最悪の守護者05


アレからメフィの守護を得て無事カイツールを経由してバチカルへと帰還したオレとイオンは、バチカルを出立してから帰還するまでのことを父上と伯父上に報告した。
ユリアシティからカイツールの経緯はちょっとばかり誤魔化したものの、おおむね間違いない報告だ。

それに対し、キムラスカは以下のことを決定した。
ナタリアの追放。ガイのマルクトへの引渡し。
そしてマルクトへの抗議と、キムラスカ王家を謀ったダアトへの制裁。
これにより和平は結ばれるだろう。キムラスカが優位に立つ形で。

それを聞いた俺はあーぁ、としか思えなかったがオレの帰国後の望みはとにもかくにも惰眠を貪ることである。
面倒ごとが山積みではあったものの、全て報告を終えたオレは考えることは後回しにして、久方ぶりの自分のベッドへと思い切りダイブした。
自宅のベッドがこんなにも安心するものだったなんて、オレは生まれて初めて知った。
これでメフィがベッドに潜り込んでこなければ、オレは何日だってベッドの中で過ごしていただろう。

そうして思う存分惰眠を貪ったオレだったが、翌日以降メフィがベッドにもぐりこんでくるのを含め、のんびりしているわけにはいかず渋々重い腰を上げて準備を始める。
ん?何をしたかって?

親善大使として出かけてた間に溜まっていた仕事の消化に、ファブレ第二子としてのお披露目の準備。
それからごたごたが起きるのが予想できたから、ナタリア追放の件も含めて色々と根回ししたり。

あとはマルクトからの謝罪の使者に土下座されたり。
レプリカだったらしいイオンをダアト解体後にウチで引き取れるよう手続きをしたり。
新しい婚約者探すためにあちこちのサロンや夜会に出かけたり。
とまぁ忙しいんだか充実してるんだかわからない日々を送っていたわけだ。

その間イオンはダアトの詠師達と密に連絡を取りあってダアトの今後について話し合ったりしてた。
まあキムラスカから『王女を摩り替えた挙句、次期国王が死ぬのを黙って見過ごすとは、いくら預言に詠まれてるからってやって良いことと悪いことの区別もつかねぇのか、あぁん?』って抗議喰らってるし、寄付金もカットされるから十中八九ダアトは潰れるだろう。

そうなると後は誰を生贄に差し出すかとか、どう教団を潰すのが一番穏便かとかそういう次元になってくる。
ここを間違えればパダミヤ大陸に失職者が大量に現れることになるので、是非とも頑張ってもらいたい。
まぁウチからも教団解体に関して介入する代わりにいくつか援助が決まってるから、最悪のケースに陥ることは無いだろう。

こうして目まぐるしく日々を過ごしていたせいだろうか。
オレはユリアシティに置き去りにしていた連中をスッパリサッパリ忘れていた。
だって忘れても何の支障も無いと思ってたのだ。そうだろ?
犯罪者集団のことなんて覚えてる必要ないだろ、って思ってたんだよ。

「はい。ランバルディアの方々に多大な恩情をかけていただいたこと、ダアトの者は決して忘れないでしょう。
これで教団に従事する団員達が路頭に迷わずに済みます」

「よい。その分コチラも利潤を得ておる。我等とてボランティアでダアトに手を差し伸べたわけではないからな」

「存じております。しかし導師である私の愚行により多くの教団員に不安をかけてしまったのも事実。このご恩、必ずやランバルディア王室に返させて頂く所存です」

「うむ。そこまで言うならば期待しておこう」

代わりの導師守護役達も到着したし、キムラスカとの話も大方詰め終わったのでイオンもダアトに帰還することになった。
そのため挨拶にとイオンが謁見を申し込み、関係者だし丁度登城していたからと同席していた中、突然荒々しく開かれる扉、飛び込んでくる無数の陰、兵士達が身構えたのも無理は無い。

「イオン様!」

「お父様!」

甲高い声を上げてまず飛び込んできた二人にイオンが目を丸くする。
オレも予想外というか常識外の奇行に顔が強張り、アルマンダインなどは隠し切れない怒りが滲んでいた。
ここで渋い顔をしようとして、即座に引っ込めた伯父上は凄いと思う。
眉間の皺が一本増えたまま消せれていないの父上よりは、断然似凄い。

「あ!レプリカルーク!」

一瞬だけ空気が固まり、まず口を開いたのは目をまん丸にした導師守護役だった。
正直まだその制服を着ていられる厚顔無恥さにオレはびっくりだ。
イオンの側から離れてどれだけ経ってると思ってるんだろう?

