「ふふ、ふふふふ」

「ねぇ、気持ち悪いんだけど」

「それが恋人に向かって言う台詞ですか!?」

ぎゃーぎゃーと文句を言うのは、副官兼僕の恋人であるエリーゼ。
いつもは師団の制服を着ているが、今日は休暇ということで珍しくも私服を着ている。
かくいう僕もエリーゼにねだられ、本当に珍しく私服を着ている。
といっても仮面の変わりに帽子を目深に被り、更に仮面と同じ(視界を遮らないようにするための)譜術をかけた包帯で片目を覆っている。

「久々の休暇!呼び出しされない休暇ですよ!!しかもシンクとデート、デートです!笑みだって漏れるというもの!!」

「解ったからデート連呼しないでくんない?恥ずかしいから」

テンションマックスの恋人をどうどうと落ち着かせる代わりに頭をぽんぽんと叩いた。
確かにいつもならば、緊急事態だ、喧嘩だ、備品が壊れただと休暇であるにも関わらず職場に呼び出されるのはしょっちゅうだ。
そのため僕もエリーゼも休暇だろうとなんだろうと制服を着ていたのだが、生憎ココはダアトではなく水の都グランコクマ。
流石にココまで呼び出しに来る師団員は居ないので、エリーゼにねだられ渋々顔を隠してデートに出ている。

「ぶー。ところでシンク、何か気付きませんか?」

「は?何に?」

少し唇を尖らせたエリーゼに言われ、僕は周囲の気配を探ったが特に監視されたり尾行されているような気配は無い。
だから視線だけで何かいるのかと問いかければ、思い切りため息をつかれた。

「そうじゃなくて!今日は仕事の話は無しですよ、それ以外です!何か気付きませんか?もしくは、何か言うことはありませんか??」

期待に満ちた目で言われ、何かと考えてみるもののさっぱり思いつかない。
一体何に気づけというのか。

「……何?」

「いえ、シンクに期待した私が馬鹿でした…」

「ちょっとそれどういう意味!?」

がっくりと肩を落とすエリーゼに突っ込んでみるものの、もう良いと一言だけで返される。
しかしそんな中途半端な状態で強制終了されると気になって仕方が無い。

「ちょっと、そんな中途半端なところで切らないでよね。気になるじゃん」

「じゃあ言いますけど…恋人が精一杯おしゃれをして、慣れない髪のセッティングしてきたんですよ?ちょっとくらい、褒めてくれたって良いじゃないですか…」

ちょっと拗ねたように言われ、僕はようやく気付いた。
動きやすさ重視のエリーゼにしては、今日の服装はデザインに凝っていていつもなら絶対着ないであろうフリル多めの衣装。
髪だってちょっとだけ三つ編みされてたり、見たこと無い髪留めなんかも使っている。
靴だって持ってたの?って聞きたくなる、新品同然のミュールだ。

「あぁ、そういうこと…確かに今日は気合が入ってるね」

「気合入れたんですよ!折角シンクと出かけられるんですよ!?気合も入れます!
シンクに可愛いって思って欲しかったんです!」

ぷい、ってそっぽを向かれて、完全に拗ねられたと僕は悟った。
確かに気合全開だと一目見れば解るのに、一言もなければ拗ねるだろう。
女はそういうものだってヴァンも言ってたし。

けど、今更可愛いとか言えって?
エリーゼがこの姿で現れてもう時間も経ってるのに?
……今言わないといけないの、これ?

なんて考えてたら、気持ちを切り替えたらしいエリーゼが、先程とはうって代わって元気よく声を上げる。

「けどシンクには難しかったですよね!だからもう良いです、気を取り直して参りましょう!」

「ちょっ、ちょっと、待った!」

さらりと失礼なことを言いながら歩き出そうとしたエリーゼの手を取り、強制的にストップをかける。
多分、今言わないとずっと失望されたままだし、子供扱いされ続ける。
それは嫌だったから咄嗟に手を掴んだのだけれど、慣れない靴を履いているのも相まって転びそうになったエリーゼ。
それを受け止めつつ、顔に熱が集中するのを感じながら自分に気合を入れた。

「その……似合ってる。ちゃんと、可愛い…」

たった一言言うだけなのに気恥ずかしさを感じ、視線を逸らし口元を手で覆う。
顔が赤くなっているのを感じながらもちらりとエリーゼを見れば、頬をピンクに染めながらもきょとんとした顔をしていた。

