さらりと頭頂部で結ばれた白髪が揺れた。
首筋を撫でる自らの髪は少しだけくすぐったいけれど、それも既に慣れたもの。
シンクの手が私の髪をすいて、それに少しだけ照れくささを覚える。
「時間、まだ平気?」
「うん。平気。シンクは?」
「エルよりは余裕だよ。ある程度融通が利くからね」
私は導師守護役、現在は休憩時間を貰って恋人であるシンクとの逢瀬の真っ最中だったりする。
場所は、滅多に人が来ない日当たりの悪い中庭。
木に凭れて座っているシンクに抱っこされている状態だ。お陰で日当たりが悪かろうと肌寒さはそれほど無い。
「肩冷たいし…寒い?」
「ううん、シンクがあったかいから平気。それに制服だから仕方ないよ」
「太もももむき出しだもんね。見ていてちょっとムカつく時あるんだよね」
「何で?」
「僕以外に見せたくないから」
「じゃあ次からはインナー着ようか?そしたら肌見えないよ」
「いいの?自分で言うのもなんだけど、僕の我が侭だよね?」
「それくらい別にいいよ」
「ありがと」
ちゅっとリップ音を立ててキスが降ってくる。
正面からは無理だけれど、角度を変えれば仮面をつけたままのシンクともキスができると判明したのはつい最近だ。
そのままぎゅっと抱きしめられながら、何度もキスを繰り返す。
止みそうに無いキスの雨にシンクの服をつかんだが、今度は唇を舐められて体が跳ねてしまう。
唇を割り入ってくるシンクの舌は柔らかくて、そして熱い。
口の中をかき乱されることに羞恥心を覚え、同時に息苦しさを感じて身体の力が抜けていく。
「ぁ…ふ、ぅ…」
「エル…可愛い」
唇が離れたかと思うと、そんな言葉を囁かれる。
冷たい風が熱を持った頬を掠めるのが心地よい。
シンクの頬にそっと手を添えると、手袋越しにシンクの手が重ねられた。
「気付いてる?目、潤んでる」
「そんな事ないよ…」
「ホントだって。いつ見ても綺麗な目だけど、涙に濡れてる時が一番綺麗だと思う」
「…シンク、からかってる?」
「まさか。まぁ顔を真っ赤にするエルは見ていて楽しいけどね」
くすくすと喉の奥で笑うシンク。
やはり赤くなって居たらしい顔を隠すためにシンクの胸元に顔を埋めたが、すぐに顎をすくわれて視線が絡み合う。
下から覗きこんでいるお陰で、仮面の下にあるシンクの瞳を直接覗き込むことができる。
普通に相対していたならば、無機質な仮面と視線がかち合うだけだっただろう。
「綺麗な眼って言うのは本当だよ。左右の色が違う…オッドアイ、だっけ?エル以外見たことないし」
額に口付けられ、続いて瞼にキスが落ちる。
昔はよくこの瞳の事でからかわれたものだが、シンクがそう言ってくれると好きになれそうだと思うから不思議だ。
シンクの手が私の頬を撫で、再度髪をすく。
そして一房手に取ったかと思うと、髪にまで口付けを落とした。
「この髪も…真っ白で凄く綺麗。今もまだ自分の髪、嫌い?」
「昔はおばあちゃんの髪みたいで嫌いだったけど…シンクが褒めてくれるから、今はそんなこともないよ」
「おばあちゃんね。僕は雪みたいだなって思ったけど」
真っ白な髪。
昔はコンプレックスから短髪にしていたがシンクに褒められて以来、ずっと伸ばしている。
その理由は実に単純で、こうして髪に口付けられるのが少しだけくすぐったくて、嬉しいからだ。
「私の髪が雪なら、シンクの髪は何かな?葉っぱ?」
「…光合成はしないけどね」
「でも水をあげたら喜びそう」
「水よりもエルをくれた方が喜ぶよ」
再度口付けが振ってくる。
それを受け入れるためにシンクの首に腕を回せば、私の背中と後頭部にシンクの手がそえられる。
啄むように何度も何度もキスを重ねるのは、もうすぐ別れの時間が近づいているからだ。
何度逢瀬を繰り返していても、別れの時間というのは結構に辛くて、慣れそうに無い。
次に会えるのはいつだろうかと、早くもそんな事を考えてしまう。
「…ん、そろそろ行かなきゃ」
「うん、何も無いとは思うけど…気をつけて」
