最悪の守護者04
「とことん屑だなできそこなごふぁあっ!!」
「あー…今何か聞こえた」
「気のせいじゃないですか?」
背後の方で赤い物体が飛んでったような気がしなくも無い。
その赤い物体が(認めるのは非常に癪だが)、オレの被験者に見えたような気がしなくも無い。
だがイオンは気のせいだというし、友人の言葉を疑うのはよくないのでオレは気のせいだと思い込むことにした。
つーか関わりたくないんだよ。
早くバチカルに帰って惰眠を貪りたいんだよ、オレは!
「アッシュ!なんてことするの!」
「ちっ、空気の読めない小娘ね」
「メフィ、口悪いぞ」
「うふふ、私がお上品な時があったかしら?」
「あー…無かったな、出会ってから今この瞬間に到るまで、一瞬たりとも無かったな」
「素直なことはいいことだと思いますよ」
「本音が駄々漏れなだけだろ」
メフィに何かされて以来何故かぴかぴかと黒光りしているイオンだったが、やはりどこか天然が入っているところは変わらないようだ。
そこに少しだけ救われつつ、いい加減現実を直視すべく背後を振り返る。
そこにはメフィに吹っ飛ばされたらしいぴくぴく痙攣しているアッシュに対し、ファーストエイドをかけているティアの姿があった。
「どういうつもり?アッシュは私を助けてくれたのよ!?彼は味方だわ!」
「彼が味方だなんて、面白いことを言うのね。
私はタルタロス襲撃犯にしてカイツール軍港襲撃犯。
そしてアクゼリュス崩落を担った神託の盾騎士団主席総長の直属の部下にして秘蔵の弟子であり、今まさにルークを攻撃しようとした六神将鮮血のアッシュを吹っ飛ばしただけよ?」
別に何らおかしなことじゃないわよねぇ?と問うてくるメフィにイオンがそうですねと笑顔で同意する。
ガイやティアはやりすぎじゃないかといっているが、そもそもお前等の仕事だバカタレと声を大にして言いたい。
言っても通じないから言わないけど。
治癒術をかけられて復活したアッシュは上半身を起こし、眩暈を振り切るように首をふると、オレのほうをキッと睨んでくる。
そして立ち上がったかと思うと、何故言われるがままに超振動を使った!と怒鳴ってきた。
「いや、使ってないし」
「…なんだと?」
「だから、使ってないし、超振動。そもそもあんな髭信用してねえし」
「じゃあ何でのこのこ着いてったんだ!」
「着いてってねえよ、さらわれたんだよ。あの髭が神託の盾使って白光騎士団含めた護衛の連中襲わせて俺をさらったんだよ。
抵抗しようにもイオン人質にとられてちゃ迂闊に逆らえねえだろどう考えても」
オレの答えにアッシュはぽかんとした後考え込んでしまった。
ティアは嘘つかないでって喚いてるけど嘘なんてついてない。
ティアよりアッシュの方がまだ人の話を聞くというスキルを持っているらしい。
「…じゃあ何でパッセージリングが破壊されたんだ!お前じゃなきゃ誰がやったっていうんだこの屑がっ!」
「誰って、髭だろ?」
前言撤回。人の話なんて聞いてなかった。
単純にオレの話を咀嚼するのに時間がかかっただけらしい。
馬鹿だ、どうしよう、馬鹿だ。
「ヴァンが、ヴァンの野郎が本気でそんなことをやったってのか…っ」
「う、嘘よ!兄さんがそんな事する筈が…」
「そもそもルークを騙してパッセージリングを破壊しようとしたのはヴァンですよ?
