拝啓……




私の相棒の話をする。



彼女はもう亡くなった。
若くて勇敢で人望の厚い女将軍だった。


小さな頃から一緒に育ち、金を稼ぐために男に扮して戦に出たが、2人で武功を挙げていくうちに私たちの周りには人が集まるようになった。

尊敬に値する方にも出会い、その方に尽くし自分たちの軍を大きくしていき
いつの間にか、武力が高く血の気の多い彼女が表に出て軍略の得意な私が軍師としてお互いを支えていった。





ある日の事。

尊敬していた方が病気で亡くなり、その軍の全てを彼女が担う事になった。
あぁ、そうだ。私は軍師で裏方にいる。彼女の方が将軍として適任だからだ。



将軍として他国にも名前が行き届いていたそんなある日だ。彼女は王都へ呼び出された。


次の戦の事だろう。






「次は秦とか?それなら摎とかな」
「……………ああ。さすが動向が読めているな」


当たり前だとフフフと笑い目の前の酒を飲もうとすると懐かしい記憶が蘇ってきた


「懐かしいな。殿が生きておられた時、よく王騎や摎達の軍と呑んだものだ」

「………………」

「殿自身が嫌っている秦だったが、あ奴らは別じゃ!!とかいってコッソリ抜け出してな……また呑みたいな」



「…………ああ、…そうだったな」




私は彼女を酒の器越しに見て目を細めた。

目線が下を向き私を見ていない



その時、私が長い事感じていた違和感が音をなして組み立てられていくのが分かった。



だから、私は聞いた。


「………私に隠している事があるな」

「…………………


…ああ。」



私はその言葉に、全てのピースがはまったのを感じ
頭に一気に血が上り持っていた器を捨て、彼女の胸ぐらを掴んだ。


「王騎ンとこのあいつか!?


違うか!!!あっっ?」



彼女は私をまっすぐ見てから、静かに頷いた。
その姿に私は1つ舌打ちをする。



「気づいていたんだな…」
「……なんで…」
「…呑んだ時に、な」
「……なんで…!」
「……………愛している」


ピシャッ!!!


ここまで感情的になったことは一度もない。
私は彼女が呑んでいた酒を本人に掛けた。





安心しろ、幸い私が総大将ではない。




「…………お前は死ぬ気か!?」


「馬鹿を言う。死ぬ気も負ける気もしない」



「ふざけるな!!!!

王騎は絶対にこの事に気付いている…そして、確実にお前を殺すために、副官の騰をこちらに仕向ける!!

お前はそこで目の前に来た愛している男を殺せるのか!?」




「本望だ」



「っっっ!!!」




彼女の笑顔は、覚悟を決めていた。
それは数日前に決めたなどの甘い覚悟ではなく、騰を愛した瞬間にもうその覚悟を決めていた様に感じた。



「泣くなど、珍しいな。」


私は言葉が詰まり、感情の打つけどころを無くし知らずに涙が頬を伝っていた。





彼女が死ぬか、
騰を殺るか………




分かる。

これは、どちらかにしか転ばない。







「おまえは、どう思う?」

「?」

「私が勝つ見込みは、あるか?」



「……………私が死なせるかよ…」


「そうではない」





こんなに辛いことはない。


それはあの時も今も変わらない。




これ以上辛い経験はなかった。



「…………………


……一騎打ちにならなければ、少なからず…」





「そうか」




だから全て鮮明に覚えている。
この時した彼女の悔しそうな顔も


自分の死を身近に感じた恐怖を浮かべた顔も……






「大馬鹿者だ……」




「ああ。分かっている。


……そんな馬鹿者の1つ願いを聞き入れてくれるか?」











私たちは皆が寝静まった深い夜に城を抜け出し秦と趙の国境近くの深い森の中まで馬を走らせていた。




そう。もう1つの願いは最後に騰と二人で会うこと。



もちろん許したくはなかったし、騙されていたらと思うとゾッとする……
だが私が同行する事と夜明けまでという条件で承諾した。私でなければ何かあった時打破できないと考えたからだ。






その時
同行して良かった。と心底思った


騰に会った時の彼女の笑顔が、女だった。とても幸せな顔をしていた


これをいつまでも続けさせてやりたい。という気持ちに無理やり蓋をした。





天幕から出てきた彼女の顔はいまでも忘れられない。











そして、彼女は敗れた。



私は近くにはいてやれなかった。




戦は総大将の摎が何者かに敗れ、彼女が殺され五分五分で引き上げる形となった。


様々な策を張り巡らさせたが、物見や近くにいた側近の話だと、
最終的には追い込まれ、彼女が指示の上一騎打ちの末に騰自身が殺したと聞いた。










晋。

そっちで元気にしているか?



おまえの墓に花が置かれていたから摎の墓に行くついでに「ふざけるな」とあいつに突き返してやったよ。


晋の好きな桃の花だ。
枝をさすように投げつけてきたよ。



どーせおまえは、それを笑って見ていたんだろう。







私は性懲りもなくまだ戦を続けているよ。



でもこれを最後にしようとも思っている。




ああ。そうさ、


おまえと摎が死んだあの地で、また王騎との戦だ。




結局これが運命なんだろうな。








「李牧様がお呼びです」


「…………………今、行く」




さぁ。おまえの弔い合戦といこうかね。





end...



私が書きたい様に書いた最たるものだと思っています。それでも言おう。

これは騰夢なんだと…っ!!!

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