「...赤井、さん?」
目の前に突然現れた、ここにいるはずのない人。
その瞬間、走馬灯のように蘇る記憶——
『ありす、これから何かあっても、お前のやるべきことをやるんだ』
『泣きたい時には、泣いてもいいんですよ』
『如月さんはやはりミルクティーなのですね』
バラバラになったピースが組み合わさった瞬間、
驚きと混乱と疑念と、他にも分類できない沢山の感情が沸き起こりありすは混乱する。
「どういうことですか?!あの来葉峠の車と遺体は?その姿は?声は?...説明してください!!」
立ち上がり詰め寄るありすに動じることなく、赤井は淡々と喋り始める。
「来葉峠の遺体は替え玉だ。あのとき病院に潜伏していた組織の工作員、その遺体をシボレーごと水無怜奈が燃やした。そのあとはある人の協力を得てメイクで顔を変え、この変声器で、沖矢昴として過ごしていた」
首元から外されたチョーカーがテーブルへと置かれる。
黒く薄いそれは、確かに電子機器のようだった。
「じゃあ、それじゃあどうして今更...」
赤井さんに必要とされているのだと勝手に期待したり、居なくても困るような人間ではないのだと勝手に失望したり。赤井さんが生きていることは嬉しいことの筈なのに、なのにこのモヤモヤは一向に収まらなくて。全部私の身勝手だとわかっているけど、この感情を無視できるほど大人ではなくて...
「安室透は組織の人間だ。コードネームは、バーボン」
真っ直ぐこちらを見つめる赤井さんは、きっぱりと告げた。
「お前はこちら側の人間だ、組織には渡せない」
******
安室さんと接触していたことも、彼を足掛かりに組織に潜り込めないかと考えていたことも、赤井さんにはお見通しで。そうだとしたら、どうして...
「どうして止めるんですか!?このチャンスを逃したら次はもうないかもしれないのに...!!」
「ありす、」
「私が潜り込めば、うまくやれたら、みんなを助けられます...私だってそれくらい——」
「ありす!」
両肩を強く掴まれる。赤井さんの視線に耐えきれず、ありすは目をそらす。
「何もできないまま、大切な人が居なくなるのを見ているだけは、もう嫌なの!!」
公私混同だということはありすがいちばんよくわかっていた。
だけど、それでもこの気持ちにだけは嘘をつけない。だから…
「ありす、俺はちゃんとここにいる。…簡単に居なくなったりしないさ」
溢れだした涙はもう止める事なんてできなくて。
心配かけたな。とぎこちなく伸びた赤井さんの掌が優しく頭を撫でた。
あの日の影
忘れられるはずなんてないのに