帰りたくない、帰したくない
※現パロ。お互い社会人。
あんな山のように積もってた雪もこれから芽吹く新しい命のエネルギーになるためにサヨナラをしたばかりの季節。春の匂いはしているけれど、まだまだ寒くて、モコモコのガードは欠かせない。はずなんだけど、今日という日に限って浮かれていたのかバッグに入れていたはずのお気に入りの手袋を家に忘れてきたみたい・・・。だって遅刻なんてできなくて、早く彼に会いたかったから急いで家を飛び出しちゃった。
そう、今日は大好きな恋人と数ヶ月ぶりに会えるのだ。仕事のすれ違いで連絡こそお互いに送り合っていたけれど、中々会うことはできなくて・・・。やっともぎ取った二連休で久しぶりにデートをするのだ!と意気込んで昨夜は早めに準備もしたのに、まさか手袋を忘れるとは・・・。仕方ないのでコートのポケットで寒さをしのぎながら待ち合わせの場所に向かうと見慣れたツインテールがいた。高身長のツンツンなツインテールなんて注目の的だけど、彼は不思議とそれが当たり前のように似合っていた。やっと会えた・・・なんだか無性にドキドキする。久しぶりだからかな。向かう足は無意識に走っていた。
「脹相!」
こちらの声に気がついて目が合う。あ、本物の彼だ・・・。ずっと会いたくて会いたくて我慢の限界で、思わず飛びついた。
「うぅ、本物だ・・・本物の脹相だ・・・!」
「何言ってる。偽物なわけあるか。今日ここにいるのは俺しか知らないんだぞ。・・・久しぶりだななまえ、会いたかった」
「うん・・・っ・・・うん・・・!私も会いたかった・・・!」
「すまない、中々休めなくてな」
「いいの、大丈夫。お兄ちゃんはみんなのお世話もあるし大変だから無理して欲しくないよ」
「ん、なまえも無理だけはするな。俺も今日と明日は休みだ。好きなところに行こう」
「うん!」と返事をすると、さも当たり前のように手を絡めて握ってくれた。こういうところが大好き。もっと近づきたくてピッタリと腕にくっ付くと、反対の手で頭を撫でられた。私がして欲しいことを全部把握してて本当にもう好きで溢れちゃうな・・・。
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久しぶりに2人でお互いが行きたいところを満喫して、美味しい夕飯も食べて、そろそろもう遅いかなって時間になった頃、脹相が「連れて行きたいところがある」って言うからなんだろう?って思いながらも彼に着いく。彼の車に乗って数十分ぐらいするとすごい高い丘が見えてきた。「このまま上に行くぞ」ってアクセルを踏んで急な斜面を登っていく。実は脹相って運転上手なんです。私は仕事上他の人の車に乗ることもあるけど、彼が1番上手いと思う。なんて、ちょっと贔屓気味かな?って思っていたら頂上に着いたみたい。特に何か建物があるとかでは無さそうだけど、何かあるのかな?
「ねぇ、これから何かあるの?」
「まぁ着いてきたらわかる」
ん?ハッキリ言わないところに変な感じもするけど、とりあえず彼の後を着いて行ってみる。すこし長い階段があってさらに少し登ると、彼が上から手を差し出して引っ張ってくれた。よいしょ、って最後の一段を登りきると、そこには大きな木が何本かあってライトアップされていた。
「わぁ〜すごい!綺麗!!」
「これは桜の木だそうだ。こんなに大きいのは俺も他では見たことがないな。近くで見てみろ、ほら、蕾がある」
「あ、ほんとだ!まだ寒いのにもう蕾が出てる・・・もう少ししたら咲きそうだね」
「この木は咲くのが早いらしい。それに合わせてライトアップしているそうだ。これをお前に見せたかった。ここから街が見える。夜景が好きだと前に言っていただろう」
「え、覚えててくれたの?確かに結構前にそんな話した記憶はあるけど・・・」
「お前が好きだと教えてくれたことは一言一句忘れたことは無いな。食べ物も、服も、音楽も全部知っているぞ」
「っ・・・どうしよう・・・今すごくうれしい・・・ありがとう脹相」
「当然だ。俺はお兄ちゃんでもあり、お前の恋人だからな」
「さて、そろそろ冷える。行くぞ」といいながら私の手を取ってそのまま彼のコートのポケットに手を入れられた。暖かい・・・。冷えた手が一瞬であったまる。ついでに私の気持ちもあったまる。
「今日、」
「ん?」
「手袋を忘れたのか?会ってからずっとしてなかっただろ」
「え、気がついてたの?・・・ぅ、その、今日一分一秒でも早く脹相に会いたくて慌てて家を出たら忘れたみたいで・・・えへへ」
「なるほど。まぁ俺としてはなまえと手を繋げて一日ラッキーだったがな」
「浮かれすぎだ。って引かない・・・?電車乗ってる時に気が付いて自分ですごい焦っちゃった・・・」
「いや?むしろ誘われているのかと思ったが」
「え?」
ポケットの中の彼の指が私の中指と手の甲をツーっと行ったり来たりして、指と指の間をゆっくりと撫でている。な、なんかちょっと恥ずかしい・・・なんだろう・・・触り方が厭らしいんですが・・・。
いたたまれなくて私の頭数個分も高い彼を見上げると、暗がりでも光って見える鋭い紫と目が合った。彼は少し目を細めるとぐっと屈んできて私の耳元で囁いた。
(デートだとわかっていて素手なのは手を繋ぎたいと言われているのかと思った。俺はもっとお前に触れたい。お前がたりない。・・・・・・・・・今日は帰るな)
何を言われてるのか一瞬でわかって一気に身体中が火のついたように熱くなった。きっと今は耳まで真っ赤だと思う。だって、だって、帰るなって・・・そういうことなのでは・・・!?それ以外に何があるの!?
一人で真っ赤になりながら目を白黒させてアワアワしていたら頭に大きな手が回ってきてぎゅっと抱きしめられた。
「俺も男だ。久しぶりに恋人に会えてこんな遅くまで連れ回して、今更帰せるわけないだろ・・・。帰るな・・・もう少し、一緒にいてくれっ・・・」
絞り出すよな、焦っているようなこんな言い方を初めて聞いた。そっか、会いたかったのは私だけじゃなかったのか・・・。うれしい、うれしい・・・!
少し会えないだけなら大丈夫だと思ってた。でも会ったら全然大丈夫じゃなくて、思わず飛びついちゃうくらいだった。脹相も同じ気持ちだったんだ・・・。自分だけじゃなかった安心感と、一緒にいてもいいんだと許された気持ちと
で彼に対する好きが溢れて止まらなかった。好きすぎて苦しい。早く解放して欲しい。そう思ったら自然と自分から彼の頬に手を添えて甘えるように軽くキスをした。自分からしたの、たぶん初めてだと思う。見つめた彼の瞳の奥が少しギラついている。男の人の目。どうしたいのかを訴えてきてる。
「明日、家まで送る。だから今日は・・・」
「うん、私も同じ気持ち・・・・・・嬉しい・・・」
「なまえ、愛してる」
今度は彼から熱いキスをされて、それから車に乗った。
少しでも明日が遅く来ますようにと強く願って。
(指を撫でるのはそういう意味。)