どちらにしろヴァンが非情且つ非道なことをしようとしたことは変わらないと思いますが…」
信じたくないと首を振る二人に対してイオンがトドメを刺す。
結局この二人はヴァンを疑いたくないがためにオレのせいにしたいだけなんだなーと思うと最早嫌悪感すら湧かず、どうでも良いのでさっさと目の前から消えて欲しいと言う感想しか抱けなくなった。
関わりたくないのであっち行ってください。
「自分の身内がした罪を認めたくないからって他人に罪を擦り付けるなんて、最低ね。
ルーク、こんな人達は置いてさっさと行きましょう?早くバチカルに帰って報告した方が良いわ」
「そうですね。ユリアシティの町長には僕が話をつけましょう。
早く外郭大地に帰ってルークが生きていることを公表しないと戦争になりかねません」
メフィの言葉にイオンが頷き、打ちひしがれている二人に対して背を向けて歩くよう促される。
他人に罪を擦り付けるという言葉に反応したティアが違うと喚いていたが、最早誰も取り合わない。
結局ティアはいつもそうだ。自分の罪や汚いところを認めようとしない。
襲撃犯である自分。被害者に対し酷な態度を取る自分。勝手な思い込みで他人を攻め立てた自分。身内の罪を他人になすりつけようとする汚い自分。
そういったものを亡きものにして、まるでなかったように振舞う。
そしてそれを指摘されると相手を攻撃する。そしてさも自分は清廉で正しい人間であるかのように振舞うのだ。
縋った瞳を向けてくるティアを見下ろしながら、そんな事を考える。
そして今までのティアの言動を思い返していたら、こんな言葉がするりと漏れた。
「…醜い奴」
「っ!」
俺の言葉に予想以上にショックを受けたらしいティアは、目を見開いたあとへなへなとその場に座り込んでしまった。
そして頭を抱えた後、違う違うとぶつぶつ呟き始める。
確かにこれの相手をする必要は無いなと、オレはメフィにアイコンタクトをとってからティアに背を向けて歩み始めた。
そしてその先に居るのは、自信に満ち満ちた顔をするナタリア達。
そういやこいつ等もいたんだったと頭痛がしそうな頭を押さえてため息をぐっと堪えると、待て!と背後から声をかけられる。
今度はなんだと振り返れば復活したらしいアッシュが立ち上がっていて、憤怒の表情をしたままオレの方へと歩み寄ってきた。
なんだよ。用件があるならさっさと言え。
「お前がパッセージリングを壊さなかったのは解った。
だがな、俺の用件はそれだけじゃねぇ」
「はァ…用件があるならさっさと言えよ。オレさっさとバチカルに帰りたいんだけど」
今度こそため息をついて、頭をバリバリとかきながらアッシュを見る。
アッシュは俺の言葉に極悪そうな笑みを浮かべ、それを見たイオンは嫌悪の表情を浮かべた。
メフィだけが楽しそうに笑っている。
「そうだな、じゃあ言ってやるよ、ルーク。
お前と俺、どうして同じ顔をしていると思う?」
「そんなの知ってるし。ついでに言うなら父上たちも知ってるし叔父上も了承済みだし、追い出さなかったのも父上や叔父上の考えだし、その上でオレはファブレに居て政治に参加してるし」
「……な、んだと?」
「キムラスカの上層部、政治に関わる奴等なら全員知ってるぜ。なに?用件ってそれだけ?」
「待て!じゃあナタリアも知ってたって言うのか!?ふざけんな!」
激昂する被験者、自分の名前が出たことに戸惑うナタリア。
その表情からナタリアは知らされて無いと確信したのだろう、嘘つくんじゃねぇとまた怒鳴りつけられる。
オレ、政治に関わっている上層部ってはっきり言ったんだけど。
「別に嘘ついてねぇよ。ナタリアは上層部に組み込まれてない。
ナタリアが任されているのは飽くまでも慈善事業だけだしな」
「ナタリアのやっていることが慈善事業だと!?」
「少なくともキムラスカはそう判断してるってことだ。つーかお前いちいち怒鳴らなきゃ喋れねえのかよ?うるせーんだけど」
ティアのキンキンとした声とは違うが、いかんせん腹式呼吸で喋っているようで響く響く。
つか唾飛ばすな超きたねえ。
オレが耳を指で塞ぐ仕草をして鬱陶しそうな顔をしながらアッシュを見れば、何を思ったのかアッシュは舌打ちをした後ナタリアの方へと歩み寄っていった。
最早話を聞くのも馬鹿馬鹿しくて無視を決め込めば、僅かに驚いた顔でオレを見ているイオン。
「ルーク、貴方は自分の素性をご存知だったのですか?」
「まぁなー。キムラスカも承知の上だ。オレがどんな生まれかどうかは関係ない、要はキムラスカに不利にならなきゃ良いってこった」
「…そうでしたか。僕はてっきり…」
「オレがレプリカだって気付いてたのか?」
「恐らく、そうではないのかと。すみません、要らぬ気遣いでしたね」
「それはイオンの優しさだろ?別にかまわねーよ」
為政者には向かない、優しすぎるほどに優しいその気質。
それは時に周囲の意見に流されてしまうことにもなりかねないが、それでもオレから見れば非情に稀有なものに違いは無い。
だから笑みを浮かべて申し訳無さそうにするイオンの頭を撫でてやれば、なにやらナタリアの甲高い声が聞こえた。
「貴方…ずっと、私達を騙しておりましたのね!!」
「……は?」
なにやら興奮気味に、しかし怒り心頭になっているナタリアの突然の奇声に思わず間抜けな声を上げてしまう。
一体誰が誰を騙していたというのだろうか。
「私がどれだけ頼んでも約束を思い出してくださらなかったのも、貴方が偽者だからと言うのならば納得ですわ!