「あの、ありがとうございます…シンク、嬉しいです。
でも、何で言ってるシンクの方が顔赤いんですか?」

「うるさいな!別に何だっていいだろ!?」

ツッコミを入れられ、僕は手を離してそのまま歩き出した。
これじゃあ逆切れだとわかってはいるが、目的地も定めないままずんずん歩く。

「あぁ!シンク、待ってください!」

「ほら、何処に行くのさ!さっさとしてよね!」

あちこちから聞こえる水音をBGMに、照れ隠しとはいえいつも仕事している時みたいな口調になってしまう自分にちょっとだけ自己嫌悪を覚えた。
しかしそんな僕に頓着することなく、エリーゼは僕の服の裾を掴んで足を止めさせてから、右手を此方に伸ばしてくる。

「シンクとなら何処でも良いですけど、右手がお留守なんです。だから、ね?」

ちょっとはにかみながら言われ、言いたいことを察した僕はエリーゼの右手を掴み再度歩き出す。
僕が仏頂面だというのにエリーゼはへへと笑っていて、馬鹿なんじゃないのかと思い、すぐにエリーゼの方が大人なのかと思いなおした。

こうして僕と付き合っているエリーゼだけれど、仕事以外では怒ることは殆ど無い。
僕がどんな反応をしても、エリーゼは怒ったりしない。
そんな事を考えると、憤っている自分が物凄く子供に見えた。
なので少しだけ歩く速度をゆるめ、エリーゼを見やる。

「……で、どっか行きたいとことかあるわけ?」

そう聞けば、少し考えたエリーゼが甘いものが食べたいと言った。

「プリンとか、苺のショートケーキとか、食べたいです。今すぐ!」

「今すぐって…朝食結構食べてたよね?」

「甘いものは別腹なんです」

それは真顔でのたまう台詞じゃないと思う、絶対。
こういうところは子供っぽいなと思うものの、しかしまぁ聞いたのは僕だしということで、近場で見つけたカフェに二人で入ることにした。
平日なせいか人も少なく、適当な席に座って水を持って来たウェイトレスに注文をする。

エリーゼは苺のショートケーキとミルクティーを頼み、僕はコーヒーだけ頼んだ。
それだけですかってエリーゼに聞かれたけど、他に一体何を注文しろというのか。

「こちらなどもお勧めですよ」

憮然としていた僕に、商売のチャンスとばかりにウェイトレスが別紙のメニューを見せる。
そこには人気NO.1と書かれた日替わりケーキセットが描かれていて、目をきらきらさせたエリーゼに負けて僕は日替わりケーキセットを頼むことになった。

ちなみに今日のケーキはミルクレープらしい。
インスタントな笑顔を浮かべたウェイトレスが去った後、エリーゼがにこにこと楽しそうに口を開いた。

「ふふ、楽しみですねぇ。美味しいといいなぁ」

「大通りに店を出してる時点である程度の腕を持ったパティシエ抱えてると思うけどね」

「そうでもないですよ。ほら、前にあった偽装カフェの件、覚えてます?」

「あー…そういえばそんな事あったね。薬の受け渡し場所にしてた奴」

「そうですそうです。そんなこともあるので最近じゃあんまり楽観視もできなくて」

少し前に摘発した犯罪組織を思い出し、確かにエリーゼの言うとおり楽観視はできないなと思いなおす。
しかしせっかくの休暇だというのに仕事の話を持ち出してしまうあたり、僕もエリーゼもちょっとばかりワーカーホリック気味なのかもしれない。
其の後も他愛ない話(という名の仕事の愚痴り合い)をしていたら、お待たせしましたーという声と共にウェイトレスが注文したものを運んできた。

分厚いミルクレープとコーヒーが僕の前に置かれ、苺の輝くショートケーキとミルクティーがエリーゼの前に置かれる。
どうぞごゆっくりと言って去っていったウェイトレスを見送り、エリーゼは早速フォークを片手にショートケーキに向き直る。
一口食べた途端幸せ全開の顔をしていて、子供かって言いたくなったけどエリーゼが幸せならばまぁよしとしよう。

「美味しいですよ、シンクも一口いかがですか?」

しかしそう言ってエリーゼが差し出してきたショートケーキの欠片に対する対処は別だ。
これはこのまま食べろということか、それともフォークを受け取って食べれば良いのか。
迷っていたのはほんの数秒だが、考えることが嫌になった僕はエリーゼの手を掴んで引き寄せ、ショートケーキを口の中に放り込んだ。
甘い生クリームとスポンジの間に挟まれた苺の甘酸っぱさが絶妙なバランスを保っていて、確かに美味しい。

「…シンクってば、時折大胆ですよね」

「誰のせいなのさ」

「やだなぁ、自分のせいでしょう。人のせいにしないで下さい」

きゃは☆とか言いそうな勢いで言われ、僕は先程の幸せなら良いかという思考回路もどこへやら、一瞬にして目の前の副官の頭をどつきたくなった。
エリーゼが笑顔で毒を吐くのは日常茶飯事だが、それでもこうして時折殺意が湧く。

