身から出た錆(身から出た錆02)
「では障気をどうするつもりです。このままでは人類が死に絶えてしまいます。それとも何か代案でもあるというのですか?」
ジェイドの言葉にティア達が頷いた。
お前達ルークを止めたいんじゃなかったのか?と聞きたくなる態度だったが、誰も突っ込まない。
突っ込んでも無駄だと知っているからだ。
「勿論代案を出さずに止めたりなど致しません。私はフェレス島、及びエルドラントを使用し、擬似超振動を用いた障気中和を提案したします。
幸いフェレス島は移動が可能、これにより二箇所同時に擬似超振動を起こすことが可能です。
一万人のレプリカを犠牲にするよりも遥かに多い第七音素を使用でき、また私もローレライの剣を用いて補助に当たらせていただきます。
ルーク様や鮮血のアッシュが単独で行うよりも成功確率はぐんと高まるでしょう。
詳細の書かれた作戦立案書はここに」
すらすらと代案を述べたルビアは、紙の束を取り出すと少し迷ってからそれをジェイドに手渡す。
ピオニーがそれに頷いたため、ジェイドは紙の束に素早く目を通し始めた。
沈黙が続いたのは恐らく5分ほどで、目を通し終えたジェイドは眼鏡のブリッジを上げて表情を隠しながら立案書を机の上に置く。
「確かに、この案ならばアッシュやルークが行うよりも遥かに確実に障気中和が可能です」
ジェイドの言葉にアッシュとルークが顔を上げた。
それは二人が犠牲にならなくても良いということだ。
その場に居た者達の殆どが表情を明るくし、犠牲の少ない代案が出たことにホッとしていることが解る。
しかしルークの声がその明るい雰囲気を壊してしまった。
「でも、誰が擬似超振動を起こすんだ?」
その単純な疑問に、再度沈黙が戻ってくる。
現在音機関のみでの擬似超振動を起こす術は無く、できたとしても音機関に第七音素の素養を持つ人間を繋がなければならない。
施工者は間違いなく死ぬだろう。
「それにエルドラントを使うたってあれには近づけないんだぞ」
忘れかけていた事実を突きつけられ、全員の視線がルビアへと注がれた。
しかしルビアは予想済みだといわんばかりににっこりと微笑むだけ。
「それに関しても既に手は打ってあります」
「論師、来たようです」
「あぁ、仕事が速いですね。流石は私のアリエッタです。良いタイミングでした」
ルビアが発した名前に何人かが息を呑んだ。
特に顔色を悪くしたのは禍根のあるアニスだったが、それに気付いているはずのルビアは何も言わない。
失礼致しますと声をかけて入ってきたのは、やはり六神将のものではない団服を纏った、つぎはぎだらけの人形を抱きしめたアリエッタだった。
「嘘…アリエッタは、私が…」
アニスの呟きに気付いているはずなのに、アリエッタは気にかけることなくとことこと論師に歩み寄る。
そしてその場に膝をつくと、たどたどしい口調で口上を述べた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。神託の盾騎士団論師直下情報部第一小隊小隊長にして第三師団特別顧問アリエッタ響手、只今参りました…」
「お疲れ様です。急かしてしまいすみません。疲れたでしょう?これが終わったらゆっくり休んでください」
「とんでもない、です。こちらを」
アリエッタが差し出したものを、ルビアは受け取り机の上に広げた。
それは変哲もないただの地図だったが、パダミヤ大陸のあちこちに罰印が付けられている。
首を傾げる面々にルビアは微笑んだまま説明を始めた。
「アリエッタは私の世界のアリエッタです。そこに居る導師殺しの人形士に殺されたアリエッタとは別人ですので、ご安心を」
明らかに悪意を含んだルビアの言葉に殆どの人間の目が見開かれた。
導師を殺したのはモースの筈だ。それなのにアニスが導師殺しとはどういうことだと俄かに室内がざわつき始める。
「おい、アンタアニスに恨みでもあるのか!イオンを殺したのはモースだろう!」
「そうですわ!貴方が一体何を知っているというのです!」
ガイとナタリアが気色ばんだ様子でルビアを責めた。
ルビアはわざとらしいほどにきょとんとした顔になると、詠師トリトハイムとテオドーロに向き直る。
「もしやお二方はご存じないのですか?」
「…どういうことですかな?」
「罷免になったはずの元大詠師モースに両親を人質に取られていた彼女は導師を誘拐、そして導師の命に関わると解っていたにも関わらず、惑星預言を詠むよう強制された導師を止めることなく傍観していました。
確かに彼女の両親は牢に捕らえられていましたが、見張りの兵士が居たわけではありません。
また、導師が預言を詠んでいる間、元大詠師モースの傍に護衛がいたわけでもない。
軍人である彼女は元大詠師モースを倒し、導師を止め、両親を解放する力があったはず。
例え人形であるトクナガを持っていなくとも彼女は同時に譜術師でもあり、ロッドを持っていたのですから。
しかし彼女はそれをしませんでした。
ただ黙って、導師が死に向かいながら預言を詠むのを見ていただけ…これは見殺しにした、いえ殺したと言っても過言ではないと私は判断しております。
彼女は"導師守護役"なのでしょう?」
まるで見ていたかのような話しようにナタリア達は絶句する。
そしてテオドーロ達はこれ以上無いほどに眉間に皺を寄せ、思い切りアニスをにらみつけた。
過言ではないどころか、間違いなくアニスのせいで導師は死んだのだから。
方々から向けられる悪意と敵意にアニスは言い訳を口にしようとして、口ごもる。
アリエッタですらアニスに対し軽蔑の視線を向けている。
「し、仕方なかったの!パパとママが人質に取られてて!!」
そしてアニスは、それを肯定した。
肯定してしまった以上もう言い訳をしようと遅いと、本人は気付いているのだろうか?
