3 先生と生徒




PM12:00



「はぁー…やっとお昼ー。今日も王騎様のお弁当よーうふふん」



保健室にいる摎はチャイムと同時に記入していた書類を横に避けてデスクの下に置いた二段に連なる重箱を取り出した。中を開けると色とりどりのおかずと、下には10個以上の握り飯。もちろん中の具材は全て違う。



「いっただきまーす!」



バンッ!!!

「っ!?騰!?」



扉が勢いよく開いたと同時にズカズカと入ってきたのは騰だった。だが、本人はその事に気にも留めず保健室の窓に向かい、窓の外を眺めている


「ど、どうしたの?」
「………」


何も反応を見せないまま騰は、摎に寄ると握り飯を3つ奪い保健室を出て行った。


「ちょっ!!なんで私の好きな王騎様特製の英鰭のみりん漬けがそれだって分かったのよ!!!
しかも全部持っていきやがった…



………………ったく。なぁに、柄にもなく機嫌悪くしてんだか…」








PM 12:30






「え、晋?」


コクリと目の前のキョウカイは頷いた。
弁当を貰いに来たと言う。


「晋がそう言ったの?」


蒙恬は少し考えてから、言葉を発した。
再びコクリとキョウカイは頷く。


「だから聞いている。お前なら何か知っていると思ったのだが」





その答えに蒙恬は驚いていた。
時計を見ると昼飯の時間に入ってから30分は経過している。
マメな晋だ。もしお弁当を渡せないなら朝か、昼前に渡すくらいはする。



「おかしいと思うか?」


キョウカイの言葉に蒙恬は顔を上げ、頷いた。先程から携帯を鳴らしているが電源が切れていて反応が無い。




ガララララッ!!!バンッ!!!



教室の後方の扉が勢いよく開かれると、息を乱した陽が周りの人や机にぶつかりながら慌てて二人に近づいて来ていた。



「どうしたの陽。そんなに慌てて…」


「蒙恬!!!大変っ!!!すぐ来てっ!!!!」


「!?」






PM 12:50




昼飯も食べ終わり隆国は、コーヒーを淹れ職員室の隣の部屋においてある来客用のソファーに座り一服していた。



「…はぁーーーーーー……」


長い溜息。

それもこれも、先日の妹に関する録嗚未との会話を思い出していたからであった。




ーーーそういう年頃。



いつの間にか、家族として大切な存在になっていた。


いて当たり前。



それなのに遅かれ早かれ離れてしまうのか……


まるで娘を見送る親父だな。と隆国は苦笑いをうかべソファの背もたれに身体を預けるのと同時に二度目の長い溜息をついた。




まぁ、そう簡単に認めはしないが。


不敵な笑みを浮かべたところで、部屋の扉が勢いよく開く。そこには血相を変え息を切らした麟坊の姿があった。


「…だ、大丈夫か……?」


隆国は突然開いた扉と、凄い血相でやってきた麟坊の気迫に驚いたが、次の言葉に全てをそのままにして部屋を出た。









PM 12:10






「はな、してッ!!!!」



晋は思慮が浅いね。と何かのゲームをした時に蒙恬に言われていた事を思い出した。

でも思い出した頃には、遅すぎて
薄暗い倉庫の中で、両手は後ろから誰かに拘束されたままマットの上に座らされ、三人の男と一人の女に見下ろされていた。




「こんにちわー、晋ちゃん」


何を考えてるか分からない様な顔をした不敵な笑顔を向ける男が近づき私の頬を撫でる。









移動教室から帰ってきたあと、私はキョウカイに渡す約束をしたお弁当を持って行こうとした時、カバンを開けて直ぐに見知らぬ手紙が入っていたのに気付いた。


白い便箋に入れられた宛名もない手紙。
中を開けて見るととても綺麗な字で



『貴女に思いを伝えたい。
今日の12時ちょうどに校舎裏の倉庫に』


と書かれていた。

驚いているうちに蒙恬と陽に呼ばれたので、その時は取り出そうとした弁当と一緒にその手紙をそっと鞄に戻して次の授業に向かったけれど



何も答えてあげないのは、この人の勇気に失礼だ。と倉庫に行くことを決めた。






「良いからさー、早くやっちゃってよ。人来ちゃったらどうすんの」


女が片手に持つ携帯を見ながら喋る。



「はいはい」


晋をまっすぐ見つめ続け薄く笑う目の前の男は、頬を撫でていた手を耳、首筋とゆっくりつたい鎖骨を撫でる。片方の手は太腿を触りスカートの中に滑らせていく。それに嫌悪感を覚え眉間に皺が寄り睨みつける。



「やめてッ」



「あれ。まだそんな顔できんの?


