「単刀直入に言うわ、あなたに証人保護プログラムを受けてほしいの。

あの時、クリス・ビンヤード…そう、ベルモットと呼ばれるあの女は、あなたを殺して口を塞ごうとしていた。つまりあなたは彼女にとって、とても都合の悪い情報をもっていることは確かだわ。
このプログラムは、それを証言してくれる代わりに、あなたを守る制度なの。あなたの名前と住所を変えて別人にしてね。

勿論、受けるかどうかはあなた次第。
一旦受けたら、友人や家族とは、会うことも電話することもできなくなるけど。
あの女の報復を恐れているのなら…あなたの友人を巻き添えにしたくないのなら…


いい返事を待ってるわ…」






事件から数日後。
ありすは、帽子を目深に被り、米花中央病院へと足を踏み入れていた。
今朝ジェイムズに電話で訊いた、ジョディの病室を探す。

「えーと、外科第2病棟の1025号室は…」

赤井さんに訊いてもジョディの入院先は知っていそうだったけれど、(お見舞いに来ているかは別として)返事を待ってもらっている身としては、電話を掛けるのをどこか躊躇してしまっていた。

「あ、ここだ」
ノックをして、病室へと入る。
「ジョディ、調子はどう…?」
「ありす!!」
ジョディは目を大きく見開いて驚くと、ありすを迎え入れた。


「あなたが来てくれるとは思わなかったわ!会いに来て大丈夫なの?」
「一応尾行は確認してきたから…それより傷は?」
「えぇ、なんとか。急所は外れていたみたいだから、そのうち退院できるみたいよ」
「そっか…安心した」

任務中は麻痺してたけど、一晩寝て冷静になったらなんか心配になっちゃって。そうつぶやいて、ありすは柔らかく笑う。
そして思い出したかのように手土産を差し出した。

「ジョディ、駅前のケーキ屋さんでフルーツタルト買ってきたけど、食べる?」
「えー!もしかしてそれ、先月できたっていう、1時間並ぶケーキ屋さん?!そのケーキ、女子生徒が噂してたから、私も気になっていたのよ!でもまさかこんなところで食べれるなんて!」

前のめりで反応するジョディを見て、ありすはくつくつと笑う。思ってたより随分元気みたい。

「…どう?」
「おいしい!!このフルーツの甘みは紅茶にぴったりね!ほら、ありすも食べましょ!」
「うん…あ、おいしい。買ってきて大正解」
「ふふふ、入院したらいいこともあるのね」

よかった、ジョディの笑顔が見れて。そう心から思いながら、ありすはケーキを味わう。

「でも、私よりもありすよ!心配したんだから」
気軽に会いに行くわけにもいかないから…ジョディの表情が曇り、ありすは思わず苦笑いする。


その時、誰かが走って近づいてくる足音に気付き、ふたりの間に緊迫した空気が漂う。

ありすはとっさに病室を見回し、そして――



******



「あら、嬉しいわね、見舞いに来てくれるなんて」
「じ、時間を置いたら、また考えが変わりそうだったから…」

病室を訪れたのは、茶髪の少女。息を切らして喋る彼女を、ジョディはベッドの上で迎え入れた。


「じゃあ決めたのね、今朝の電話の話...証人保護プログラムを受けるかどうかの答え」

「ええ、勿論… 断るわ」

「えっ」

ジョディは一瞬驚きの表情を見せるが、続きを促すように少女を見つめる。

「確かに、名前と住所を変えて別人になれば安全かもしれないけど、どーせまた同じ事の繰り返し。
ビクビクしながら隠れ住んで、バレそうになったらまた別人になる、きりがないわ。それに、あなた達FBIを、完全に信用できる確証もないし。

それに、それに…」

少女はその手を強く握りしめ、決意したように一点をみつめる。

「に、逃げたくないから…」


ジョディは一瞬考えるような素振りを見せると、
「そう、やっぱりそうきたか…」
そう告げて、柔らかく笑った。

「…反対しないのね」
意外そうな顔をした少女に、ジョディは話しかける。
「ええ…勿論FBIの捜査官としては大反対だけど…昔、誰かに命を狙われていた女の子としては、その気持ち、大切にしてほしいから」

それは、どこか昔を懐かしむような表情だった。



*****



用件を終えた少女と入れ替わりで、ジェイムズが病室へと入ってくる。

「まったく、まるで小さい頃の君を見るようだ。証人保護プログラムを拒み続け、受ける代わりにFBIにいれろと啖呵を切った君をね」

ジョディは窓辺で微笑む。
「それは違うわ、ジェームズ。彼女はあの頃の私に欠けていたものを、すでに持っているみたいだわ

…ありすもそう思うでしょ?」

「ん?…ありす?」
ジェイムズが怪訝そうな顔をしたとき、入口近くのクローゼットがガタガタと音をたてる。
不審に思ったジェイムズが扉をあけると…


「あはは…」

右手に紅茶のカップ、左手にケーキのお皿を持ったありすが、クローゼットの中で座り込んでいた。



******



「それにしても、どうしてクローゼットなんかに…」
「いや、誰が来るかわからなかったし、目の前にあったので咄嗟に、あはは…」
クローゼットから出てきたありすの返答に、ジェイムズは苦笑する。

「それより、証人保護プログラムって?」
ジョディは少女にプログラムを受けることを提案していた。それは彼女が守られなれればならないということだ。赤井さんの写真に映っていた少女、まだランドセルを背負う年齢の少女が、何故そんなことに巻き込まれているのだろうか...
困惑の表情を浮かべるありすは、ジェイムズの次の言葉に驚かされることになる。

「彼女がクリス・ビンヤードが消そうとしていた、人物だ」


「...シェリーって、彼女のこと?!」

それはつまり、あの小さな少女が、コードネームを持っているということ…?




『逃げたくないから』

クローセットの隙間から見た少女の姿が、ありすの脳裏に焼きついていた。





少女が背負うもの
彼女を護るのは、とても勇気の出るあたたかいもの
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