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貴女の主人は本当お酒弱いわね。
飲み仲間としては、つまらないけど
武人としてはとても気があうわ。

皆は楽しくやってる?
王騎様はお元気?


貴女ともお話がしたいわ………









「……………綺麗な、女性…」





誰だろう。

酒が弱い主人……幸村様?王騎様を知ってる。それなら、皆とは……?






「んぐぅっ!?」

急に口の中に冷たい物を入れられた。すぐにそれがリンゴだと気づいたが、驚きのあまり
目を開け体を起き上がらせた。


「っぃ、たぁーー!!」


急に体を起こしたおかげで傷口から激痛が走り、涙が少し出てきた。


「急に体を起こしたりするからですよ、おバカさんですねェ、ココココッ!」
「……っ!!?」


激痛に悶え、口の中いっぱいにひろがる甘酸っぱい林檎があるおかげで言葉が出ない。

同じ様に、林檎を食べてる騰様が目の前に座っていた。ちなみに、どんどん林檎が減っていく……


「……騰様、なぜここへ?」


痛みの咄嗟に出てきた涙を拭い、口の中の物が無くなってから私は話し出した。


「……演習場で倒れたと聞いて様子を見に来たが……心配はいらなかった様だな」

「いえ。今ので悪化しました」
「…………」


そう言いながら、晋は騰がもつ林檎に手を伸ばすが届かない距離まで離され手が空を切っていた。

「…………」

「傷口が開くことなど、わかっていただろう。

…なぜ、大の男に立ち向かう」


晋は手の先の林檎から、今なお林檎を食す騰を見つめ視線を落とすとか細い声でつぶやいた。


「………一人でいると、否応なしに記憶が蘇ります…」


「………?…」


再度、騰を見ると口が相変わらずモゴモゴ動いていた。それが可笑しくて笑みが出る。


「……だから、
組手とか戦とか頭使って身体動かして、それが相手が強ければ強い程、いっぱい頭使うでしょ?

そうすれば、思い出さなくて済むんです」


「……………」


「………今は一人だと、負けそうなんです」



自分の手を見つめて何かを潰す様に強く手を握ったあと手を開くとそれと同時に林檎が掌の上に置かれ、頭の上に手が乗せられた。


「?」

「過去を理由にしていて良いのか?」

「!」




「前に進むために此処にきたのだろう?」







胸を打つとは、
この事を言うのかもしれない。



顔を上げると真剣な眼差しで見つめてくる騰様がいて、


辺りが異常に静か。


私は驚きと、悔しさと、

そして今にも泣きだしてしまいそうな
そんな顔をしていたと思う。



言い返したい言葉は、たくさんある。



私の気持ちなんてわからねーだろ。

とか、


経験した事あんのか!


とか。




でもさ、


「……は、いっ……」




全てかっこ悪い唯のいいわけ、
なわけよ。










「?また泣くのか、晋」
「なっ泣いてません!!」
「………それとも、添い寝が必要か?」
「独りで寝れますって!」



世話の焼ける娘だ……と呟き騰様は私に背中を向けて部屋を出ようと足を進めると何かを思い出した様に足を止めた。


「?」


「2日後に軍事演習をする。

……期待してるぞ」


ニヤッと笑って騰様は去っていった。




私はそのまま布団に倒れ込む。




「………林檎、食べたかった…」


自分の口元の端が上がっていた。
言葉とは別で、心の内がワクワクしていた。

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