青ラバ屋


フィルターに火をつけて


 この寒い中、ベランダで煙草を吸うのはやめたらいいのにって思っていた。
 「換気扇の下で吸えば?」って言ったら「うー」と生返事が返ってきて、彼はスマホから目を離さない。彼がベランダで煙草を吸う時はいつも決まってスマホを構っていた。

 愛のある関係ではなかった。たぶん、彼に愛はなかった。誓ったわけでもないし、言葉にさえしていない。愛していたのは俺だけだった。別にそれでよかった。
 いつか他人になるとして、今でないことを祈っていた、いつも。

 彼がいなくなった部屋で、俺は彼の煙草を見つけた。いつもどこか抜けている人だった。煙草なんて置いていって、たぶんそれさえ何の含みもない、本当にただの忘れ物なんだろう。
 ふと思いついて、換気扇の下で、火がないのでガスコンロで火をつけて、吸おうと思って、吸い口が逆であることに気付く。フィルターに火をつけて、馬鹿みたいだ。

 馬鹿みたいだ、あんな男を好きになるなんて。

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