いつもと変わらない土曜日の朝。
淹れたてのコーヒーを飲みながら静かな部屋で、土日の予定を考えていると。

――突如、携帯電話の着信音が鳴り響いた。


発信元を確認したありすの顏が険しくなる。
赤井さんは夜行性、この時間に連絡がくるのは不自然だ。

「赤井さん、どうしましたか」
「ありす、これから米花町5 丁目の毛利探偵事務所に向かってくれ」



赤井さんの話を要約するとこうだ。組織のメンバーであるキールこと水無怜奈の靴の底に手違いで盗聴器がついてしまった。ジョディ達が回収を試みているが、キールはジンらと暗殺計画を遂行中とのことで事態は思った以上に緊迫しているらしい。そして、回収前に組織に盗聴器が見つかった場合、直前に接触していた毛利小五郎と娘の蘭が真っ先に疑われるとのことで。

「毛利小五郎と娘に張りついていてくれ。指示は現状を確認して出す」

要するに、緊急で護衛を任されたらしい。

「赤井さん、ちなみに盗聴器を仕込んだのは?」
「どうやら、ジョディのお気に入りの少年のようだ。彼もジョディと一緒に行動している」
「あぁ、コナン君ね…」
彼ならやりかねないな、そう思ってしまったことに苦笑する。

「わかりました。ひとまず毛利探偵事務所に向かいます」
そう告げると、ありすは左耳にヘッドセットを装着し、引き出しから無地のカードを取り出す。
サインペンで絵を描き、封筒に如月ありす様と宛名を加えると、それらをポケットにしまって部屋を後にした。



******



コンコン。
「あの、突然ですが、毛利先生いらっしゃいますか…?」
ノックをして、そっと毛利探偵事務所の扉を開ける。
すると、娘さんだろうか、高校生ぐらいの女の子がこちらへと近づいてきた。

「もしかして、父に依頼ですか?」
「あ、はい。いきなりですが、大丈夫でしょうか…」
ありすが控えめに尋ねる。すると、おっほん。と咳払いする音が聞こえて、名探偵・毛利小五郎が姿を現した。
「いやはや、お嬢さん。この名探偵にご用とのことで。どうぞこちらへ」

応接セットへと促されて座ると、調査依頼書への記入を求められる。
項目は、名前と電話番号。
そっと事務所の内部を窺うが、セキュリティはお世辞にも十分とは言えないだろう。それなら尚更、盗聴等を考えて電話番号は書きたくないが、彼らにもしもの事態があった場合に…とそこまで考えて、大学の緊急連絡先を記入したときのことを思い出す。あの時も同じことを考えた挙句、正直にこの番号を書いた。であれば話は簡単だ。あとでFBIの連絡用に2回線目を契約しよう。

ありすは、名前と電話番号の欄を埋めると、向かいに座る毛利探偵に書類を手渡す。

「如月ありすさん、ですか。今日はどういったご用件で」
「あ、はい。大学の友人から、仲の良かった子数人での同窓会の案内が届いたんです。ただ、いたずら好きのその友人から届いた招待状が判じ絵になっていて、集合場所がわからなくて」
「ほう、判じ絵、ですか」
「はい。明後日までに解かなきゃと考えていたら、目の前の通りで毛利探偵事務所の看板を見かけて。それで、あの有名な毛利探偵ならと思って…」

有名な、のところで毛利探偵の眉毛がピクリと動いたことをありすは見逃さない。自分で名探偵というあたりからも、おだてられて働くタイプ、か。

「うむ、わかりました。わたくしにお任せください。この名探偵・毛利小五郎が、たちどころにその判じ絵を解いてみせましょう!」
「ほんとですか!よろしくお願いします!!」
ニコニコと微笑むありすは、内心で第一関門突破。と安堵していた。



******



その、判じ絵というのは?という毛利探偵の問いかけに、ありすは封筒を取り出す。
カードの中央には川が描かれており、川面の上には女性の左手が、手の甲を上にして指を開いた状態でかざされている。小指の爪は黄、薬指は緑、中指は青、人差し指は赤に塗られ、色が付いてない親指の爪の所に会場を示す★マーク、隅には1:7000と書き込んだものだ。

「ん?これは…!!」
毛利探偵が封筒から取り出し、背後から娘さんが覗き込む。判じ絵を見た毛利探偵が考え込むようなしぐさを見せた。問題は、これでどの程度時間を引き延ばせるかだが…赤井さんからの指示は、まだ何もない。

「いつものメンバーだから、多分5人ぐらいが集まる場所だと思うんですが…」
「いつもって、よく集まるんですか?」
ありすの言葉を聞いた娘さんが、意外そうな顔で問いかけた。
「えぇ、と言っても最近は年に1回ぐらいですが…」
「じゃあ、毎年こんなクイズみたいな案内が?」
あぁ。娘さんの表情はそういうことか。とありすは納得すると同時に、笑顔が漏れる。
「いえいえ、幹事を毎年交代でやっていて、たまたま今年の担当がその子だったんです。去年は普通の招待状だったので問題なかったのですが、まさかこんなものが届くとは…」
困っちゃいますよね。とありすが言うと、娘さんも困ったように笑った。



******



ありすは、改めてそっと事務所の様子を伺う。大きな窓と、入口の扉、襲撃の可能性が高いところはこの2箇所だろうか。窓の外を横目で確認するが、ここから見える範囲――主に向かいのビルに現時点で異変は見つけられない。あとは入口の扉だが、今の位置では背を向けており完全に死角となってしまっている。鏡になるものといったら、電源が入っていないテレビぐらいだが…今はこれで妥協するしかなさそうだ。


ありすの毛利探偵への意識が、手薄になっている間に。
「わかりました!」
「えっ…!?」

どうやら、毛利探偵は謎を解いてしまったようだった。





Target:毛利小五郎
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