夜更け過ぎの深夜23時。
重厚感のある木製扉を開けると、見回した薄暗い店内にはボックス席に1組。
カウンター奥のバーテンダーと目が合うと、ありすは促されるままに着席した。
「何になさいますか?」
「…スプモーニを」
「かしこまりました」
カウンターの隅、入り口から最も離れたところから店内をぼーっと眺める。
キャンドルの揺らめく灯りが、緩やかな時間の流れを思わせた。
「お待たせしました」
華やかなオレンジ色を煽ると、爽やかな甘味とほんのり感じる苦みが舌を刺激する。
「美味しい」
ありすが呟くと、初老のバーテンダーは静かに微笑んだ。
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「——いらっしゃいませ」
グラスも半分に差し掛かった頃、入口の扉が開く音がした。
何気なくバーテンダーの振り向く先を眺めると、そこには良く知る明るい髪の男性。
予想外の相手にありすは驚いたがそれは向こうも同じだったようで、結果としてお互い見つめあう格好となっている。
「お知り合いですか?」
バーテンダーの声掛けに肯定すると、続いてお通ししましょうか?と確認される。
ちらりと視線をやると、後ろから現れたのは黒髪でメガネを掛けた男性の姿。
「お連れの方がいるみたいですね…あちらにお任せします」
ありすの控えめな声に、かしこまりました。と告げると、バーテンダーは何事もなかったかのようにそばを離れた。
彼らが言葉を交わすのを横目にお酒を口に運ぶ。客の様子を機敏に感じ取りさりげなく確認するところが、ここの居心地の良さに繋がっているんだろうな。なんて考えながら、ありすが盛られた胡桃に手を伸ばした時。
「お隣、いいですか?」
振り向くと、微笑む安室さんと少し緊張した面持ちの男性が傍に立っていて、ありすは笑顔で頷いた。
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「如月さん、何か飲まれますか?よかったら僕に1杯ごちそうさせてください」
気配りのできる彼はありすのお酒が残り少ないことに気づいていたようで、自分の注文より先にありすに勧めてくれたが——その直後、連れの男性が僅かに反応を見せたのをありすは見逃さなかった。その変化はほんの少しだったが、僅かに見開かれた目は驚いていたように見えた。いつも彼に見せている姿とは、別なのだろうか。
折角お会いしたんですから、ね?と何事もないかのように笑顔を見せる彼に「じゃあ、マティーニを」と控えめに告げると、安室さんは満足そうに頷いた。
「僕はスコッチ・ソーダで」
「自分は、バーボン・ソーダをお願いします」
「…かしこまりました」
静かな空気。店内に流れるジャズが小気味良い。
その空気を破ったのは、笑顔が素敵な隣人だった。
「ありすさんは学校帰りですか」
「はい、安室さんは…お仕事帰り、でしょうか?」
目の前の安室さん達はネクタイを締めたスーツ姿。どこか私立探偵のイメージとは異なるが、それ以上にスーツ姿が似合いそうなシチュエーションも思いつかない。
「ええ。彼は飛田と言って学生時代の後輩で、今日は彼から紹介された仕事だったんです」
ありすの視線に気づくと、飛田さんは言葉少なく、どうも…と告げる。
黒髪短髪、メガネを掛けていながら体つきも割とがっしりしているその姿は、実直で真面目そうな文武両道を地でいくタイプに見える。表情豊かな安室さんと並ぶと、その堅い表情と口数の少なさがより際立つようで…
ありすが不自然にならない程度にその姿を観察していると、目の前にグラスが運ばれて。透明なその液体をゆっくりと口に含むと、独特のフレーバーと爽やかさが鼻腔に抜けていく。
ふと横を見ると、微笑む安室さんと控えめにこちらの様子を伺う飛田さんがいた。
Blue Parrot