騰
「ちょっ、と。…っやめて!
なんのつもりよ!?」
何年も前から共に戦ってきが、
こんな事をされたのは初めてだ。
騰の大きく硬い手が腰から背中に回されお互いが密着する様に引き寄せられた。
身体だけでなく顔まで近づく大勢になり思わず胸を押し返すが、掴まれた腰のせいで全くの取り越し苦労。
それでもこの状況から逃れるため、押す手を止めないがそんな苦労を微塵も気にする事なく自分のペースに持っていく騰は
空いている手でなかなか目を合わせない顔を自分に向かせてきた。
「…っ私は!文句を言いにきたのよ!!」
「文句?」
「……いっつもいっつも…。私のじゃまをしてくるじゃない。…戦中に騰が必ず前に入ってくるから私武功を取れ損なっているのよ!
嫌がらせなの!?」
騰とは力の差があるお陰で、彼が私の軍の前に来てしまうと全ての手柄を持っていってしまう。これはもうただの嫌がらせだ。
「…………」
「私に、不甲斐なさと頼りなさを感じるなら言葉にして。騰の実力からしたら足りないのは理解してるから」
その言葉と共に目を合わせる事が出来なくなる。悔しい。言葉にするともっと悔しい。
それは突然だった。
名前を呼ばれたので、
もう一度睨んでこの気持ちをぶつけてやろうと下げた目線を上げた。
唇への柔らかな感触…
「…………?」
明るくなった視界には、どこか楽しそうな雰囲気の騰。
今、なにが???
「この意味が分からないほど、初心ではないだろう?」
「????」
そう言って、殿の真似をしながら離れていったあいつをボー然と見つめ、
私は、無意識に自分の唇に触れる。
『はじまりのキス』
はっきり言葉にしなくても
始まるものは始まるのです。
思考回路が戻ってきたのは
目の前にいた騰がどこかに行ってしまってから。
「…………っっっっ!!!!?」
あれ、は、どういう……?
本人に理解して貰えるのはもっと先の話の様です。
おわり。
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