君と私の線香花火



昼間程の暑さでは無いがこれでもかと薄手のシャツが肌に張り付くような蒸し暑さが残っている夏の夜。なまえと暮らし始めてから初めて迎える猛暑の中、悠仁の同期や高専の仲間たちを呼んでなにやら楽しみにしていたと互いに持ち寄った大きな袋をガサガサと開けていた。

「ごめん脹相、この蝋燭に火を付けて欲しいの。私はバケツに水を入れてくるね!」
「あぁ、わかった」

渡された小袋になにやら説明書のようなものと、小さい蝋燭が二本入っていた。指示通りに火を付けて地面に蝋を垂らす。固まる前に本体を立てて固定した。なんとなくだが体が自然と覚えている感覚だった。きっとこの体の持ち主がやったことがあるのだろうがどうにも朧気だ。おそらくあまり経験はなかったのかもしれない。体からの情報の強さには度々差があったからそういうことだと思う。
「おまたせー!」と水の入ったバケツを持ってきて「使い終わったらこれに入れてね」と言って袋から一本の棒を取り出した。先端に紙切れのようなものが付いていて、そこに先程の蝋燭から火を付けるとパチパチと弾ける音を出して激しく光りながら燃えていく。これをするのは夏の夜だけだと聞いた。少し離れたところでキャッキャとはしゃいでいる仲間たちを見ているとこちらまで楽しい気分になる。これが花火というものか。

「はい、脹相もやろ?」

玄関の石段に座って見ていた俺になまえから渡されたのは何かを紙縒りにしたようなもの。見様見真似で火をつけると、しばらくしてから火の玉になってパサパサと火の粉を出し、ポトリと地面に落ちてしまった。

「これは線香花火って言うの。さっき落ちた玉を最後まで落とさずにできたら成功!これが意外と難しいんだよね」

もう1回やろ!と再度渡してきたそれに火を付けて今度はじっと見つめてみる。が、途中で落ちてしまい中々難しい。三度目の正直と言ってまた火を付ける。ふと見た目の前の彼女は上手くいったのか、暗がりの中でもわかるその大きな瞳が嬉しそうに輝いていた。

「綺麗だな」

自然と出た言葉だった。

「ねー!ほんとに綺麗」
「違う、これも綺麗だがなまえの目が綺麗だという意味だ」
「ぁ・・・え、そ、そうなの…?や、やだもう、そんな急に何言ってんの?照れちゃうなー」

そんなの目に反射してるだけだからー。と緩んだ頬に手をあてているがその仕草すら無性に愛らしいと思う。半分人間で、半分呪霊の存在である俺がそう思うのはおかしなことだと思っていたが、悠仁やなまえと過ごすうちに自分の中の人間という部分に気付かされる。

「お前のその目に映る花火の光が綺麗なのは、きっとお前が生きていて、必死に命の火を燃やしているからなんだろうなと、そう思う」
「脹相だって生きてるじゃん。あなたの目だって綺麗だよ?」
「生きてはいる。が、なまえのような生を体験することはできない」
「それは、私が人だから…?」
「そうだ。生きている時間の速さが違うからな」
「んー、私も同じになれたらいいのに」

お前と俺は生きている時間も、これから生きる時間も違う。俺は呪力が尽きない限り失血死することも無ければ怪我の治りも早い。食事も気分でしているだけで本当は摂らなくても平気だ。余程大きなダメージが無ければ呪霊のそれと同じ体。だがこの感覚は完全な人間であるお前とは共有できない。そこに俺と人間の差をこれでもかと感じてしまう。なまえは「あなたも人間だよ」と言ってくれるが、やはり人とは違うと思ってしまう。

「だが、だからこそいいのかもしれない」
「どういうこと?」
「今だからわかる。生きるために燃やす火は綺麗だ」
「歳とってるのに?」
「あぁ、これは人間の一生のようだ」
「?」
「この線香花火のように最後はポトリと消えていくのか、それとも自然と消えていくのか。それは個々で差がある。まるで人の命のようだ。燃えている間はとても明るく、とても暖かい。だがそこがいい。俺はお前と最後の火花が消えるその時まで、燃やし続けたいと思った。・・・なまえはそういうのは嫌か?」
「・・・」
「なまえ?」
「・・・・・・え!?」

返事が無いので顔を上げると、そこには花火の光に照らされてもわかるほどの真っ赤な顔があった。俺の言いたいことが伝わっただろうか。以前人だろうが呪霊だろうが生きてることに変わりないと言ったお前が大切で愛おしくて仕方がないということを。
持っていた線香花火が落ちることなく消える。空いた手を伸ばして赤くなった頬を撫でれば、花火の光が無くても綺麗な瞳がキラキラしていた。







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