なにが正しいなんて誰が決める
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「あ」
「どうした?」
「あれは……」
晋は抱きとめてくれる隆国の後ろからやってくる人を見て静かに笑みを深めた
「……………すまない隆国。邪魔した様だな……
「その声は干央か!!
そうじゃない!!!
待て!!誤解するなっっ!!!」
「おぉっ」と晋からの驚きの声と共に、隆国は身体を反転させ、干央の方に身体を向けた。自然と晋は首を後ろに向ける事になる。
「何か思い悩んでおりました故、今夜は隆国さんを慰めてあげようと思いまして」
「なるほどな」
次には腕を組み、表情は一切変えずに髭を触りながら晋の言葉に納得した様に真面目な顔をする。それに、晋はニヤニヤと笑っていた。間髪入れずに答えている辺りが、どう考えてもおもしろがっている様にしか見えない。
「おい。
慰めているのは私だろうが!」
「娘か。大丈夫か?」
「………んー……まだかなー」
そう言うと晋は隆国の腰にまわした腕を強めた。
「*ッ…」
「そうか、よし。」
その言葉と共に干央が近づくと、二人の思いがけない行動を取る。
「!?」
「あら!」
晋の後ろから干央が包み込むように抱きしめた。もちろん隆国ごと
「こうで、よいな」
「………………」
「はい!」
満足げに笑った二人をよそに流れに流された隆国は固まっていたが、数人の風呂の利用者に見られている事に気付くと、たまたま通った側近にあたふた心配されており、目の前の晋と干央は流石に手を離していた。
二人は楽しそうに笑みを浮かべていた。
「ふざけ過ぎちゃった、ごめんね隆国さん」
「お前……ッ!!」
「ごめんね隆国さん」
「…干央…………」
野太い声と共に干央が晋の真似をすると、隆国の怒りは脱力へと変わっていた。
「嬉しかったんです。ありがとうございます」
えへへとあどけなく笑っている彼女に溜息をつく隆国だった。
そんな愉快な事になりながら晋は気分良く湯屋から自室に帰ってきた。
でも、扉を開ける寸前に何か違和感に気づく。
「……………?」
人の気配……ではない。
なんだ?
扉を少し開けて部屋の中を見渡すと特に異常な物もなく晋は自然と首を傾げた。
気のせい…?
でも今までそれが何でも無かった試しはない。そして良い予感ではないとは確信があった晋は
十分警戒し、ゆっくりと中に入り辺りを見渡した。
「…………え、」
愛刀と幸村の刀が無くなっていた。