「まぁ!まだキムラスカに居座っていたのですか!何て図々しいのでしょう!」

と、憤ったのは既に権限を剥奪された元偽王女様。
自分が今はいている言葉がそっくりそのまま自分に帰って来ると知ったら、一体どんな反応をするんだろうか。

「仕方ないわ、彼はレプリカ…人間じゃなかったんだから」

そう言って睨みつけてくるのは、元襲撃犯にして現死刑囚。
どうやらあの醜い奴という台詞のせいで非常に俺は恨まれてしまっているらしい。
しかし人間じゃないから常識がわからないというのならば、一体お前は何なのかと声を大にして問いたい。

「おい、言いすぎだろう!」

姦しい女性陣を諌めたのは元護衛剣士。
言い過ぎってことは多少なりと自分もそう思ってるってことか。最低だな。

「まぁ確かにレプリカは被験者に比べて一部劣化はしますがね…」

眼鏡を押し上げつつ言う死霊使いは、自分が既に名代ではなく軍籍を剥奪されているなど思いもしないのだろう。
被験者ならば個性で、レプリカなら劣化、彼の性格の悪さが出ている表現の仕方だと思う。

「……屑がっ、どの面下げてここに居やがる!」

最後に被験者が地を這うような声で言ったかと思うと、最終的に怒鳴り散らす。
どの面も何も貴様と同じ面だと言いたくなったが、怒りそうなのでやめた。

よくまぁ道中引き止められなかったものだと疑いたくなる犯罪者集団たちが現れたことに城の近衛兵たちが動こうとして、伯父上が止める。
オレもまた同じように俺は片手を上げれば、案の定一気に機嫌が急降下してさっさと殺してしまおうとしていたらしいメフィも渋々止まってくれた。

「お父様、騙されてはなりません、彼は偽者だったのです!本物のルークはコチラに居ますわ!」

「ほう、本物のルーク、か」

「そうです!彼は7年前にヴァンにさらわれ、ずっとダアトに閉じ込められていたのです。
その間あの偽者がのうのうとファブレに居座り、さらにはルークの居場所まで奪い取って!」

憎々しいといわんばかりに睨みつけられ、オレはもう一度ため息をついた。
何故ああも猪突猛進になれるのか不思議で溜まらず、一体どういう教育をしてきたのかと思わず伯父上を見てしまう。
いや、この場合責めを負うべきは彼女の教育をした家庭教師や乳母なのだが、オレの視線の意味を正しく理解したらしい伯父上はわざとらしい咳払いをした後冷えた目でナタリアを見据えた。

伯父上は、何だかんだいってナタリアを愛していたのだ。
例え実の娘でなかろうと、王族の血を一滴も引いていなかろうと、それでも初めて父と呼んでくれた瞬間が忘れられないと。

けれどナタリアはそれを裏切った。
相応の教育を与えられながらそれに胡坐をかき、王族であろうとすることを怠った。
最早伯父上でもこれは庇いきれず、だからこそ伯父上はナタリアを切り捨てることを決めた。

伯父上は国王だ。一度決めれば容赦はしない。
倫理や道徳、感情で国は動かせない。
帝王学を極めた王は、何よりも自分に厳しかった。

「して、ナタリアよ。いや、ナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディアよ」

「な、何ですの?急にそんな…いえ、今はそんなことよりもルークのことです。
お父様、早くあの偽者を捕らえて、」

「ナタリア。私はこの椅子に座っている限りそなたの父ではなく王である。
いい加減口を慎まぬか、この愚かものが!」

「ひっ」

今まで自分を溺愛してきた父親の初めての怒り。
ナタリアは喉を引きつらせて、申し訳ありませんとようやく謝罪を口にした。

「そなたの言い分は解った。だがまずはそなたのことについて話そう。
本来ならばもっと落ち着いて話す予定だったのだが……」

そこでちらりと伯父上の視線がイオンに向けられ、次に一緒に飛び込んできた同行者達に向けられる。
伯父上の言いたいことを察したオレはイオンの手を引いてアルバインの背後、というより壁際に移動した。
本来ならばダアトの人間に聞かれるなど言語道断だが、既にダアトは解体が決定しているため問題ない。

