愛に殉ずる聖焔の話(八)


ルークも参加したジェイド達の謁見は、和平の申し込みに対し緊急議会を開くということで無事終了した。
城に用意された部屋にイオンやジェイド達は案内され、彼等と別れを告げたルークは手土産を持って屋敷へと帰還する。
ジェイド達はこれで一段落だが、ルークにとってはこれからが正念場だった。

カイツール軍港襲撃。
バチカルに帰還する際に起きた凶事は、アルマンダイン伯爵とマルクト軍第三師団の協力により収束を迎えた。
マルクト軍が協力したのは軍港襲撃により兵士の数が圧倒的に減っていたため、キムラスカに敵意が無いことを示すためジェイドが申し出て、ルークが口ぞえをしたのである。

そしてその首謀者である鮮血のアッシュ。
前回と違いアリエッタは協力を拒んだらしく、アッシュ本人が軍港に出向いていたため言い訳もできないだろう。
伯爵に無理を言ってルークが引き取った身柄、それこそがルークの手土産だ。

「只今帰りました」

「おお、ルーク!よくぞ戻ってきました」

「ルーク、無事で何よりだ…それは何だ?」

手土産、もとい簀巻きにされた何か。
屋敷に到着以来白光騎士団に運ばせたものは、現在リビングの床に転がされている。
ルークはそれを一瞥したあと、帰還を喜びシュザンヌが自分を抱きしめようとするのを手で止めると、両親の前で膝を着く。

「父上、母上、いえ…公爵、公爵夫人」

「どうしたの、ルーク…そんな急に他人行儀に…」

「そうだルーク。ようやく息子が帰ってきたのだ、顔を見せてくれ」

前回の生と違い、完全に自分に情をかけている両親に内心笑みを零しつつルークは頭を上げる。
しかし立ち上がりはしない。
表情は何かを堪えるような、必死に自分を取り繕いつつも取り繕えていない、そんな顔を作れるよう努力する。
この正念場を抜けねば、折角再会したルビアとの未来は作り上げられないのだ。

「ルーク…?」

「彼は鮮血のアッシュ。お耳に入っているとは思いますが、カイツール軍港襲撃犯の主犯であり、今回和平を申し込みに来たマルクト軍が所持するタルタロスを襲撃した…ダアトの六神将の一人です」

「なんと…」

「ルーク、何故そのような…」

「本来ならば被害を受けたアルマンダイン将軍に引き渡すのが筋でしょうが…まずは彼の顔をご覧下さい」

襲撃犯など恐ろしいと言わんばかりに顔を青ざめさせるシュザンヌの前で、ルークは手近に居る白光騎士団に簀巻きを解くように命じる。
勿論、その下では更にロープで縛られているので自由の身になるわけではない。
騎士団が簀巻きを解き、露わになった顔にシュザンヌとクリムゾンは目を見開いた。
気絶しているせいで目を閉じているものの、それはどう見てもルークに瓜二つであり、ルークと違いクリムゾンと同じく深紅の髪をしている。

「ルーク…これは、これはどういうことだ?」

「軍港襲撃犯として捕らえたところ、彼はこう言いました。私は…彼の情報を元に作られたレプリカである、と」

「レプリカ?それは一体…」

顔を青くさせ、よろめきながらも問うてくるシュザンヌにルークはフォミクリーについて説明する。
それを聞いて暫く呆然としていた二人だったが、ルークはそれに頓着することなくもう一度深く頭を垂れた。

「レプリカの身でありながら公爵子息を語り、お二人の息子を名乗っていたという事実。
この身一つで足りるとは思いませんが、どのような処罰でも受ける覚悟です。
そして彼は私に居場所を奪われたと言い、事実私は公爵と公爵夫人の子としてのうのうと暮らしておりました。
願い出ることのできる立場であるとは思いませんが、どうか私を罰し、彼を家に迎えてやって下さい」

そう言ってルークは髪をかきわけうなじを露わにする。
いつでも首を切ってくれと、そういう意思表示だ。
そうして公爵たちの沙汰を待っていたルークだったが、ルークの身に降りかかったのは公爵の刃でもなく、はたまた白光騎士団による拘束でもなく、ルークの予想通り夫妻による抱擁だった。

「例えレプリカであろうと、貴方は私達の息子です!
この不自由な環境の中どれだけキムラスカと言う国に尽くしてきたか、それを間近で見てきたのですから」

「お前がルークの名に相応しくあろうと以下に努力を重ねてきたか、私達はよく知っている。例え本物のルークであろうと、のうのうと暮らしていたなどと言わせはせぬ。
シュザンヌの言うとおり、誰がなんと言おうとお前は私達の息子だ」

「父上、母上…」

言葉を詰まらせ、ルークは目尻に涙を溜めながら両親の肩に腕を回した。
嗚咽を堪えるふりをしながら、思い描いていた通りの展開になったことに唇を歪める。
レプリカであろうと、優秀ならば受け入れるだろうと言うルークの思惑は見事に当たったのだ。

「ありがとうございます。私はキムラスカ一の幸せ者です」

涙ぐみながら言うルークに釣られたのか、公爵夫妻の目尻にもまた涙が浮かんでいた。
微かにすすり泣くような声も聞こえたので、目撃していた白光騎士団もまた似たような心境なのだろう。
お互いに微笑み合った後、ルークは少し困ったような顔を浮かべてから未だに気絶しているアッシュの方へと視線を向けた。

