「陽が……昇る……」





今日という日の幕が上がった。
暗闇に光が差し込んだ先は、昨日たくさんの血が流れた処。

そう、今は戦中だ。



もう誰かも分からない。
どちらの軍かも分からない。
赤と黒が点在している。


この光景を私は、幾度と見てきたのだろうか………







陽が出る前から、

騰様の周りには、軍長達が揃い
険しい顔を並べていた。



戦は私達が劣勢を強いられていた。
数の差は相当なもの。軍長達ですら無傷でいられない状況。




「…………行くか……」


そう呟いた録嗚未さんの言葉と共に干央さんが兜を持ち立ち上がる。彼らはこれから前線に行くために移動を始めようとしていた。

録嗚未さんの言葉が強くそして重くその場に響く。



今日は誰が死に誰が生きるのか
そしてどちらが勝利を手にするのか

分からない。誰も知る由も無い事。




私達はそれを幾年も続けているのだ。
何の為、



私は……





「騰様」

「私も行って参ります」




愛する者のため。



崖側にいた騰様は、戦場を眺める形で立っていた。実は私も録嗚未さん干央さんと共に前線に立つことになっているので今から移動しなければならない。
情報収集は得意分野だが、戦時は軌道力が高いので、二人のどちらかと行動する事が多い。


私はそう微笑むとその大きな手の平で頬の横の髪を撫でられた。

「!」

皆に背を向けていた騰様が振り返り一人一人を見つめた。

その声は太く深く響き渡る。




「……今宵は良い酒を用意してる。

だが。死んで戻ってきても用意はないぞ」



手が合わさった乾いた音と共に拝をする騰様。

そこには昇り始めた太陽が反射した


「健闘を祈る」







「……ッは!!!」



その場にいた全員の声が何かに背中を押されるようにその場に揃って響き渡る。五軍長達の先程までの空気がガラリと変わり、顔つきまで変わる。

前向きな良いエネルギーが流れ出した。




たくさんの将軍達を見てきたが、
ここの軍の雰囲気が好きだ。


そして、それを納める騰様も………



「やっぱり好きです」

「…何の話しだ」

「……んっ……」


そう上から見つめられ頭を後頭部から持ち上げられる。私はそれに合わせて爪先立ちをし首に腕を廻すと、彼の香りと共に唇にいつもの温かく柔らかいものがあった。



この感触だけは一生忘れない。









はじまりのキス ver.騰



戦前は軽いキスを交わす。

夜の楽しみのために
気持ちを高ぶらせる為に







何度か触れるだけのキスを味わうように繰り返す。



「必ず貴方を護るために、戻ります」


「…ああ」


「更に良い女になってくるので楽しみにしていてくださいね」



「……夜が楽しみだな」




ニヤリと笑う騰様に吊られて私も同じように笑う。録嗚未さんの呼ぶ声と共に振り返り私は今日という日を始めることにした。








END

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