偽者の癖に七年も堂々と公爵家に居座っていたなどと、厚顔無恥も甚だしい!」
「……あー」
憤慨するナタリアの横で、勝ち誇った笑みを浮かべる被験者。
それを見て俺はアッシュがナタリアに自分が本物であると告げたのだなとようやく思考が追いついた。
だからナタリアには知らされてないと言っただろうに、あの被験者は一体何を聞いていたのか。
「ルークの被験者とは思えない短慮っぷりですね…」
「だから『絢爛の愚者』もルークを選んだのよ」
「その話は止めろ。他人に聞かれたら面倒だ。特にこの街では…な」
「はいはい」
呆然とするイオンの横でくすりと歪な笑みを零すアルメフィリアを諌めた後、さてどうしたものかとナタリア達を見て嘆息する。
その背後ではジェイドがアニスやガイにレプリカとは何たるかを簡単に講義していて、また面倒になりそうだと、もうこいつ等置いていっていいんじゃないかという考えが浮かぶ。
「さて、どこから突っ込むか。まず記憶障害ってのはそう簡単に治らないから障害って言うんだというところから突っ込むべきかな」
「もういっそのことバチカルまで飛びましょう?ルークとイオンの二人だけなら喜んで運ぶわよ」
「じゃあ…なに?ルーク、さま…は、人間じゃない、ってこと?」
「アイツが…本物のルーク」
レプリカについての講義を聴き終えたのだろう。
レプリカに対し、人間じゃないと発言したアニスに対し呆れが浮かび、同時に隣でイオンが反応したのがわかった。
ガイはガイで今度はアッシュを睨みつけているし、もうどこから手をつけて良いかわからない状態だ。
「何とか言ったらどうですの!キムラスカ王家を謀るなど、許されることではありませんわ!」
「その王家の血が一滴も入ってないお前に言われたくねーよ。
あーもう、面倒くせぇ!アルメフィリア、オレとイオンだけでいい、バチカルに…いや、カイツール軍港周辺に飛ばしてくれ!」
「貴様っ、ナタリアを侮辱する気か!根拠もねーくせに適当なこと言うんじゃねえ!」
「そうね、それが無難ね。突然バチカルに飛んだらそもそもアクゼリュスに行っていたのかという話になってしまうし…それくらいならカイツール軍港周辺まで飛んで、そこからバチカルに行くのが時間的にもおかしくないでしょうね」
前半の言葉にアッシュが食いつき、それを遮るようにアルメフィリアが頷く。
誰一人、オレの話なんて聞いちゃいない。
そして産まれが違うという、オレにはどうしようもないことを上げてまるで化け物を見るような目で後ずさる。
自分の主張をしたいようにだけしてこっちの意見に耳を傾けない奴の相手なんて、する必要がないだろう?
少しだけ顔色を悪くしているイオンの手を取り、無視を決め込んだ事でとさかに来たらしい被験者がこっちに歩んでくるのを余所にアルメフィリアを見た。
「飛ばしてくれ、メフィ」
「えぇ、預言に詠まれし正当なる『聖なる焔の光』。貴方がそれを望むなら」
それは被験者への嫌味か。
そう思いはしたもののそれを口にする暇も無く、オレとイオンが闇に包まれる。
これも久々だな何て思っていた次の瞬間には既にあの同行者達の姿はなくなっていて、平和な草原だけが目の前に広がっていた。
早く帰ろう。
そしてオレは惰眠を貪るんだ…!
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