シンクには奇病とでも表現しようが無いものがある。
ヴァンに拾い上げられた彼は身体に譜陣を刻まれるのと同時に、ディストが行っている研究の実験対象にもされた。
その研究成果は確実にシンクの力を底上げしたが、同時に強い副作用をもたらしてしまった。
音素の欠如したレプリカが破壊衝動を抑えきれず周囲を攻撃したように、副作用に襲われるシンクもとても苦しんだ。
だから教育係だった私の手元から離れても、副作用に耐え切れなくなる前にシンクは必ず私の元を訪れる。
そして今日もまた、僅かに呼吸を荒くしたシンクが私の元を訪れた。
「シンク…辛いの?」
「ごめん…ちょっと前に貰ったばっかりなのに」
「ちょっとじゃないよ。もう一ヶ月も前じゃない。そろそろかなって思ってたから大丈夫。ほら、上がって」
「うん」
団服の胸元を鷲掴み、何かに堪えるように震えながらシンクは私の私室へと向かった。
私はドアに鍵をかけ誰も入室できないようにしてからシンクの後を追う。
ベッドに腰掛け仮面を取ったシンクの顔色は悪く、我慢に我慢を重ねていたのが見て取れた。
「馬鹿ね…我慢しないでって言ってあるでしょう?」
「でもどれくらい耐えれるのか確認しておかないと…このままじゃ遠征にも行けやしない」
「それはそうだけど…」
シンクは長く息を吐き、焦点の合っていない瞳で私を見ている。
私は手袋を外し、腕まくりをしてベッドサイドテーブルから小刀を取り出した。
制服の前を軽く崩せば、期待するようにシンクの喉が鳴る。
「我慢は身体に良くないよ。大丈夫、最近ほうれん草とかたくさん食べてたから」
そう言って、私は小刀で自分の腕を切る。
切り口から血がにじみ出てきたあたりでシンクも我慢の限界を超えたらしく、私の手を取ったかと思うと無理矢理引き寄せて傷口に口付けた。
傷口に犬歯を立てられて痛みが走るが、シンクはそれに気付くことなく溢れてくる血を啜っている。
傷口を舐められればぞくりとした感覚が背中を走った。
「ん…焦らなくても、大丈夫だからね」
シンクの頭を撫でつつ、痛みを堪える。
血を啜られる感覚は痛みだけではない感覚を伴っていて、私は堪えるように長く息を吐いた。
身体に改造を施されたシンクを襲った副作用は、いわゆる吸血行為だった。
正確に言うのであれば、血中音素を求めて止まらなくなってしまう状態、らしい。
詳しくは私も教えてもらっていないが、吸血行為を行うことでシンクは己の中の破壊衝動を抑えることができるというのは間違いないようだ。
本人も誰彼構わず襲うのは嫌らしく、こうして私の元を訪れては血を求めてくる。
やがて唾液の滴る音を立てながら口を離したシンクが、手袋を外した指で私の傷口を撫でる。
第七音素が収束し、あっという間に傷口は姿を消した。
けど終わったわけじゃない。
無理矢理引き寄せられ、案の定ベッドに押し倒される。
これはもう毎度の事で、血を舐めているシンクは理性を無くして私を貪ろうとする。
以前制服を破られて以来、私はあらかじめ制服の前をくつろげるようにしている。
「ん…っ、く…」
首筋に鋭い犬歯を突き立てられ、私は声を出さないように唇を噛み締めた。
ぷつりと肌が裂ける感触。流れてくる血を啜られる感覚。シンクの舌が肌を這うたびにぞくぞくと悪寒にも似た感覚が背中を駆け上がる。
首筋から聞こえる粘着質な水音に反射的に身を捩るが、シンクに押さえつけられて逃げることは叶わない。
「エリーゼ…エル……ごめん、でも…」
「…っ、大丈夫…だから、ね?」
「うん…っ」
余裕のないシンクの声。
頭がくらくらするのは血が足りないせいか、それともむせ返る自分の血の香りに酔ってしまったのだろうか。
