01
「フォースは基本的に後衛職です。大気中に存在するフォトンを身体に取り込み、テクニック…オールドラントで言う譜術を使って火力・回復・補助を担当します。
補助といってもできるのは攻撃力アップや防御力アップといった底上げ系がメインで、敵を弱体化させる補助はレンジャーと言う職が担っています」
セントビナーでセシル少将達と合流したルークは、イオンやシンク達を伴ってバチカルへと向かっていた。
同行していた第三師団の兵達に加え、ルークやイオンの護衛のためにとセントビナーを統括しているマクガヴァン将軍もまた兵を貸してくれたため、現在二人の護衛はキムラスカ・マルクト混合軍が行っている。
混合軍といってもキムラスカ軍をセシル少将、マルクト軍を派遣されたフリングス少将が指揮を執っているため、今のところ問題は起きていない。
「テクニックは炎・氷・風・雷・光・闇の六つの属性があり、私達フォースは相手の弱点属性を見極めて攻撃テクニックを使用します。
その分他のクラスよりも高い攻撃力を誇りますが、体力や防御力が低いために回避行動を優先し隙を見てダメージを叩き込む戦い方を好むものが多いですね。
またテクニックには詠唱が存在しません。
あるのはテクニックの威力を高めたり範囲を広げるチャージのみで、チャージしようとしまいと必要なPP(フォトンポイント)は変わらないのでチャージをしてからテクニックを使用するのが主流です」
そしてルークとイオンは現在、馬車の中に居る。
ルークと契約しているアルテミシアや、ファブレに匿われることが決定したシンクやディストなどもまた同乗している。
最初はセシル少将などが反対したが、彼等はこちら側についたということと、アルテミシアの圧倒的な強さがあるから大丈夫だと言うルークに言われて渋々納得した。
また、アリエッタだけは周囲を魔物で固め、護衛たちに紛れて警備に着いていてくれたりする。
導師守護役が独りもいないという状況を危惧し、ディストの提案で一時的にイオンの警護に回ったのだ。
この魔物の護衛と言うのが結構に有能で、ルグニカ平野を進んでいる間一度も戦闘にならなかった。
「他にはどんなクラスがあるんだ?」
「基本のクラスとしましては、フォース以外だとフォトンによる肉体強化を得意とする前衛職のハンター。
フォトンの固着化を得意とし、銃弾として発することができる中衛職のレンジャーですね。
あとは派生クラスというわけではありませんが、ハンターより防御力は劣るものの手数とスピードに勝る前衛としてファイター。
レンジャーよりも前衛寄りで足技と二丁拳銃の扱いを得意とするガンナー。
フォースよりも補助に特化し、PP管理に長けたテクターでしょうか。
ハンター・ファイターは打撃職、レンジャー・ガンナーは射撃職、フォース・テクターは法撃職とひっくるめて呼ばれることもあります」
「じゃあ打撃と射撃を一緒に使ったり、ということはできないんですか?」
「打撃射撃を扱えるブレイバー、打撃法撃を扱えるバウンサーなんかもありますよ」
そんなこんなでバチカルに向かっているわけだが、時間つぶしと好奇心で現在ルーク達はアルテミシアにアークス講座を受けていた。
オールドラントとは全く違うクラス形態、攻撃方法などに全員の視線はアルテミシアに固定されている。
アルテミシアもまた全員にわかりやすいよう言葉を選び、ゆっくりと説明をしていた。
そしてアルテミシアの説明を聞いたルークが目をキラキラと輝かせ、興奮気味にアルテミシアに問いかける。
「なぁなぁ、俺達もそのフォトン?っての、使えるかな?」
「それは、どうでしょう? 適正があれば使用は可能ですが…」
「その適正ってのはどうやって調べるんだ?」
「簡単にでしたら私にでも調べれますけど、今やってみますか?」
「おう!」
元気よく返事をしたルークに対し、アルテミシアは微笑みを浮かべてから量子キーボードを呼び出す。
青白い薄い板のようなものが空中に浮かび、アルテミシアはソレの上で何度か指を滑らせてから顎に手を当てて考え込むような仕草をした。
文字のようなものが次々と浮かび上がっては消えていくが、生憎フォニック文字では無いのでルーク達には読めない。
ディストが興味深そうに覗き込んでいるが、やはり理解には程遠いようだ。
「んー…この馬車の中で適正が無いのはディストさんだけのようですね」
「は?私ですか?」
「はい。ルーク様、イオン、シンクにはフォトンを扱う才能があります。
傾向としてはルーク様はハンター、イオンはテクター、シンクは…ファイターかバウンサーといったところでしょうか」
「何で僕だけ迷うのさ」
「肉体強化の傾向がスピード重視なのと、法撃系の才能もあるようなので。
イオンも系統は似ていますが、基礎体力が低いのでテクターです」
そう言ってアルテミシアが量子キーボードの上で掌を滑らせれば、板は音も立てずに消失する。
その後ルークの提案で、次の休憩の時にアルテミシアの武器を借りて試しにフォトンを扱ってみようと言う話になった。
シンクは口には出さないものの好奇心が疼いているようで、イオンもまた少し試してみたいとおずおずと言ってくる。
「で、どんな武器があるんだ?」
「ハンターはソード(大剣)、パルチザン(槍)、それからワイヤードランス(自在槍)ですね。ワイヤードランスはシエロが使ってるアレです」
「あれか。俺、ソード使ってみたい!」
「ファイターとバウンサーは?」
「ファイターはナックル(拳)、ツインダガー(双小剣)、ダブルセイバー(両剣)の三つ。
バウンサーはデュアルブレード(飛翔剣)とジェットブーツ(魔装脚)です」
「…全然意味が解らない」
「テクターは何ですか?」
「ウォンド(短杖)とタリス(導具)ですね。
私とほぼ同じです。フォースよりは打撃寄りですけど」