「ルビア様、発言しても宜しい、ですか?」
アリエッタに許可を求められたルビアは国王達に視線を向け頷くのを確認した後、頷いてアリエッタに許可を出した。
そのまま立つように促せば、アリエッタは立ち上がった後アニスを思い切り睨みつける。
「アニスは導師守護役、導師守護役は自分の命に変えても導師をお守りするのが仕事。
パパとママが人質にとられてても、それでも導師を護るのが守護役の役目。
アニスの言っていることは言い訳にすらなってない。自分の未熟さを口にしてるだけ」
「何よ!パパとママが居ないアンタに、私の気持ちなんか解るもんか!」
「アリエッタにもママは居る。ライガ・クィーンが、アリエッタのママ。
けどママとイオン様を比べたら、アリエッタはイオン様を取ります。ルビア様をとります。
それがアリエッタのお仕事で、アリエッタはそれを覚悟して軍人になった。
ママだってそれを認めてくれてる。
アニスはいつだって中途半端…っ、今もママがパパがって言い訳して…イオン様のこと護れなかった癖に…!
アニスは導師守護役の意味が解ってない!それなのにいつまでその制服着てるの!?
神託の盾の、導師守護役の恥さらしの癖にっ!!」
感情的になったアリエッタの肩にルビアの手が置かれる。
アリエッタが振り返れば、微笑むルビアが小さく頷いた。
落ち着きなさいといわれているのだと解釈したアリエッタが深呼吸をしていると、アニスは震える声で言い返す。
「な、何よ!根暗ッタの癖に、大体アンタだって六神将じゃない!」
「アリエッタは確かに六神将、です。でもこの世界の人間じゃない。
だから世界を滅ぼそうとしている総長の仲間でもない。
ルビア様の説明、聞いてなかったですか?」
馬鹿にするように言われ、アニスは屈辱に顔を赤くした。
「さっさとその服脱ぐ、です。仕事もできないアニスがその服を着ないで。
世界は違えど同じ神託の盾として不愉快です…っ」
「そこまで言うこと無いでしょう!?アニスだって一生懸命やったのよ!?」
「守護役は一生懸命やれば良いわけじゃないです。命を護ってこその守護役。
役立たずの守護役は神託の盾に要らないです。
それでも着てるって言うなら…周り、見てみたらどうですか」
アニス達の知っているアリエッタならば絶対にしないであろう辛辣な言葉選びに、ティア達は絶句し、アリエッタの言うとおりに周囲を見回す。
今回話し合いの場がダアトであるという事で、警備面を担当しているのは神託の盾兵である。
その神託の盾兵達は皆一様にアニスに対し敵意を向けていて、アリエッタと同じ気持ちであるというのが顔を見なくても解った。
言葉を失うアニスを見てアリエッタは嫌悪感を隠すことなく視線をそらすと、国王達に向かって頭を下げる。
「えっと、御前をお騒がせしてしまい、申し訳ありません…」
「いや、世界は違えど同じ神託の盾として言いたくなるのは軍人として当然のことだ」
ピオニーはそう返事をした後、トリトハイムたちに視線を向ける。
その意味を察したトリトハイムは神託の盾兵に命じてアニスを連行させた。
導師殺しの導師守護役、死刑は逃れられないだろう。
ティア達が喚いたが、誰も取り合うことなくアニスは連行されていってしまった。
アニス断罪終了。
オリジナルイオンが生きているのでアリエッタは原作よりちょっと大人。
そして世界は違えど同じ神託の盾として、元導師守護役としてアニスに思い切り嫌悪感抱いてます。
良識ある神託の盾兵さん達からしたらアニスに一言もの申したいだろうということで、代表してアリエッタに言ってもらいました
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