ジェイドに促されたイオンに続いて艦内を走った後、ティアとルークという二人組と合流した。
ルーク様は赤い髪と緑の瞳の持ち主で、慌てて敬礼して頭を下げた私の反応は極一般的なものだと思う。
思うのに、何故かティアから何をしているのと叱責され、思わず宇宙人でも見るかのような視線をティアに向けてしまった。
幸いティアがそれに気付くことなく、どうやって艦を脱出するかをジェイドに話しかけていたが。

二重の意味で驚きが引かない私は文字通り絶句していたのだが、それを好奇と見たらしいイオンにちょいちょいと服の袖を引っ張られる。

「エリーゼ」

「はい」

「これはルークから聞いたことなのですが…どうもティアはキムラスカのファブレ公爵邸に襲撃をかけ、擬似超振動を起こしてルークを誘拐してしまったようなのです」

耳元で囁くように呟かれた言葉は衝撃的過ぎて、一瞬脳味噌が理解を拒否した。
生まれて初めて自分の血の気の引いていく音を聞きながらイオンを見れば、全てを諦めたような顔で明後日の方向を向いている。
現実逃避をしているのだろう。
戻ってきて下さいイオン様!私の手には負えません!という叫びを何とか飲み込む。

「これ以上ダアトの恥を晒すわけにはいきません。
しかしティアもジェイドも何の疑問を持つことなくルークに剣を持ち戦えといいます。
エリーゼ、不満でしょうが貴方も戦闘に参加し、何としてでもルークを守ってください」

ふぅと息を吐いた後、何とか現実に戻ってきてくれたイオンはやけくそ気味に私に言う。
その言葉を聞いた瞬間、私はイオンが是以外の返答を求めていないことを悟った。
本音を言えば反対したい。導師守護役は導師を守るために存在するのだ。
導師の護衛を離れて戦闘に参加するなど許されることではない。

しかし神託の盾兵であるティアがしでかしたことの大きさを考えれば、反対しきれない。
ここでルーク様を守りきり、少しでも名誉を挽回する必要がある。
導師が自らの身を省みず、たった一人しか居ない自分の守護役に命じてルーク様を優先させたとなれば多少の誠意も届くというもの。
イオンの言いたいことを理解した私は拳を握り締め、深く頷いた。

「必ずや、ルーク様とイオン様の御身をお守りいたします!」

そっとチャクラムに触れながら言えば、イオンはホッとした顔を見せてくれる。
ずっと不安だったのだろう。守護役がアニスしか居なかったのだから、しょうがないのかもしれない。
いいタイミングでジェイド達も話が決まったようで、私達を呼びつけタルタロス脱出のために動き始めた。

ジェイド達にとって幸いだったのは、神託の盾兵の殆どがジェイドを見ると戦意を喪失することだった。
これに関してはイオンに促され、私が説明した。
烈風のシンクが一般兵では敵わないだろうから戦うなと指令を出していたのだと。

それを好奇と見たジェイドは自ら先陣を切り、タルタロス脱出を決行。
脱出間際に『躯狩り』という緊急停止装置を使い、神託の盾兵をタルタロスの中に閉じ込めるという徹底振りも見せた。
こうして脱出した私達は、途中ガイ・セシルというルーク様の使用人を名乗る男と合流し、ある程度距離を取ったところで休憩を兼ねて改めて話をすることになった。

「オレはガイ・セシル。ルーク様の使用人だ」

「神託の盾騎士団導師守護役所属、エリーゼ・ハーミット響手です」

ガイに続き、そう言えば自己紹介をしていなかったなとフルネームを名乗る。
ついでにティアやジェイドにも自己紹介をしてもらったのだが、ティアが響長だと名乗ったことに私は今日何度目か解らない驚きを覚えた。

私の階級を知らない状態で叱責してきたのだからさぞ階級が高いのかと思っていたのに、思い切り下の下の階級だったのだ。驚きもする。
更に言わせて貰うならば、たかが響長がルーク様に向かってタメ口を利いていること自体がおかしいのだが、多分気付いてないんだろうな。

でもまぁ、これでルーク様の守りも少しはよくなる筈だ。
なんてったって貴族の使用人。ここにいる軍人2名とは違い、徹底的に教育を受けている筈。
まさか主人に剣を持たせて戦えとは言わないだろう。