やっぱし、最高ッ。」



そういうと、目の前の男は晋の上に乗りセーターとシャツを切り始めた。


「っ!!!」


大声を出す前にキスをされ、すぐに口に布を詰められた。
抑えられた両手は、全く動かず
空いた足を動かして攻撃しようとしたが誰かにはばまれる。



誰かっ…

悔しさと恐怖に涙が落ちた。




ぜんぶ思い出したよ。
あの携帯女は、数年前に私が一発殴った女…………




あれで終わったと思ってたのに、
私の事まだ恨んでた。





刹那に見えた携帯女がこっちをみて楽しそうに笑いながら携帯を向けていた。


バカだ。


悔しさの涙で視界がぼやけた時、その女の横に黒い蔭ができた気がした。
何か話している様に見えるけど、目の前の男達の声で何も聞こえない。







バコッ!!


「ッいってーーー!!!

何すんだ、クソ女ま…………………………」



「?」



目の前の男の後頭部に女が投げた物が当たったらしい。それがその女の携帯だと気付いたのは、私の横にそれが半分になって落ちていたのを見る余裕ができたから。四人の男の動きが止まった。




ガッシャーーン!!!




そして、最初に目の前の男が飛ばされる。



「!!」



私が驚いている間に二人目、三人目、四人目と飛ばされていった。



…なん、で………



口に詰められた布が取られる。


この人に、
こんな顔をさせてしまった。


頬に手を添えようと手を伸ばすと
そのまま引っ張られて



強く強く抱き締められた。



懐かしい香り……………




「…騰さん………っ」



何度も何度も何度も、名前を呼んでいた。
夢ではない事を確かめたかった。

涙が止まらなかった。
怖さ、嬉しさ、安堵、嬉しさ、嬉しさ、嬉しさ……………



「晋」



「もう、大丈夫だ」


そう言った後、騰さんの腕が更に強まったのが分かった。

今どんな顔しているかは見なくても分かる。感じる。


でも。とても嬉しいんだ。
心の底で一番会いたかった人。






女子学生と先生 転



PM 12:45


「……昔。同じようにして貰った事があったなぁ…」


晋にしてはかなり大きい騰のジャケットを借りて横抱きにされた時フと昔の事を思い出した。
そう、あの時は服が泥だらけだったけ。携帯女はそん時に殴ったんだよなぁ…懐かしい。


「忘れたな」
「えっ………」


ココココて、騰の顔を見ると優しく笑っている。



「………ありがとうございます。
また、たすけて貰っちゃった…………」

「………………」


晋は騰のシャツを強く掴む。


「こんな時に、こんな事言うの変て分かってます。

でも前から…小さい頃から、気づくと騰さんの事ばっかり考えてる………


でも違うんだ。ってこんな小娘好きになるはずなんか無い叶わない恋だからって…諦めようって気持ちに蓋してた」



いつから自分に嘘をついていたか分からない。
いや……自分だけじゃ無い。

他人にも、だ。


酷い事をしてしまった。




「嘘。ごめんなさい。…全部嘘……私は騰さんの事が……



「晋ーーーーッッッ!!!」
「晋ーーーーッッッ!!!」




声に頭を上げると陽、蒙恬、キョウカイが走って来ていた。言おうと思っていた言葉が二人に遮られてしまい

緊張していただけに晋の心が折れる音がした。



「どうした、晋?」

「〜〜〜〜ッ!!!

な、なななんでもないです!!!」




晋は保健室までの道のりの中、騰と目はおろか顔すら合わせられなくなった。









ALICE+