「実は、この小指から人差し指の4本は、電車を表すんです」
娘さんは毛利探偵の言葉に耳を澄まし、ありすは突拍子もない話が始まりそうだと困惑する。
どうしよう、出題者はそんなつもりで描いてないんだけど…
「電車、ですか…?」
「えぇ。電車には、ラインカラーと言うものがありまして、この黄色い小指は総武線、黄緑の薬指は山手線、水色の中指は京浜東北線、赤い人差し指は中央線を表します。つまり、4本の電車が並んで走る場所の、親指の爪の位置に、パーティ会場があるのです」
「うーん、でもそんな場所あるのかな…」
娘さんが控えめに疑問を投げかける。
「残念ながら、ない。だが、ちょっと頭をひねれば…」
おもむろに立ち上がり、窓際へと近づく毛利小五郎。予定外の行動でありすに緊張が走るが、窓の外に相変わらず人の気配は感じられず…冊子を片手に何事もなく戻って来た毛利小五郎を見て、安堵を浮かべた。
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毛利探偵が持ってきた冊子は都内の地図のようで、応接机にそれを広げる。
「この案内図に書かれている数字は、1/25000の地図を見ろという意味。そして総武線の小指をこの秋葉原の上において、薬指の山手線と中指の京浜東北線を秋葉原―神田間のこの線の上に、
この人差し指の中央線を御茶ノ水―神田間のこの線上に置くんだ。すると、この親指の爪が示すところは…神田小川町!」
「神田小川町、ですか…」
違う、決して出題者はそんなことは意図していないから。とありすは心のなかで突っ込む。
けれど問題はそこではなくて、これで終わらせてしまったら私は帰らなくてはいけない。
「どうです、この場所に何か心当たりは?」
さて、どうやって答えようかとありすが考えていると、
突然、階段を駆け上がる音――
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「毛利君はおるかね?!」
「あ、阿笠博士、…如月さん?」
足音に反応して、ありすはとっさに毛利小五郎と娘を護る体制を取っていた。
そんなありすを不思議そうな顔で見る娘さんに、思わず苦笑を浮かべる。
「あ、いや、びっくりして逃げてきちゃいました。あはは…」
すると、息を切らした阿笠博士の背後から見知った顏――茶髪の少女が現れた。
「ふたりとも、今すぐ博士の家に来て!」
「…哀ちゃん?」
娘さんが、どうしたの?と少女に問いかけると、慌てたように”阿笠博士”が口を開く。
「いや、ワシの自信作の推理ゲームの感想を、名探偵・毛利小五郎に貰えないかと思ってなぁ」
「しかし、今は依頼人がいるので…」
この少女が呼びに来たのであれば、言い出したのはおおかた”彼”に違いない。真っ先に狙われるこの場所から隔離できるのであれば、FBI(こちら)にとっても好都合だ。
「いえ、私の依頼なら毛利さんが既に解決しましたよ。その招待状の送り主、神田小川町に最近家を建てましたから!」
「そうですか!じゃあその招待状はホームパーティのお誘いに、間違いありません!!」
「すごい!お父さん!」
「んはははは!このくらい!!」
自慢げに笑う毛利探偵を横目に、ありすは次の一手を考える。
「ありがとうございました、これでみんなに会えます!あの、料金は?」
「えーいやいやいや、こんな簡単な依頼で、お金を頂く訳にはいきません」
そうですか…とありすは困った様子を見せると。じゃあ!と言って顔を上げる。
「私美味しいケーキ買ってくるんで、みんなで哀ちゃん達のところで食べましょうよ!ゲームしながら、名探偵の名推理をもっと見てみたいですし!…ね、哀ちゃん!」
いやぁー、そこまでおっしゃるなら…という毛利小五郎の声を背中で聞き流しつつ、ありすは少女の目の前にしゃがみ込み、彼女にしか聞こえないほどの小さな声で問いかける。
「今は指示どおり、一刻も早くここから連れ出すことが先決、でしょ?」
このやりかたはかなり無理があったことはありすも自覚していた。
予想どおりに、少女は驚き、そのあと一瞬怯える顔をしたが――
暫く考えた結果、この提案に乗ってくれるようで。
「…いいわ。ありすさんも行きましょ」
毛利小五郎と招待状
迷探偵の示す先