そしてもう一つ、あの同行者達が居る以上煩くなるのは目に見えているので、ここで一気に解決してしまおうという腹だ。
問題は、それほど非常識な存在が居るとは信じられないという気持ちが伯父上の中にあることだろう。
オレの話も最初訝しげだったし。

「ナタリアよ、アクゼリュス派遣に関してわしは行ってはならぬと申したはず。
それなのに何故ルークに着いていったのだ」

「それは…申し訳ございません。言い訳のしようもございませんわ。
ですがルークだけでは不安だったのです!ルークはずっと内政ばかりで初の外交、それも長年の宿敵だったマルクトの和平、王女の私が出なければと…!」

「それでそなたを派遣しなかったわしの判断が間違っていると勝手に判断し、命に背き仕事を放り出して同行したというのか」

段々と怒りが滲んでいく伯父上の言葉にナタリアの顔がサッと青ざめる。
そこまで思考が到っていなかったのだと如実に解る反応にアルバインのため息が微かに聞こえた。
ため息もつきたくなるだろう。こんな王女じゃ。
だから後ろで笑ってるメフィがムカついて仕方ない。

「も、申し訳ございません!議会の方々にも謝りますわ…政務に関しても今から、」

「よい」

「……え?」

「もうよい、と言ったのだ。議会は既にお前の王女の地位を剥奪することを決定した。そなたは既に王女ではない故に、議会に謝る必要も、政務を行う必要も無い」

その言葉に青かった顔が紙のように白くなり、やがて信じたくないと言うように首を振りはじめた。
瞳には涙を浮かべ、何故ですの!と叫びながら伯父上に駆け寄ろうとしたナタリアだったが、流石に近衛兵達に止められる。
ようやくナタリアは他人のことを気にかけている余裕などないことを思い知ったらしい。

「お、お父様…?何を仰っているのです…?
此度のことは謝ります。謝りますから…」

「謝ればよいというものではない。特に我等王族はな。お前は一体何を学んできたのだ」

「そ、んな…たった、たったこれだけのことで…!?」

「これだけではない。お前は先程ルークに偽者と言ったな。だがな、偽者はお前なのだ、ナタリア…いや、メリル。
お前の本当の名はメリル・オークランド。本物のナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディアは死産だった」

「…うそ、嘘ですっ!私がお父様の子ではないと仰いますの!?」

「その通りだ。既に乳母からの証言も得ておる。
以前お前の王位継承権を破棄したのはお前が王色を持たぬからではなかったのだよ。
それでもお前を王女として据えていたのは例え血が繋がっておらずとも余の娘だと思い、愛していたからだ」

そこで言葉を切り、深々とため息をつく。
自分の娘を断罪するなど、楽しいことではないだろう。
だが、王は手を緩めない。

「わ、私もお父様を愛していますわ!それに、」

「だが、お前は王女としてやってはならぬことをした。それは王女として教育を受けてきたならばわかることであろう。これ以上は余でも庇えぬ。
メリル・オークランド。そなたが王族を語った罪は、そなた自身の責ではない。
またそなたのお陰で余の心は随分と慰められた。故にその罪は不問とし、そなたを平民へと降ろすものとする。
以降ナタリアの名を語ることも、ランバルディアの名を出すことも許さぬ。
心ばかりの選別もある。早々に城を去るがよい」

言葉を遮り、淡々と告げられた決定事項にナタリア、いや、メリルはその場に座り込んだ。
そして全て遅すぎたのだと、最早覆せぬのだと悟り、さめざめと泣き始める。
同行者たちが慰めようとしたようだが、近衛兵に連れて行かれる。
大人しくついていったあたり、多少己がやったことを省みることができたのかもしれない。
いや、悲劇のヒロインに浸っているだけという可能性もあるが。

ふと視線を感じて、かつての同行者達のほうを見る。
全員オレを親の敵とでも言わんばかりに睨みつけていて、まだまだ終わらなさそうだとオレは静かにため息をついた。

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