私もイオンもそう考えた。
とても常識的な考えの筈だったのだが、それはすぐに間違いだったと知る。
ガイ・セシルもまた、ルーク様が剣を握ることに何の疑問も覚えなかったのである。
それどころかお屋敷に襲撃をかけたはずのティアと仲良く談笑すらしている。

「……イオン、世界って広いわね」

「そうですね。これがカルチャーショックという奴なのでしょうか」

はははは、と空笑いを零しながら現実逃避に浸る私とイオン。
神様ユリア様ローレライ様、誰でもいいからもうこいつ等何とかしてくれよという切なる願いは、今のところ叶えられそうに無い。







使用人が役に立たないと解ってからは結局私がルーク様とイオン様をお守りしていたのだが、流石に一晩で第一合流地点らしいセントビナーに到着することは叶わず、野宿することになった。
元々丈夫でないイオンも疲労の色が濃く、また悲しいかな私も疲れを隠しきれていない。
肉体的にも精神的にも疲れが溜まっている私達を見て、ジェイドが野営をすると言ってくれたのだ。

正直な話、とてもありがたい申し出だったのでイオンがそれに頷いた時は内心喜んでしまった。
いや、導師を野宿させるなんて喜んじゃいけないんだろうけど。
でも無理をさせるわけにもいかないし、しょうがないじゃないか。

「なぁ」

「はい」

簡単な食事を終えてジェイドが見張りをしている中、イオンの斜め後ろに居た私にルーク様が声をかけてくる。
その顔に迷いを見た私は一つ微笑んでから、イオンに視線だけで許可をとってルーク様の方へと歩み寄った。

「どうかされましたか?」

「その…エリーゼ、だったよな?」

「はい。何か御用でしょうか?」

「一個聞きたいんだけど…なんで俺を守ろうとするんだ?」

「そうね、それは私も聞きたいわ。ルークばかり守ってないで、少しは詠唱の手助けもして頂戴」

私がルーク様の質問に答える前に、腕を組んでコチラを睨みつけてくるティアが割って入ってくる。
多分、私が気に入らないのだろう。今日の戦闘中、詠唱中は守ってという言葉を散々無視してきたわけだし。
ルーク様がティアが割り込んできたことに目に見えてムッとしたため、私はルーク様に一言断ってからティアへと向き直る。
頼むからこれ以上教団の醜聞を撒き散らさないで欲しい。ホント。

「ティア・グランツ響長」

「なに?」

「聞こえませんでしたか、ティア・グランツ響長。
貴方は私よりも階級が下です。だというのに何ですかその口の利き方は!」

「な…っ」

「上下関係を徹底するのは軍にとって当然のこと。神託の盾を名乗るならば最低限の礼儀くらい弁えなさい」

今までのストレスもあったのか、私の声は自分でも驚くほどに硬く冷たいものだった。
私がぴしゃりと言い切った後、ティアは助けを求めるように周囲を見るが誰もティアを助けることはしない。
イオンやジェイドは当然のことのように見ているだけであり、ガイはこえーと呟きながら肩を竦めるだけだ。
ルーク様にいたってはきょとんとした顔でコチラを見ているので思い切り論外である。
ティアは味方が居ないことに歯噛みすると、渋々口調を改めた。

「…っ、失礼、しました。しかし戦闘中に後衛の詠唱を補助しないのは話が別ですっ!」

「貴方が求めているのは詠唱中の補助ではなく保護でしょう?」

「詠唱中の譜術師を守るのは当然じゃないですか!」

「当然ではありません。私もカーティス大佐も詠唱中に保護を求めましたか?
敵の攻撃が当たらない位置で距離を取って詠唱する、敵がダウンしている間に詠唱する、敵との直線状に前衛が居るのを確認してから詠唱する。
基礎中の基礎です。基礎ができていないのに自分を守れなどと、貴方は一体何を学んできたんです?」

「そんな事、できるはずがありません!」

「私もカーティス大佐もやっています。できないのは貴方の力量不足に過ぎません。
守られて当然などという甘い考えは即刻捨てなさい」

ティアの反論にもならない反論を切り捨てた後、視線だけで全員が私とティアに注目していることを確認する。
これは逆にいい機会だと解釈し、眉を顰めながら歯噛みしているティアに向かってもう一度口を開いた。