安心させるようにシンクの頭を撫でながら、私は自分の血が啜られる音を聞いていた。
一心不乱に私の血を舐め上げているシンク。
その姿を愛しいと思ってしまう私はどこかおかしいのかもしれない。
こうして求められるのは、正直言って嫌いではない。
痛みを伴う行為が嫌ではないなどと、私は実はマゾヒストなのかもしれない。
けれど痛みの中にまた別の感覚が混じっているのも事実で…。
散々血を舐めて満足したのか、シンクの指が私の首筋を撫でた。
傷口が塞がっていくのを感じてから、起き上がろうとして失敗する。
くらりと襲ってきた眩暈と、私を押さえつけたままのシンクに妨害されて。
「エル…エル…ッ」
「ん…っ、ふ、ぅ…」
どこか恍惚とした表情でシンクが唇を重ねてくる。
鉄錆の味がする深い口付けに私も応えようとするが、頭がぼーっとしているせいでうまくいかない。
激しくなる口付けに更に酸欠状態も加わって、シンクに押さえつけられながら無我夢中で唇を貪りあう。
舌を絡ませ合えば柔らかな舌の感触にぞくぞくとした感覚が背中を走る。
「シンク…満足、した?」
「まだ…」
「ん、まだ、飲む?」
「ううん、エルが…足りない」
手首を押さえつけられながら、再度唇を貪られる。
シンクの舌が歯列をなぞり、私の舌を絡めとり、時折唇を甘噛みされる。
お互いの唾液が混ざり合いどちらのものか解らなくなる。
「ぁ…ん、ふぁ…っ」
どれだけ唇を重ねていたのだろう。
ようやく唇が離れたかと思うと、今度は首筋に口付けられる。
まだ血が足りないのかと思ったが、微かに痛みが走ったことで違うのだと解った。
犬歯を立てられる鋭い痛みではない。皮膚を思い切り吸われる痛みだ。
「シンク…そんなとこに痕付けちゃ…駄目…ッ」
「でも、エルは僕のものだって印付けとかなきゃ…」
「付けなくても、シンクのだから…」
「駄目だよ。他の人にも解るようにしておかないと」
「ん…っ、見えちゃう…」
「見せるんだよ。エルは僕の、僕だけのものだって」
私の手首を掴んでいたシンクの手が離れ、指を絡められる。
俗に言う恋人繋ぎという奴だ。
シンクを見上げれば、私を見下ろしている真っ直ぐな視線。
「誰にも渡さない。君は僕のだ」
「…馬鹿ね、そんなのみんな知ってるのに」
「でも…怖いんだ。取られちゃうんじゃないかって」
「私がシンクのもので居たいんだから、大丈夫」
「ホント?」
「本当。それに私がシンクのものなら、シンクも私のものでしょう?」
「…うん。僕は全部、エルのものだ」
細められる若葉色の瞳に、自然と私の頬も緩む。
シンクも微笑みを浮かべ、私の手を持ち上げると指先にそっと口付けた。
かと思うと犬歯が立てられ、指先から血が流れる。
それを舐めとりながら、シンクは私を見下ろしている。
「この指も、首筋も、血も、全部…くれるよね?」
「当たり前でしょう?」
私が答えれば、シンクは恍惚とした表情のまま笑みを浮かべる。
はだけた服の隙間から覗く肌に再度吸い付かれ、ぞくぞくとした感覚が背中を走る。
この背徳的な行為を、私達はきっと続けられる限り続けていくのだろう。
お互いに、依存しあいながら。
君を貪る
吸血シンクでした。R12くらい、かな??
何か吸血って耽美なイメージがあるのですが、耽美な小説は私には無理だったようです←
吸血鬼シンクのリクエストも頂いているのですが、その前に書いていたものなのでこれはこれでアップ。
清花
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