「シンクのミルクレープは美味しいですか?美味しかったら一口下さい!」

「嫌だね。コレは僕のだから」

「あぁ、ずるい!ショートケーキ一口あげたじゃないですか!」

「君が勝手に寄越したんじゃないか」

そんな阿呆なやり取りをしていたが、結局ミルクレープは一口分奪われた。
まぁコレは予想の範囲内。予想外だったのは、コーヒーの味だ。
また仕事でグランコクマに来た際に寄ろうと思えるほどに、ココのコーヒーは美味しかった。
会計を済ませた後、また来ましょうねというエリーゼに対し、そうだねと素直に言えるほど。

カフェを出て、大通りを歩く。
行き交う馬車を避けながら、さて次は何処に行こうかなんてエリーゼと話す。

「そうですねぇ、フォルバルラってお店のランチが美味しいと宿の人が言っていましたし、あと王宮から少し離れた場所にある公園は広くて噴水が見事だとも聞きました。
それから今美術館では水の譜術を使った作品を展示しているそうなのでそちらも気になりますし…」

「ちょっと、今日一日でそれ全部行く気?」

「できれば行きたいですけど、無理でしょうねぇ」

「久々の休みだってのに…」

「久々の休みだから遊び倒すんですよ!夜はバイキングが美味しいというノービレで食べたいです」

「休日くらいのんびり過ごそうとか思わないわけ?」

「シンクと一緒なんですよ!いっぱい思い出作りたいじゃないですか!」

ぐっと拳を握りながら言われた台詞が予想外で、思わず反論できなくなってしまう。
そんな事を言われたらうかつに反論できなくなるじゃないか。
頬が少し熱を持っている気がして、そっぽを向いて誤魔化した。

顔を覗かれそうになったが、それも避ける。顔が赤くなっているところなんて見られたくない。
すると僕が機嫌を損ねたと思ったのか、一気にテンションが下がったエリーゼが眉尻を下げながら恐る恐る聞いてきた。

「すみません…嫌でしたか?シンクは私の我が侭に振り回される形ですし、嫌なら嫌で良いですよ。疲れてるでしょうし、お茶もできましたから宿に戻りましょうか?」

「…別に」

「少しくらい…叱ってくれても良いんですよ?」

「別に嫌じゃないって言ってるだろ。けど、たまにだからね。いっつも付き合ってたらこっちが疲れる」

「! はい!」

僕が嫌じゃないといえば、すぐにエリーゼは元気になる。
何とか誤解が解けたようで、僕は密かに胸を撫で降ろした。
にしても本当に感情の上下が激しい。疲れないのだろうか。
鼻歌を歌いそうな雰囲気で先を歩いてるエリーゼを見て、そんな事を思う。

そしてふと気付いたのは、先からやってくる二頭立ての馬車。
僕は咄嗟にエリーゼの手を引き、後ろに引かれて転びかけた身体を腕の中に閉じ込めた。
小さな衝撃と共にエリーゼの身体はあっさりと僕の腕にがんじがらめにされる。
目を丸くしているエリーゼが先程まで居た場所に水溜りの水を飛び散らせ、馬車が横を通り過ぎていく。

「…服、汚れるよ」

「あ、ありがとう…ございます…」

僕の説明じみた言葉に、突然腕の中に閉じ込められびっくりしたらしいエリーゼがたどたどしく礼を言った。
エリーゼの頬が少し赤くなっているのが解って僕はまたそっぽを向く。
けどさっきみたいに誤解されるのも嫌だから、抱きしめる腕にちょっとだけ力を込めた。

「…シンク、不意打ちは卑怯ですよ?」

「煩いな。ボケッとしてる君が悪いんだろ」

素直になれない自分に、また自己嫌悪。
それでもエリーゼが小さく笑ってくれたから、まぁいいかななんてすぐに思考を切り替える。

「ほら、美術館行くんでしょ」

「はい!」

今更ながらに周囲の目も気になってエリーゼを解放すると、エリーゼはいつものように元気よく返事をして僕のほうに右手を差し出してきた。

右手がお留守です。
そういわれる前に僕はその手を取る。

そっと握り締めた手は、いつものように温かかった。






ワールドイズマイン





と、いうわけでワールドイズマインでした。
歌詞通りに世界で一番おひめさま!を目指しましたが、何か違う。
というか全然違う気がするorz

どうしても補佐官ヒロインや守護役ヒロインだと夢主がリードする話になってしまいます。
もっとシンクが大人な話も書いてみたいですね。夢主に振り回されるシンク、とか。
でも背伸びしようとするシンクも書いてて楽しかったです。

でもシンクはツンデレだから仕方な、ちょ、シンク、何をする。
やめ、くぁwせdrftgyふじこlp;


作詞・作曲:ryo
唄:初音ミク


BACK
ALICE+