「それとグランツ響長、軍人には一般人を守る義務があります」

「それくらい知ってます!」

「なら何故ルーク様をお守りしないのですかっ!!」

「ひっ!?」

私の突然の怒声に、ティアが息を呑みあとずさる。
この程度でひるむなど、一体ティアは何故軍人をやっていられるのだろう?
響長の地位さえ怪しく思えてきてしまうレベルだ。

「一般人の定義を述べなさい!」

「ぐ、軍に所属しない、戦う力を持たない人々…です」

「そうです。そしてルーク様は一般人です」

「ルークは戦う力を持ってるじゃないですか!」

噛み付くように叫ぶティアに対し、私はまるで変なものを見るような目を向ける。
イオンもティアに対し似たような視線を向けていたのだが、やっぱりティアは気付かない。

確かに、ルーク様はイオンや私の前でも戦っていた。
だが私から言わせればそれは剣術ごっこにしか見えないほど、拙い腕でもあった。
少しでも気を抜けば、致命傷を負いかねないほどの。
それは周囲に導師守護役を抱えているイオンでさえ解ることだ。

「ルーク様の剣はたしなみであり、戦う力ではありません。身を守るための力です」

「一緒でしょう?何が違うの!」

「大違いです。その程度の違いすら解らないとは、リグレットは一体何を教えていたのかしら…」

「教官の悪口を言わないで!」

「貴方の態度がそうさせているんですよ。
いいですか、仮にも軍人を名乗るならばルーク様を戦わせようなどとふざけたことは二度といわないように。寝言は寝てから言うものですからね。
それとルーク様は貴族です。きちんと敬語を使いなさい」

不満たらたらの顔をしているティアを無視して無理矢理話を切り上げ、私はルーク様に騒がせてしまったことを謝罪した。
ルーク様は私の態度が変わったことに呆気をとられていたようだが、すぐに別に良いと言って許してくださる。
ティアがコチラを睨んできていたが、私もルークもイオンも綺麗にスルーした。

「えっと、つまりオレが一般人だからオレを守ろうとするのか?」

「そうです。それにルーク様はグランツ響長のせいでマルクトへ飛ばされてしまったと聞き及んでおります。
面識も何も無いとは言え、彼女もまた同じ神託の盾兵の一人。
彼女の代わりにルーク様にご迷惑をおかけしたこと、深く謝罪させて頂きます」

「いいって、散歩がてら帰るのも良いかなって思ってたしよ!
だから頭上げろ!あとそのルーク様ってのも止めろ!敬語もだぞ!」

腰を九十度に曲げて謝罪をすれば、ルーク様は慌ててそんな事を言ってくれる。
優しい方だと思う反面、同時に言われた内容に困ってしまった。
導師守護役とはいえ私は貴族でも何でもない。ルーク様と対等に話す権限など持ち合わせていないのだ。

私が困っているのが解ったのか、イオンがお言葉に甘えては?と促してくる。
だが私の評価はイオンの評価にも繋がる。イオンに言われたとはいえ、安易に頷くこともできなかった。
醜聞になるだろうし、イオンもそれが理解できないほど馬鹿じゃないはずだ。
だがイオンは大丈夫ですよと微笑むだけで、私は更に困惑してしまう。

「しかし…」

「オレが良いって言ってんだから良いだろ!」

「……公式の場では無理だからね?」

長い葛藤の末、イオンの後押しもあって私はついに折れた。
砕けた口調になりつつも、ちょっと苦笑がもれてしまったのはご愛嬌だ。
ルークは気にしていないのか、おう、と言いながらイオンの横に腰を下ろす。

「にしても、エリーゼみたいな奴も居るんだな。オレ導師守護役ってみんなアニスみたいな奴ばっかりだと思ってたわ」

「タトリン奏長が何かしたの?」

「何か変に甲高い声を出したり、体クネクネさせたりしてた」

「……後で叱っておくわ」

ルークに媚を売るアニスがすぐさま脳裏に思い浮かび、拳を握って怒りを堪える。
イオンも空笑いを零していて、もう諦めの境地に達しているようだ。

預言を覆す前に、ダアトが先に滅びるかもしれない。
そんな事を思いながら、私は深々とため息を零すのだった。






ラルゴが居ないのでジェイドに封印術はかかっていないです。
つまり一人だけ高レベル。夢主もそこそこ強いけどジェイドよりは下。


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