日没から1時間経った頃。
ありすは大判のストールと鍵と携帯だけ持って、マンションの屋上に星を見に来ていた。
「流星群、今回は条件良いって言ってたけどなぁ…」
ベンチにもたれかかって見上げる空は、漆黒の闇。
どこまでも広く、暗く、深い黒。
私がここでただ空を見上げている間にも、組織は粛々と計画を進め、仲間は彼らを追い続けているというのに、私はのんびり天体観測…
「…ワークライフバランス良しの超優良勤務体系、ですね」
声に出してみて、ありすは苦笑する。
FBIは昼夜を問わず身を粉にして働く正義の味方、そう思っていた頃もあった。赤井捜査官も、ジョディ捜査官も、あの頃から変わらず命を磨り減らすようにして任務を遂行している。
いつかこの手で、私はあの闇を掴むことができるのだろうか。
思わず伸ばした左手を、握りしめたとき。
「…つかめました?星」
目の前に差し出されたカフェオレ缶の先に、安室さんが立っていた。
******
「ど、どうも…」
ありすはすぐに左手を引っ込めたが、恥ずかしさで全身が急激に熱くなるのに耐えれず、思わず顔をそむける。
「…見ました?」
「えぇ、偶然」
「ですよね…」
よりによって変なところを目撃されてしまったとありすは落胆する。
しかし安室はありすのことなどお構いなしといった様子で隣に腰かけ、同じように手を伸ばした。
「不思議ですよね。暗闇のなかでは、あの一番明るい星ですら掴めそうな気がしてくる。
今は届かなくてもいつかは、って、闇のなかで何度も手を伸ばし続けるんです」
星を見つめる彼に、私が手に入れたいのは闇だと言えば、きっと不思議な顔をされるんだろうな。なんて思いながら空を見上げたちょうどそのとき。
「ほら、掴めた!」
嬉しそうな声がして振り向くと、安室さんが伸ばした手を握りしめ、こちらを向いて微笑んでいた。
「如月さん、手を出してください」
「何でしょう…?」
首をかしげながら安室さん側の手を出すと、その手は安室さんの大きな両手に包みこまれ、ありすは突然のことにどきどきしてしまう。
ほんの数秒。安室さんの手が離れると、すっかりありすは"何か"を握りしめていた。
「こ…これは?」
思わず安室さんを見つめる。暗がりのなかでおぼろげに見える、優しい笑顔。
「星をつかめたので、如月さんにあげます」
どうぞ。という声に促され、おそるおそる手を広げると
「…甘そうな星ですね」
「えぇ、美味しいらしいですよ」
星空から掴み取った、苺のキャンディがひとつ――
てのひらの向こうに
いつか辿りつくと信じて