「逢坂龍の手がかりが見つかりました」
そう知らされて赤井は夕日に染まる公園へ呼び出された。
そこでありすから告げられたのは、逢坂龍が研究により何かしらの複数の個体を観察しており、記録によると成功したのはNo.13と呼ばれる個体であること。さらに、記録に残っている『5歳児、8月19日に検査されたNo.13』が、関係者であり左手に#XIIIが刻まれているありすであると推測されることだった。
『赤井さん、この実験が再現できたら、組織を釣れます』
この分野で広く名が知られるように働きかけ、組織に潜ることを望んでいるような発言に赤井は眉を潜める。痛々しく笑うありすは、この現実に正面から向き合えているようには見えなかった。
「お前を組織に接触させる訳にはいかない」
「どうして…!! 組織から声を掛けられた化学者なんて、これ以上ない肩書じゃないですか!! 私が潜入できたら皆、敵が討てるんですよ!?」
これまでのありすは自分の過去を明らかにすることが原動力だった。理由が何であれ組織を追うことが目的だった。けれど、逢坂かえでを個体と言い切る今のありすは、自分を傷つけることを望んでいる。
FBIとして、ありすを管理する身として、この言葉につけ込んで彼女を組織の研究者に仕立て上げることはできる。彼女にその能力もある。組織が今もその技術を必要としているのなら、目をつけられるのは時間の問題だろう。
だとしても、俺はお前が故意に傷つくことを望まない。だから、
「お前はあいつらに渡せない」
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ありすの自傷行為は止まらない。
「赤井さん、私こんなことでもしなきゃ、創られた意味、ないじゃないですか」
ありすは、コピーである自分は組織の人体実験の道具であるはずだった。と断言した。存在自体が倫理に反する、とも。だからこそ、それを逃れた代償として何かを負わなければならないとでも考えているのだろうか…もう十分といえるほど背負っているというのに。
「ありす、事実と推測を同列に考えるな。――お前は逢坂龍に、守られていたんだよ」
「わ、わたしっ…」
ありすが声をあげて泣きじゃくる。
その姿を見て思わず頭を撫でたのは、まだ少女だった頃のありすと重なったからだろうか。
無邪気なありすが肩を震わせて泣く姿は、昔から苦手だった。
「ありす、あんまり自分を虐めてくれるな。
俺らだって、ありすが大切なんだ。お前が無意味に傷つくことは望まない」
いつの間にか日が暮れて、周囲は闇に包まれている。
公園の隅のふたりを、下弦の月がそっと見つめていた。
******
マンションの屋上から下を眺めると、道を挟んだ向かいの公園に一組の男女の姿。
俯く女性と、頭を撫でる男性。特にトラブルもなさそうだと、視線を外そうとした時――
「あ、赤井…!!どうしてここに!?」
それは、安室にとって予想もしていない出来事だった。
#13 伝わるぬくもり
撫でられた掌から伝わる、あたたかい気持ち