病院からの帰り道。
赤信号で停止した車内で、さっきの言葉を思い出す。
『逃げたくないから』
少女の覚悟に満ちた声――
ありすは決意をするように深い息を吐くと、赤井へと電話をするべく携帯電話を手に取った。
ハンズフリーで繋いだスピーカーからは、呼び出し音が響く。
何かに集中していないと押しつぶされそうで、ありすは夜の首都高を行先もなく走り続けていた。
やけに街頭が眩しいな、そう思ったとき。
「ありす、どうした」
心臓が、小さく悲鳴をあげる。
自分で掛けたくせに、一番話したくない人の声がした。
******
ありすは、自身を奮い立たせようとハンドルを強く握り、重い口を開く。
「赤井さん、この前の返事をしても、いいですか」
「…決めたのか」
赤井の言葉に、小さく頷く。
「このまま、調査を続けさせてください」
運命から逃げたくない。そう言った彼女の強い瞳を思い出す。
私が仮に偽物で、私の望む結末には成り得なかったとしても、それでも。
「まだ私がやるべきことはあります」
私は真実から目を背けてはいけない、そう思った。
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続く沈黙、規則的な走行音だけが車内に響く。
それはほんの数秒だったのかもしれないが、ありすにとってはとても長く感じられた。
赤井さんの考えていることは基本的にわからない。だけど、
「わかった、ジェイムズには俺から伝えておく」
今回はどうにか赤井さんには了承してもらえたようだった。
「じゃあ「あっ、あのっ…!」
電話が終わる気配がして思わず赤井さんの言葉を遮ってしまったことを、ありすはすぐに後悔する。
茶髪の少女。赤井さんは彼女を知っている、そうずっと思えて仕方なかった。
『その少女と顔を合わせるわけにはいかない』無線の向こうでそう告げた声は、どこか仲間に向けるそれと似ていて。
コードネームを持つ、シェリーと呼ばれた彼女はいったい何を抱えているんだろうか
「ありす…?」
それを直接、赤井さんに訊くつもりはなかった。
それを知ったところで何かが解決するとも思えなかった。
けれど…
「あの子は… ” シェリー ” と呼ばれたあの少女は、いったい何者なんですか…」
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長い静寂、静寂が車内を包む。
トンネルへ差し掛かり、橙色へと変貌する車内の眩しさにありすは顔をしかめた時。
受話器の向こうに再び、赤井の気配を感じた。
「シェリーは、組織の研究者だった」
進み続ける決意
今なら立ち止まることが許されたはずなのに