらしいという報告を父上から貰い、へーふーんほーんとその話を流しつつ聞いていたのだが、どうやら被験者は勘当されるそうな。
俺が自分が産んだ息子じゃないと薄々気付きながらも俺と接してくれていた母上と、打算的な父上が怒り狂いファブレの戸籍から被験者の名を抹消したと。

王族として教育を受けておきながら、居場所を奪われたと戯言を抜かして国から逃げ出した男など息子じゃないと両親がキッパリと言い切ったときはちょっとだけ被験者に同情した。
王族なだけあって二人の思考はとってもシビアだった。
だらけてりゃ俺も勘当してくれるかなとも思ったが、最近は公務も苦じゃなくなってきたし、レプリカとばれて以来、軟禁も解かれているので最後の手段としてとっておくことにする。

そしてある日、屋敷が襲撃された。
襲撃犯はたまたま来ていた師匠と一緒に擬似超振動を起こしてどっか飛んでった。
いやぁ大変だったと思って暫く経った後、襲撃犯と師匠が何故かマルクトからの使者と一緒にキムラスカにやって来た。
馬鹿じゃないのか、という言葉は何とか飲み込んだ。

それから数日後、俺は伯父上に呼び出され登城することになった。
何でもマルクトから和平を申し込まれ、その中にアクゼリュス救援が盛り込まれていて、俺が親善大使としてアクゼリュスへ慰問へ行くことになったらしい。
伯父上と父上は相当渋い顔をしていて、その横でドヤ顔をしながら預言預言とうるさいモース。
モースの空気の読めなさに内心呆れつつも、拝命賜りましたと頭を下げる。
そうしてふざけた謁見が終わった後伯父上の私室に呼び出され、そこで俺は今回の和平に関する裏話を聞くことになった。

何でも、マルクトからの使者は本当にやる気があるのか疑いたくなるほど愚かだったらしい。
軍服のまま入国、登城。頭一つ下げず謁見の間に入り、やるとしても会釈だけ。
城の部屋に滞在を許可されても和平に関して熱弁を振るうわけでもなく、引きこもって出てこなかったらしい。
しかもコイツ、何でも悪名高い『死霊使い』であるという。
キムラスカに遺恨の多い軍人を和平の使者として派遣するなど、国の存亡をかけたブラックジョークなのかとマルクトの真意を測りかねているようだ。

それと和平の仲介役としてやってきた導師イオン。
伯父上は最初、導師イオンがやってきたことに内心目玉が飛び出るほど驚いたそうだ。
そりゃそうだ。和平の使者を迎えるだけならば、コチラが申し込まれる側だから多少の不手際があっても目を瞑ってもらえる部分もある。

だが導師込みで迎えるとなれば話はだいぶ変わって来る。
いくら預言からの脱却を図っていようと未だに民衆の多くは預言を頼っているし、預言順守派の貴族は多く存在する。
キムラスカは王制ではあるが、貴族の存在を無視するわけにはいかず、結果的に導師は丁重に持て成さないといけなくなる。
だというのに和平の使者は導師が同行しているとは一言も告げていなかったらしく、恥をかかされたと一部の貴族は憤慨しているらしい。

また同行していた導師守護役が凄い無礼だったとか、導師がそんな導師守護役をちっとも諌めずに微笑ましそうにしていたとか、半ば愚痴にも似た話を交えながらも説明は続いた。

どうやら前述した預言狂いの貴族達に対し、モースはだいぶ根回しをしていたようで…緊急議会で抑え切ることができず、俺の派遣が決まったそうな。
これには伯父上や父上も頭を抱えたが、第七譜石のことを知らされているのは公爵以上、つまり王族と血縁関係のある貴族達のみだから仕方ないといえば仕方ない。
これにより父上と伯父上は事情を知っている者達だけで改めて集まり、話し合いをしたらしい。

親善大使派遣と同時に、マルクトへ使者を送り和平の真意を探ること。
教団の動向を監視し、少しでもおかしなそぶりを見せたらその尻尾を掴むこと。
そのために俺には絶対に生き残るよう、二人には強く言われた。
例え他の人間を犠牲にしてでも、必ずキムラスカに帰って来い、と。
二人の目が余りにも真剣だったので、あ、もしかして俺って愛されてた?なんて呑気に考えた瞬間だった。

それと、アクゼリュスが消滅した時に絶対モースがしゃしゃり出てくるから、その時にモースを潰すつもりらしい。
預言のためならば王族すら見殺しにする犯罪者として弾圧するそうな。
繁栄のためといえばモース寄りの意見を持つ人間も大量に現れるだろうが、繁栄の前にマルクトとの戦争が待っている。
そういう人間には前線に送ってやるぞと脅しをかけるそうだ。

こうして俺は、行きたくも無いのに嫌々アクゼリュスへと向かうことになった。
アルメフィリアが着いている以上死ぬことは無いだろうが、なにぶん非常に面倒臭い。
まぁ何とかなるだろう、多分。

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