「では…その、オレの被験者はどうしましょう?」

「間違いなく、本人なのだな?」

「はい。7年前、ヴァン・グランツ謡将に誘拐され、それ以降ダアトで神託の盾兵として暮らしていたそうです」

ルークの言葉に公爵夫妻が何とも言いがたい表情を浮かべた。
誘拐されたのならば、仕方ないと言えば仕方ない。
貴族と言えど10歳ならばまだまだ子供、大の大人に歯向かえなくともしょうがないだろう。
例え逃げ出さなくとも、同情が集まるだけだ。

しかし今彼は17歳で、しかも特務師団師団長と言う責任ある地位に就いている。
軍港を襲撃したと言うことは、ある程度自由に動き回ることも可能だったのだろう。
そうなれば当然、何故帰って来なかったのか?という疑問が湧き上がる。
そして彼はもう一つ不味いことをした。

「自国に仇を成すなどと…一体何を考えていたのか」

「…例えお腹を痛めて産んだ我が子といえど、祖国に牙を向いた男を迎え入れるわけにはいきません」

深々とため息をつくクリムゾンと、青い顔をしながらもキッパリと言い切ったシュザンヌ。
二人の言葉を聞いたルークは同情の視線をアッシュへと向けた。
二人がアッシュを見捨てることは予想済みだったが、こうもあっさり言ってのけるのは流石のルークも予想外だった。もう少し戸惑うものと思っていたのだ。
シュザンヌなどは倒れてしまうだろうと、そして嘆きながらもアッシュよりルークを選ぶだろうと言うのがルークの予想だった。

だが、二人はルークの予想よりも遥かにシビアな思考回路をしていたらしい。
クリムゾンが白光騎士団に命じ、ファブレ家に密かに存在する地下牢へとアッシュを運ばせる。
これで二度と、日の目を見ることはできないだろう。
種馬程度には使えるかもしれないが。

「アッシュのことは私達に任せなさい。お前は何も心配しなくていい」

「父上…」

「貴方が私達の息子であることは変わりません。ですからそんな不安そうな顔をしないでちょうだい。
折角愛しい息子が帰ってきたのだから、笑顔を見せて、ルーク」

シュザンヌに言われ、ルークは力なく微笑んでみせる。
シュザンヌはその笑顔に微笑みを深め、アッシュが運ばれていく横で三人はテーブルへと着いた。
紅茶が運び込まれ、一息ついたルークに対し両親は再度暗い表情を浮かべる。

「落ち着かなくて申し訳ないのだけれど、貴方にもう一つ悲報があるの」

「悲報、ですか?」

紅茶のカップを片手に眉間に皺を寄せたクリムゾンを見る。
ルークの視線を受けたクリムゾンは一つ頷き、ナタリア殿下のことだと告げた。

「ナタリア殿下がインゴベルト陛下のお子ではないのではないかという情報が入ってきたな。証拠もあったのだが、念のため音素比較検査を行ったのだ」

「その結果、殿下は陛下のお子ではないと判明しました。
これにより貴方と殿下の婚約破棄が議会により決定され、貴方には新しい婚約者が着くことになります」

「ナタリアが…」

呆然とした顔のルークに対し、クリムゾンとシュザンヌは痛ましげな顔をする。
いきなり屋敷の外に連れ出され、帰還する間に自分が人間で無いと知り、落ち着く間もなく婚約者の悲報を知らされる。
精神的に参ってしまってもおかしくない出来事が連続しているのだ。
二人が心配するのも無理はないというもの。

「それで、だ。新しい婚約者なのだが、一人の伯爵令嬢が名乗りを上げている」

「もう城で会っているかもしれませんね。ナタリア殿下の身の上に関する情報を持って来たのも、彼女なのです」

「もしやガーネット伯爵令嬢ですか?」

「そうだ。自分以上にお前に相応しい女など居ないとやけに強気でな。
だが彼女は赤い髪も、緑の瞳も持っておらぬ」

成る程、だから渋い顔をしているのか。ルークは内心笑みを浮かべつつ父の言いぶりに納得した。
だがそれもルークにとって予想済みだ。だからこそ、ルークは自分がレプリカだとばらしたのだ。
レプリカであるからこそ、ルークはルビアと結ばれることができるのだから。
それは前回の生でイヤと言うほど思い知っている。

「父上、先程言ったように私はレプリカの身。もし彼女がそれを受け入れてくれるのであれば、私は彼女と婚約したいと思います」

「しかしだな…」

「他に貴色を持っている令嬢も居るでしょうが、私がレプリカだと解った上で婚約してくれる者は居ないでしょう。
それくらいならば色が薄く、少しでも丈夫な王族を産んでくれるであろう彼女の方が良いのではないかと思うのです」

「あなた、ルークの言うことも一理はありますわ。私のような子供ばかり産まれては、キムラスカに未来はありません。まずはガーネット家について調べさせましょう」

「うむ…他の令嬢が駄目ならばその手も考えてみるか」

とりあえず両親に自分の意向は伝えたと、ルークはそれに頷く事で会話を終わらせた。
後はなるようになるだろうし、ルークも表ではなく裏から手を回すだろう。
まずはナタリアの失脚からだなと淡々と考えながら、ルークは両親に言ってから自室へと帰還する。

「…ルビィ」

ベッドに身体を預け、数年ぶりに抱きしめた細い体の感触を思い出す。
思わず抱きしめてしまったが、まぁアレに関しては言い訳はどうとでもできる。
ナタリアが煩いかもしれないが、偽姫と発覚した以上議会はナタリアを排斥する方向で動くだろう。
まさかルビアがナタリアに関して情報を持ってくるとは思わなかったと言うのがルークの本音だが、それはそれで悪くない。
ルークとルビアの目的は同じなのだから。

「さぁ、大詰めだ」

空に向かって手を伸ばし、ルークは拳を握り締める。
もう少しで、愛しい女を堂々と自分のものだと言えると。
鬱蒼と、ルークは哂った。


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