「大丈夫。シンクも頑張ってね」
「愛してる」
「…私も、大好き」
ストレートな言葉は今でも慣れないけれど、きちんと伝えたいという思いから言葉にする。
最後にもう一つだけキスをして、私とシンクはその場から立ち上がった。
手を降って別れ、廊下に出てからは他人のふり。
シンクが周囲に関係を知られるのを嫌がっているから、人目のあるところでは会話も無いに等しい。
少し寂しいけれど、関係がばれてしまえば色々問題が出てくるのも明らかなのでそこは我慢するしかなかった。
「…イオン様?」
導師の執務室に向かう途中、警護対象であるイオン様がぼうっと廊下に立っているのを見つけて、思わず声をかける。
窓の外を眺めていたらしいイオン様ははっとした顔をすると、すぐに微笑みを浮かべて私を振り返った。
「エリーゼ…休憩は終わりですか?」
「? はい。何故こちらに?守護役もつけずに…」
「少し一人になりたくて…ココなら安全でしょうし、アニスに頼んで席を外して貰いました」
「お気持ちは解りますが…」
「解ってます。次からは気をつけて、ですね?」
「はい」
言葉を先取りされ、私は苦笑するしかない。
イオン様は再度窓の外に視線を落とした後、音叉の杖をぎゅっと握り締めながら私を見る。
「…エリーゼ」
「はい、イオン様」
「……今、幸せですか?」
イオン様の唐突な質問に、思わず一瞬きょとんとしてしまう。
しかし幸せかと聞かれたら、答えは一つだ。
「はい、幸せです」
「そう、ですか…エリーゼ、僕は…僕は、貴方の幸せを願っています」
「? ありがとうございます」
「だから…何かあったら、遠慮なく相談してくださいね。微力ではありますが、力になりたいと思っています」
微笑みながら言われ、私は戸惑った。
何故急にそんな事を言い出すのかと疑問が頭を占めたが、かろうじて礼を言うだけに留める。
私の戸惑いを理解できたのか、イオン様は笑みを浮かべながら私を手招いた。
促されるままに窓の前に立ち、指差される方向を見れば先程まで居た中庭が窓からは丸見えで、シンクとの逢瀬を見られていたのだと悟り頬が熱くなるのを感じる。
慌ててイオン様へと視線を移せば、微笑みを浮かべたままのイオン様にそっと頬に口付けられた。
「イ、イオン様…っ!?」
「ふふ、実はちょっとだけ嫉妬してました」
「え!?いや、あのですね!その…っ」
「大丈夫です。誰にも言いません」
「あ、いえ、それはありがたいのですが…!」
「だから…何かあったら言ってくださいね。僕にもまだチャンスがあると思いたいので」
パニックになりながらもイオン様の言葉を頭の中で反芻し、その言葉の意味を理解した途端私は何も言えなくなってしまう。
目を瞬かせている私の髪を一房取ると、イオン様はそっと口付ける。
導師にそんな事をされているという緊張感と恐れ多さに私は眩暈を起こしかけたが、何とかその場に踏ん張った。
「さて、行きましょうか。アニスが待っています」
「は、はい!」
複雑な思いがぐるぐると胸の中で渦巻く。
言いたいだけ言って私の答えを望まないイオン様に少しだけホッとしながら、私は前を歩くイオン様に続くのだった。
……シンクになんて言おう。
接吻に愛を込めて
フリリク第一弾。
シンク甘夢。夢主は生まれつきの白髪&オッドアイの導師守護役でイオン様が密かに思いを寄せてる子。
真菰様のリクエストでした。
えーと、イオン様が全然密かじゃない件orz
むしろ何か強かだなこのイオン様。
シンク×夢主←イオン様ですね、これ。
設定生かそうと思ったら何故かシンクの褒め殺しと相成りました。
甘いのは書いてて身体が痒くなります。何でだろう?
でもスラスラ書けました。ウチの連載夢主は甘さ控えめのキッパリサッパリ系が多いので、ふわふわした女の子も書いてて楽しかったです。
真菰様、リクエストありがとうございました!
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