それぞれ武器の説明を受け、アルテミシアが量子変換して持ち歩いていた初心者用の武器を使わせてもらうことになった。
持ち歩ける量は決まっているが、アイテムパックと言うところにしまっておくことができるということもついでに説明される。
「でも何で別クラスの武器なんて持ってるのさ?」
「マグのご飯兼拾い物ですね」
「マグってそんなものまで食べるのかよ…」
ちなみにマグとはアークスに与えられる成長する機器生命体である。
与えるアイテムによって成長傾向が変化し、その傾向にしたがってアークスを補助してくれるのだ。
ちなみにアルテミシアのマグは法撃特化型だったりする。
そう説明されているうちに休憩時間になり、セシル少将やフリングス少将達に見守られながらルーク達はフォトンを扱ってみることになった。
それぞれの武器の簡単な説明を受けた後、初心者用の一番弱い武器をそれぞれ与えられる。
ルークがソード、イオンがウォンド、シンクがジェットブーツだ。
ルークは自分の身長ほどある武器に興奮を隠し切れず、イオンは不思議な手触りのする杖に興味深々といった様子だ。
シンクもまた、足に装着するジェットブーツに違和感が隠せないのか、先程から自分の足をしきりに気にしている。
武器にフォトンを通し簡単な動作などを習う三人は生き生きとしていて、その微笑ましさと珍しさに護衛の兵士達も微笑みを浮かべながらルーク達を見守っていた。
「うわっ!?」
「あ、シンクがこけた」
「ジェットブーツは扱いが特殊ですから、慣れるまで時間がかかるかもしれませんね」
そうして武器の扱いなどを教わり、逆にオールドラントのことについてアルテミシアに説明をしたりもする。
またルークによるイオンへの為政者とはと言う話まであったりしながら、一行はフーブラス川を抜け国境までようやく辿り着いた。
公式の外交ならば問題ないが、流石にお忍び状態の現在も検問所を馬車で通ることはできず、ルーク達は馬車を降りることになる。
馬車をセントビナーから護衛してくれたマルクト兵へと返し、彼らに別れと礼を伝えてからルーク達はカイツールへと端を踏み入れた。
「あ、しまった。アルテミシアの分の旅券がないな…シンク達は持ってるか?」
「当たり前だろ」
「任務の時は持つのが義務、です」
「すみません、僕もありません…」
「マジかよ!?あ、導師守護役が持ってるとか?」
「いえ、アニスも持っていないと思います」
苦笑するイオンと呆れた表情を隠さないルーク。
護衛たちに囲まれながら国境線までやってきたルーク達だったが、そこで旅券無しで国境を越えようとしているアニスを発見した。
甘ったるい声をあげて憲兵に通して欲しいと言うアニスだったが、淡々と通せないと言われ、くるりと振り返ってからぼそりと呟く。
「月夜ばかりと思うなよ」
「なぁ、何で勝手に国境越えようとしてるんだ?」
「さぁ?仕事したくないんじゃない?」
ルークの疑問にシンクは適当に答えた。
そのやり取りとアニスの不穏な発言はさておき、導師守護役でありながら導師の警護を放棄した守護役に対し冷たい視線が注がれる。
しかしそれに気付かなかったのか、はたまた無視することに決めたのか、アニスはルークを見つけた途端甲高い声をあげてルークに駆け寄った。
「きゃわ〜ん!アニスの王子様〜!」
抱きつこうとしたのだろう。
両手を広げてルークに走り寄ったアニスだったが、セシル少将が剣の柄を握って間に割り込んだ上、アルテミシアが足を引っ掛けて転ばせたのでソレは無駄に終わった。
思い切り地面に転ぶはめになったアニスはがばりと起き上がった後、キッとアルテミシアを睨みつける。
「っ、何すんのよ!?」
「護衛対象に対し不審者が近付かないようにしただけですが」
「不審者って何よ!?タルタロスで一回会ってるでしょ?!だいたい制服見れば解るでしょ!私は導師守護役なの!」
「導師守護役は導師をお守りする存在でしょう?ソレなのにイオンではなくルーク様に駆け寄るなど…本当に守護役なんですか?」
「確かに。制服を裏ルートから入手し、導師守護役を語っている可能性もあるな」
「導師からはぐれる導師守護役など聞いたこともありませんしね」
警戒を孕んだアルテミシアの言葉に、セシル少将とフリングス少将が追従する。
その言葉を聞いたほかの護衛たちもそれぞれに武器に手をかけ、流石のアニスもたじろぎながら周囲を見渡した。
「ちょ、ちょっとした冗談じゃないですかぁ〜。そんな本気にならないで下さいよぉ。もう、冗談が通じないんだから!」
「なら聞くが、何故国境を越えようとしていた」
「ふへ?」
「カイツールが第二集合地点だということは導師イオンからお聞きしている。
だと言うのにも関わらず、導師を迎えに行くどころか導師をお迎えすることもせずに何故国境を越えようとしていたのかと、そう聞いているのだが?」
セシル少将の言葉にアニスは言葉を詰まらせ、助けを求めるようにイオンへと視線を移した。
しかし警護の兵達に遮られ、その視線に対する返答は得られない。
アルテミシアは呆れたようにため息を着いた後、捕縛しますか?とルークに問いかける。
ルークが悩みながらも、まぁ良いだろうと言ったためにその場は何とか収まった。
が、何とか解放されたアニスがイオンに駆け寄ろうとして、アリエッタに止められてしまう。
「ちょっと、どきなさいよ根暗ッタ!」
「いや、です!アニスは導師守護役の仕事を放り出したんだから、イオン様に近寄らないで!」
「放り出してないし!私は親書を守るために仕方なく側を離れただけなんだから!」
「そんなの言い訳にならない!導師守護役は誰よりも何よりも、イオン様をお守りするのが仕事!親書よりもイオン様を優先しなきゃいけないのに、アニスはソレを無視した!
