12







朝の早い時間から、明日の演習の詳細を録嗚未軍長に聞きに来ていた。

明日は騰様が相手で、うちと隆国様のとこか。

…殿は演習に出ないのか、珍しいな。


「…………それにしても…」



隆国様か………




「…暉沾、顔」
「……すみません」
「自覚あるなら止めろ。いつか殺されるぞ」


そう、俺は隆国様が苦手なのデス。



隣で歩く項庵さんに苦笑いを向け、俺たちは
第一軍の奴らが集まっている部屋に戻ってきた。



「おい、お前ら戻ってきた……
「暉沾!!くるなっ!!!」
「あ?」

扉を開けた瞬間に大の男が前を阻んできた事に少なからず驚き俺と項庵さんは顔を合わせた。中が異様な盛り上がりをしている事に、眉間に皺を寄せ目の前の男のせいで見えない視界ではなく、聞き耳を立てた。


すると、中からここにはいないはずの声が聞こえた。


「……てめぇ、どの面下げて来た……」
「…………」
「俺らの隊長をてめぇに会わせる訳にはいかねぇよ」


「……昨日の事。暉沾さんに謝りに来たの」


「あ?何したか分かってんのかよ!!」

「ええ。

理解してるから、ここに来たの」


「ーーーーっ!!?」




来訪者ーー晋は、こうなる事はある程度予想はしていたが、埒があかない事に怒りを覚え目の前の暉沾の側近を睨む。

目の前の男達はその娘の怒気に冷や汗を流した。


「昨日の、娘か??」
「!」
「暉沾!?」
「出てくんなよ、お前!!」


俺は目の前の男を退け、話題の中心にいる娘に近づく。昨日、手合わせをした晋だ。


ーーー私にも、どんな娘か分からぬ。


干王様が、笑ってそう言っていたのを思い出した。


「俺に何か用……

「申し訳ございませんでした」

…っ!?」

「「「っ!!!!?」」」



目の前で晋は俺に頭を下げ、驚き静かになった部屋にかろうじて聞こえる大きさでポツリポツリと話し始めた。



「…手合わせの時、最後に刄を持ち入り貴方を傷付けるところでした……


ごめんなさい。


…私の不注意です」


「…………」

「…あ、謝ってすむっ……!」



俺は話し始めた奴を目で制した。


………何を、わざわざ……





「……あれは護身用だろ?」

「!」


驚いた顔と目があう。


「そんな驚かなくても、分かる。

昨日のは手負いだと気づかない程、余裕を失くした俺の責任だ。

…すみませんでした」

「え?」
「お、おい暉沾!!」


かっこ悪ぃな。
俺が謝りに行くべき事なのに、女に先に頭下げさせちまった。
兄貴が見たら大笑いだな。

まぁ、これで俺を慕ってくれてる奴らの誤解は解けたかな。


「…暉沾くん、かっこいいね」
「………?…」



とても、近くで声が聞こえた気がした。


「頭、上げて」
「………」
「暉沾くんとは、また戦ってみたかったから

許して貰えて良かった。」


そう言うと晋は、はにかむように笑った。


ちょっと、ドキッとした……。のは秘密だ


「それと、ここは録嗚未さんの軍なんだよね?」

「ああ、そうだが…」

「ぢゃあ、また明日だね」

「?」


「明日、私も演習に参加するから。

暉沾くん達は、相手の軍になるのかな?」


「騰様の軍に?」

という、事は……


それじゃあ、またね〜と考えている間に晋は去っていった。

静まり返っていた室内がざわつき始めた。




「暉沾…あの娘は……」
「俺にも分からない。


が、
俺たちの仲間になった事だけはわかったな」


明日、また晋とやりあえるのかと思うとワクワクして自然と顔がニヤけた。



「…ハァ。…お前、あの娘が可愛くて色っぽいのは分かるがニヤけるのだけは止めてくれ」

「ち、ちげーよ!!?」









この後、晋は干王のところにも謝りに行き
饅頭やらなんやら甘物を貰いながら干王と世間話に花を咲かせていた。


ALICE+