ありすを含む高木刑事御一行は、青学出版のベイカウォーカー編集部を訪れていた。

「では、この写真を選んだのは、あのご主人なんですね?」
「えぇ、あいつ、載せるならこれにしてくれって」
高木刑事の質問に、ラーメン特集の担当者が答える。
「このお姉さんとってもいい表情してるよね。あのお兄さん、お姉さんが好きだからこの写真にしたのかもしれないね」
コナン君が悪魔のように可愛らしく問いかけると、担当者は靖代さんの写真をじっと見つめ、あぁ、なるほど…と口にした。

「この人の事だったのか…あの主人、小田原鉄二っていうんですが、実は高校の同級生なんです。
で、取材終わって飲んでた時あいつ、好きな人がいるけど、俺は悪人面だからどうせ片思いで終わるんだ。って…小田原は黙ってると怒っているように見えるから一見とっつきにくいけど、ほんとは誰よりも心優しい奴だし、気の小さい奴なんです」


ひと通りの話を訊き、出版社の建物を出たところで、
「あの、思い出したことがあるんですけど…」
よければ、公園にでも行きませんか?とありすは提案した。



******



「鉄龍で靖代さんと仕事の話したんです、半月前ぐらいに。
そのとき靖代さん言ってました。今月末1週間残業続いて終電帰りだから物騒で怖いって」

公園でありすの言葉を聞くと、コナン君はやっぱり。とつぶやく。

「つまり、ひそかに思いを寄せている人が、1週間も夜遅く帰ることになるとと知って、心配になったんだ、あの人。できる事ならこっそりガードしてあげたいと思ったんだろうが、自分の顔を悪人顔と思っているから、そんな真似をしたら妙な誤解を受けるに違いないと思って諦めた。でもそれから間もなくして、公園で行われていた撮影であの人は警察官の衣装を目にした。
その時思いついたんだ。靖代さんを正々堂々とガードできる方法を…そしてあの人はお巡りさんとして靖代さんの前に現れたんだ」

「靖代お姉さんが毎晩会ってた偽お巡りさん、泥棒が目的なんかじゃなかったんだよ、やっぱり!」
コナン君が話し終わると、歩美ちゃんが主張する。

「ご主人に話を訊きに行こう」

高木刑事に連れられ、ありす達は再び鉄龍へと向かった。



******



「まだ戻ってない…どうしたんだろ」
「逃げたんじゃねぇのか?」

高木刑事と元太君が店の中を覗き込むが、店主は相変わらず不在らしい。

「いや、もしかするとあの人。無実を信じてくれた靖代さんの為にも、真犯人を自分の手で捕まえようとしてるんじゃ…」

コナン君の焦った声。
何その超理論。さすがに一般市民はそんな真似するはずなんて…とありすは思ったが、
そんなの無茶だ、危険すぎる!という、高木刑事の反応も無視して、子ども達は手分けして探し始めた。

ありすは高木さんと顔を見合わせ溜息をつくと、子ども達に倣って店主を探し始める。そして靖代さんの帰宅ルートに差し掛かった頃。
「まてーっ、この空き巣犯人!!」
目の前の十字路を、逃げる男と制服警官が横切る。
「あ、の人…!!」
追いかける偽警察と逃げる空き巣犯らしき人物を見つけたありすは全速力で走り出した。
そのままふたりを追いかけて公園の入口へと差し掛かった時。


「ありす姉ちゃん、伏せて!!」

コナン君の声に振り返ると、今にもこちら側に蹴り出されそうな…サッカーボール!?
ちょ、ちょっと…!?
ありすが全神経を集中させ、寸でのところで避けたボールは標的に命中し、地面に吹き飛ばされた空き巣犯は偽警官に取り押さえられた。

地面に倒れこんだありすは、ふーっと息を吐くと、苦笑いを浮かべる。
「コナン君、鬼畜…」

…だって絶対、一般人は避けれないって、あれはさすがに。



******



犯人達のもとにはすぐに高木刑事と交番にいた巡査が駆けつけ、公園の入口には小学生3人。そして、どこからか騒ぎを聞きつけたのだろう靖代さんがいた。

空き巣犯は巡査に引き渡され、残されたのは偽警官。
「小田原鉄二さん、ですね?」
高木刑事の問いかけに、偽警官は小さくはい、と答える。
すると、思わず駆け寄ったのは靖代さん。
「貴方は、一体…?」
「秋本さん、この人は…」
高木刑事がどう説明しようかと考えあぐねていると、コナン君が偽警官へと近づく。

「おじさんは夜道を帰るただ一人の女の人を護る為に、その女の人を無事に家まで送り届けるためだけに、偽警官になったんでしょ?」
「どうしてそれを…」
「何の話なの?」
驚きを見せる偽警官をコナン君が説き伏せる。靖代さんに伝わるように。

「でもねおじさん、警察官じゃない人が警察官のふりをしちゃいけないんだ。どんな理由があっても、ね…」

「おわかりですね、今コナン君がいった事。あなたはやり方を間違えたんです」

高木刑事の言葉に観念したのか、偽刑事はひげと眼鏡を外して素顔を現す。
それは靖代さんがよく知っている人で。

「身分詐称と、衣装を盗んだ窃盗の容疑で、あなたを逮捕します。行きましょうか…」
そう告げると、高木刑事は公園を立ち去る。
また、ラーメン食べに行きます…!という靖代さんの声に、小さく笑う偽警官を連れて…



******



翌日。通りすかりのラーメンの匂いに誘われてありすが足を運ぶと――

「ほんとだー!お兄さんラーメン作ってる!」
鉄龍のガラス扉からコナン君達と歩美ちゃん、高木刑事が中の様子を覗き込んでいるようで、ありすもその横に並ぶ。
「窃盗に関しては初犯だし、身分詐称も犯罪が目的じゃない。それに、空き巣犯人を捕まえた手柄も考慮されて、釈放になったんだ。勿論、厳重説諭、つまりこっぴどく叱られたようだけどね」

「…ラーメンのいい匂いがすると思ったんですけど、それなら今日は貸切ですね」
「あ、ありすお姉さん!」
歩美ちゃんに名前を呼ばれ、こんにちは、と会釈する。



「お待ち」
「いただきます」

店の中では、ラーメンを食べる靖代さんをカウンター越しに見つめるご主人の姿。

そしてその姿を「不器用よね」と言う茶髪の少女。
少女のつぶやきを聞きながら、ありすはただじっと硝子の向こうのふたりを見つめていた。





大切な者を護れるのなら
どんな手段だって構わない
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