アニスに導師守護役の資格はない、です……イオン様に近寄らないで!」
「何よ、アンタなんか六神将のくせに!」
「……六神将ってことはアリエッタの方が階級が上なんですよね?何でアニスはあんな偉そうなんですか?」
「馬鹿なんだろ」
ぎゃいぎゃいと言い争いをするアリエッタとアニスを見たアルテミシアの疑問にルークはあっけらかんと答える。
「ティアといいアニスといい、神託の盾ってあんな兵士しか居ないんですかね?」
「はぁ!?ちょっとやめてよね!神託の盾の全部がアレと一緒にされるとか、屈辱以外の何者でもないんだけど!」
アルテミシアの呟きにシンクが食いつき、神託の盾がどんな場所か怒り気味に説明を始める。
ディストはシンクの反応にため息をついていたが、イオンはその隣で言葉を失っていた。
何も知らない人から見たらあの二人がどんな風に見えるのか、ソレが神託の盾への、ひいては教団への評価へ繋がるということを目の前で突きつけられ声が出なかったのである。
今までモースに軟禁され狭い世界で生きてきたイオンにとって、ソレは衝撃に等しかった。
ルークはそんなイオンを横目で確認するものの、声はかけない。ココはルークが声を上げるべき場所ではないからだ。
ルークが見守りの体勢に入っているのを見たイオンは珍しくも眉間に皺を寄せ、音叉の杖をぎゅっと握り締めたかと思うと、護衛の兵士に断ってからアリエッタとアニスへと歩み寄る。
そして硬い表情を崩さないまま、二人へと声をかけた。
「アニス、アリエッタ」
「あ、イオン様!もう、何とかしてくださいよ!根暗ッタったらちっとも話聞かないんですもん!」
「アリエッタ、根暗じゃないもん!」
「アリエッタは何も間違ったことは言っていませんよ。貴方が僕よりも親書を優先し、僕の側を離れたことも事実ではありませんか」
「イ、イオン様…?」
ぷりぷりと怒っていたアニスは、ようやくそこでイオンの表情が硬いことに気付く。
いつもと違うイオンの雰囲気に気おされつつも、でも親書を守るためには、とまた言い訳を口にする。
ソレが余計にイオンの怒りを煽っているとも知らずに。
「それもアリエッタが言ったはずです。導師守護役は何よりも導師を優先しなければならないと。
例え理由は何であれ、貴方は間違いなく仕事を放棄しました。そしてその間の穴を、アリエッタは埋めてくれていた。
アニス、貴方はアリエッタに謝罪と礼をするべきなのでは?
それにアリエッタは貴方よりも階級も年齢も上です。最低でも敬語は使うべきでしょう」
イオンにアリエッタを敬うべきだろうと言われ、アニスは絶句した様子でイオンを見る。
そしてアリエッタをキッと睨みつけたかと思うと、イオン様に何を吹き込んだのよ!?とどう見ても責任転嫁でしかないことを責め始めた。
周囲の視線が嫌悪感からアリエッタへの同情へと変わる事を感じながら、イオンは生まれて初めて羞恥と屈辱に震える。
「いい加減にしてください!貴方がそんな態度でいるから、騎士団はろくに教育がされていないという評価を受けるんですよ!?
これ以上教団の評価を下げるような真似は止めてください!!」
「だ、だって…」
「言い訳はいりません!唱士アニス・タトリン、現時刻を持って貴方を導師守護役から解任します!
仕事を放棄した罰則に関してはダアトに帰還次第通達します!」
ついに怒りを堪えきれなくなったイオンに首を言い渡され、アニスは今度こそ言葉を無くしたのだった。