月と彼と美味しいお酒と
夢から覚め、目を開けるとまだ夜が明けていなかった。あまり長く寝れていないみたい
夢の中で
以前の主人とキョウという綺麗な女性の方が酒を飲み交わし……いや、キョウさんに呑まされていた。
二人が楽しそうに私に笑いかけるとそこに王騎様も現れ…
目が覚めた。
なんだったのか………
ふと気付くと温もりがない。隣を見ると騰様がいない………驚き身体を起こすと風が抜けた。
風が来た方向を見ると、寝床から中庭に通ずる襖が開け放たれている。
そこに騰様が外の庭をみる状態で座っていた。
こんな時間に起きているなんて珍しいなと思いつつ寝床を出てそちらに近づいていて行った。
「…………」
中庭から見える月が部屋を照らしていて
とても綺麗だった。
私が近づいてきた事に気付いているのかいないのか騰様はずっと外を見つめていた。
隣に座り近くに置いてあったお酒の壺を手に持つ。
「…お酒注がせてください、ね…?」
「…………」
「…………」
寝てんのかーい。
「っぷ。あはは…」
まだまだ騰様は底が知れません。
私は気が抜けて、その場に腰を下ろすと騰様が持っていた空になったお猪口をとりあげてお酒を注ぎ、月に向かってお猪口を掲げた。
そちらでこれからも見ていてくださいね
「………かんぱーい」
そしてクイッと一気に流し入れる。
「……はぁ。…これ、美味しー…」
以前王騎様と一緒にいただいたお酒と同じものだろうか。何処か濃厚な甘美な香りと口当たりに、呑んだ後は何故かとてもスッキリとしてもう一杯と誘われてしまう味。
また呑めるとは思わなかった。
お酒の味と綺麗な夜空に浸っていると、お猪口が奪われた。
「……殿からいただいてきた」
「王騎様の部屋から拝借してきたんですね」
クスクス笑いながら私は奪われたお猪口にお酒を注ぐ。するとすぐに騰様はお猪口に口を付けお酒を飲み始めた。
「これは、中華にきて一番美味しいお酒です」
「そうだな」
外の景色を見ながら騰様の肩に寄りかかる。とても静かな夜だ。
「…先程、誰と乾杯していたんだ?」
外の景色から視線を騰様にむけるとお酒を味わうように少しずつ呑みながら景色を見られていた
「……いつから、起きてらしたんですか?」
「晋がこれを私から奪った辺りからだ」
そう言って、騰様はお猪口を見て再び口を付ける。騰様はお酒にとても強いが、お酒を嗜む時は少しずつ呑まれる。たまに大きな杯に並々入れて一気に呑む姿も見た事があるが……
割と二人の時はこんな感じ。
「………夢を見ました」
「夢?」
「はい。……以前の主人と、キョウ様、王騎様がいらして呑んでいらっしゃいました。
とても楽しそうでした……」
夢なのか、現実なのか………
これか生きている時に行われていたら面白かったのに。
まぁ、でも……
主人が死んで無かったら今の私はないんだけどね!
「…だから、皆さんに乾杯です。
あの方々がいて、今の私があります」
騰様が持っていたお猪口を取り上げて、残りを飲み干す。はぁ、やっぱり美味しい。とお酒にうっとりしていると再び取り上げられた。
「…あ……」
「…私も殿の夢を見た」
「?」
するとお酒の入れ物も取られて、騰様は自分で注ぎお酒の入れ物だけ私に返してきた。
やろう。
「………………」
「…………?」
話の途中で言葉を切った騰様を不思議に思いみると、顎を触り何かを考えていた。
「そうか。あそこにいたのが晋の以前の主人だったのか……」
「??」
「私も同じ夢を見たようだ…」
「……そんな不思議な事があるんですね。
…ちなみに、
幸村様は男前でしたでしょう?」
「…………」
含笑いで騰様の顔を覗くと、目が合った。
騰様は眉間に少し皺を寄せお猪口のお酒をクイッと飲み干しそれを私の額に軽く当てられた。
あ、いたっ。
「…嬉しそうだな、晋」
「……そりゃあ、まぁ。ふふっ…」
自分で仕掛けたくせに恥ずかしくなって騰様の肩に擦り寄る。頭上で、困った娘だ…と溜息が聞こえた。
「でも、以前夢の中で幸村様が……
思い出した様に顔を上げると、頭が引き寄せられ言葉を飲み込む様に口づけをされた。美味しいお酒の香りとお風呂の香りが微かにした。
「その話は、もういい」
そう言って口角を軽く上げた騰様は私が持っていたお酒を取り上げ自分が持つお猪口に注いでいた。
にゃろう……
「はーい」
そのお猪口を奪い飲み干した私。
「………」
"素敵な方を慕っていて、私は安心した"
優しい笑顔でそう話していた主人が夢の中に出てきたのを私は思い出していた。
ゴンゴン!
………ゴンゴンゴン!!!
「…………な、何かあったのか……」
騰の側近が部屋に訪れたが部屋は内側からは開くことがなかった。
心配になった側近は近くにいた隆国軍長を呼び開けてもらう事に………
こじ開けられたドアの向こうには、
庭に面する寝室の窓際に、人が入ってきた事にも気付かないほど熟睡している二人が寄り添っていた。
その光景をみて、隆国は思わず微笑んでしまった。
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