夜を照らす月を雲が隠し、あたりは暗闇に包まれる――

屋上で出会った安室さんは、昼間すれ違った『赤井さん』と同じ香りだった。





自室に戻ったありすは、混乱する頭を鎮めようとソファーに深く沈んで目を閉じる。

同じ香水を使っていても、その人の持つ香りや体温で匂いは変化する――ありすはその匂いを嗅ぎ分けられる自信があった。
であるとしたら、昼間交差点ですれ違った人物は安室さん?なぜそんなことを?そもそもどうやって?考えれば考える程、ありすの頭はさらに混乱する。


まず、赤井さんが生きていたとしても、人混みの中を自由に歩きまわること自体が不自然だ。ターゲットを始末し損ねた水無怜奈が組織に抹殺されかねないことは、赤井さんも十分承知のはず――

それならば、昼間の彼は赤井さんと同じ思考ではない…私の知る赤井さんとは別物?
ありすはますます混乱して天を仰ぐ。

赤井さんは人混みに現れた。私の真横を通ったにも関わらず特に反応することもなく、私の呼び掛けにも応じようとはしなかった。
もしあれが、赤井さんの皮を被った別人で、赤井さんの振りをして私の反応を伺っていたとしたら…

そこまで辿り着いて、ありすの背筋が凍る。


私、試されていた...?



赤井さんと私の関係はごく一部の人物しか知り得ない。日本で調査をしているFBIの一部、コナン君、
そして…安室さん。

『赤井なんかの為に死ぬな…!!』
ありすは、屋上での会話を思い起こす。
安室さんは赤井さんのことを知っていて、しかも良い感情を持っていないようにみえた。そして彼は、赤井さんの身に異変が起きたことも、知っているようだった。

警察も把握できていない赤井さんの死を知っているのは、当事者である組織とFBIで。
それを、こちら側の人間ではない安室さんが入手できているとすれば、考えられるのは



――安室透、彼は組織の人間。


赤井さんのことを知っているのは、組織で面識があったから。

赤井さんの死を知っているのは、組織の人間だから。

赤井さんに近い私に近づいたのは、赤井さんがFBIに匿われていないかを確認しようとしたから。

すれ違ったときと同じ匂いがしたのは、
赤井秀一に成りすました安室透だったから。


そうであるならば、今までの不可解な出来事の辻褄が合う。
ありすはひどく眩暈がして両手で顔を覆った。

どうやって赤井さんに成りすましたかなんて、簡単だ。組織にはベルモットがいる。



そして、この仮説が真であるとすれば、否応なく気づかされる事実――

赤井さんは、いない。





真実はいつも
なんて残酷なんだろう

 
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