――ピンポーン

ある日の夜8時頃、ちょうどキッチンで鍋をかき混ぜているとインターホンが鳴った。
何か荷物頼んでたかな?と、ありすが首をかしげながらモニターを覗き込むと、そこには見覚えのある顏。

「…安室さん、だったっけ?」
玄関の扉を開けると、そこには満面の笑みを浮かべたお隣さんが立っていた。

「よかった。先日助けて頂いたお礼をしたくて――これ、ケーキなんですけど、如月さん甘いものとかお好きですか?」
そう言って、人懐っこく笑う安室さんは大きな白い箱を差し出す。

「すみません、気を使っていただいちゃって」
「いえ、これくらいじゃ全然お礼になってないですが」
「でも、この巨大な箱…えぇっ」
上面の小窓から恐る恐る中身を覗いてみると、ケーキやプリン、ざっと10種類くらいでありすは思わず声をあげる。だってこの量、いくらなんでも多すぎる。

如月さんの気に入ったものがあるといいんですけど…そう告げる心配そうな表情の安室さんと沢山のスイーツを見比べて暫く考えると、ありすは諦めて声をかけることにした。

「もしよろしければ、ご一緒にいかがですか?」



****** 



「それにしても、あの時如月さんが来なかったらと思うと…」

安室さんはダイニングに座るや否や、手を変え品を変えニコニコと前回のお礼を述べつづけている。前回は体調が悪かったとはいえ、かなり思慮深く警戒心の強い人だと思ったけどなぁ、なんて考えながら、ありすは紅茶を準備していた。

「そういえば、安室さんは病院嫌いなんですか?」
「…え?」
「あの時、救急車呼ぼうとしたら止められたから、嫌なのかなぁと思いまして」
「あ、いえ…あの時は追いかけられたのを必死に撒いたあとだったので。僕、実は私立探偵やってるんです」
「探偵さん、ですか」
「えぇ、といっても実態は、ペット探しに身辺調査、浮気調査や人探しが大半で、なんでも屋みたいなところですけどね」
「なるほど…」

困った人とお知り合いになってしまったとありすは内心困惑した。この人に興味を持たれたら面倒なことになりそうだ。もっとも、捜査の特性上FBI手帳等の身分がばれるものは手元においていないけれど…彼を”巻き込まないように”気をつけなければ。

「探偵さんってなんかもっとこう、犯人はお前だ!とか、真実はいつもひとつ!みたいなのを想像していました」
「ははは、実態はこんなもんですよ。ところで、如月さんって普段なにされてるんですか?」
「安室さん、当ててみてください」
ありすは2人分のカップを運んでわざとらしく微笑むと、安室の前に座りショートケーキを口にした。あ、これおいしい。
すると安室さんはにやりと笑い、なるほどそうきましたか。と答えて何やら考え始めた。

「前回僕が助けて頂いたのが4時から6時の間、なのに今日の6時ごろチャイムを鳴らしても如月さんは不在だった。つまり、どこかに寄り道をして今日は遅くなったか、シフト制などで拘束時間が不定期なのか、はたまた自由に時間を決められるのか…それに服装もラフですよね、そうなると制服があるか、そもそも接客等を必要としない場所…
僕が推理できるのはこのくらいです、残念ながら情報が少なすぎます。ただ…」
「…ただ?」
「如月さんは生物学に興味がおありのようですね」

前回同様、安室さんはやはり切れ者のようだ。

「大正解です。大学院で生物学を専攻しています。それにしても、どうしてわかったんですか?生物屋だってこと」
「ひとつは、前回お邪魔した時にかかっていた白衣。白衣を見て一番最初に思いつくのは医療従事者ですが、科学者も実験の際には着用しますからね。そしてもうひとつは…あれはちょっとサービスし過ぎですよ」

そう言って安室さんが指さした先には、科学雑誌「Nature」を筆頭に、生命科学概論、蛋白質工学概論、分子遺伝学T、生体分子の研究手法と山積みにされた本の数々…そして私の写真入りの学生証。

「あー、明日研究室に持っていこうと思ってあそこに置いていたのは失敗でしたね」
残念。そう言ってありすは笑った。



****** 



「ずいぶん長居してしまったみたいですね、どうやら晩御飯前にお邪魔してしまったようで…」
「いえ、カレーよかったら食べていきます?」
「ぜひ!と言いたいところなんですが、こちらにお邪魔する前に夕飯を食べてきてしまいました」
残念です、そう言って安室さんは困ったように笑った。

「そうですか。でも、失敗した肉じゃがを無理矢理救済したせいで、ちょっと味が濃くなっちゃったみたいなので、晩御飯済ませて来て正解かもしれないですね」

「そのカレー…肉じゃがだったんですか?」
安室さんは、驚きの顏で問いかける。

「えぇ、お醤油を入れすぎてしまって…日本食は難しいですね」
ありすが苦笑いを浮かべると、安室さんは再び困ったように笑っていた。





突撃!隣の推理show
興味を持ったら最後、もう誰にも止められない。
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