桜の季節に




ある晴れた日の事。
暖かさを取り戻し、満開だった桜が散り始め綺麗な桜吹雪が舞う頃




「騰様、おはようございます!お茶入りましたよ」



騰お付きの給仕が部屋に顔を出した。



「晋」


「あれ。今日はお早いのですね。いつもは私が起こす役目を仰せつかっておりますのに、仕事が1つ減りました」


よく見ると騰の寝巻きも着替え終わり、身支度が整っている。そんな事がとても珍しかったので明日は雨が降るのかなと心に問いながら給仕の晋は窓際に座り書簡を読む騰に近づいていった。



「楽しそうだな」


「ええ、もちろん」


目の前に座り器に茶を注ぐ晋の顔を見ればクスクス含み笑いを続けていた。
その様子を騰は少し目を細めてから器に入る茶を啜っていた。



「それなら、私のおかげで仕事も早く切り上げられそうだな」



騰が発した言葉の本意が読み取れず、晋は手を止め茶から顔を上げた


「あら。何かありましたか?」



晋の言葉が発せられたと同時に騰は懐から花柄の綺麗な箱を取り出し、茶の台の上に置いた。


「私からだ」

「え?」


晋は急な出来事に頭が追いつかず、小首を傾げその箱を持ち上げ騰と箱を交互に見ていた。




「………え?」











「おはよう晋……おい。何かあったか?」



お茶を部屋から下げている途中で晋は麟坊と出会うが、いつもどこか楽しそうな表情をしているのに今日はそれが曇っていた。
だが、晋の方は麟坊と出会ったことに安心感がうまれ笑顔がもどる。
二人はだいぶ昔からの顔見知りだ。



「麟坊様ッ!!」

「ど、どうした?」



それでも、晋が少し悩んでいる事には変わりないので苦笑いを浮かべ懐の中に入れた先ほど貰った箱を取り出す



「と、と……ッ!!」

「あああ。落ち着け!」



「…すみません。…えっと。さきほど朝の支度をしに行きましたら、こちらをいただきました……」



箱を開けるとそこには女性物の指輪だった。それは誰が見立てても高級なものだと分かるほど存在感があるが女性物らしくとてもシンプルにできていた。
麟坊は、彼女にあったものだとすぐ分かったし騰様の見立てはさすがだなとも感心していた。



「おお!良かったなぁ!!」


「ええ。でも今日が誕生日でもなく…それにしたって高級すぎるこちらをどうすれば………」


「は?」



麟坊は心底、こいつ何言ってんの?という顔をしていたので晋はキョトンとした顔で見返す。



「意味も分からず受け取ったのか?」

「意味?」


育ちが出ちまったなァと言いながら麟坊は晋の持つ箱を手に取り、中身を見せながら晋に向けた。



「……今夜、私の部屋に来い」

「!………驚きました。似てない…」



ズコッ!




「昔からなァ…生涯の伴侶になってほしい人に貴金属を渡し

受け取ったら、それを承諾したという証明になるんだ」


「……という事は………

夜と言うのは…………えっ!!」





「晋さん」

「「!?」」


緊張が高まってしまっていたせいで急に呼ばれた名前に、晋も麟坊も驚いて声のした方を見た。

そこには、紋が立っていたのだ。



「も、紋さん?いかがなさいましたか??」

「王騎様から、預かりました」

「?」


紋の両手には、これまた綺麗な箱があった。晋はその場で空けろと言わんばかりの麟坊に押され、紋の手に箱を乗せたまま蓋を取った。

すると、そこには今の季節にとても合う桜色というより桃色の薄手の着物…


「王騎様からの言伝です。

がんばって元気な子を産むんですよォ。ココココッ!

です」


「………………」


「おおう、がんばれ晋ッ!」



あまりにも衝撃的な事実を突きつけられた晋の脳内では処理にとても時間が掛かり、目の前でお互いの上司の真似が似てなさすぎる話をしてる麟坊と紋の声さえ入ってこなかった。








ちなみに、ずっとあとで分かった事だが
婚約する時に貴金属を送りそれを承認の証とするそんな回りくどい風習は実際にはない。



それに気付いた時には、すでに仲睦まじい二人になっていたので晋が麟坊に饅頭を投げてやる程度で済みました。





Life was like a box of chocolates. You never know what you’re gonna get.


ー映画Forrest Gump より










昼間は賑やかなのに、ひっそりとして風と虫の演奏が静かに聞こえる。


今日は満月だ…


と緊張を紛らわすために夜空を見上げ、照らし出された桜を見つめ1つ大きく深呼吸した。









「………やっと来たか、晋」


朝早く開ける扉とは重さが違うせいで違う部屋と間違えたかと晋は思ったが中にいた方の声が聞き慣れている方の声だったので、そのまま自分の体を入れる。



「……申し訳ありません…遅くなってしまいました。」


夜闇であまり顔を見えない事に少し安心感を覚えるが、それでも直接見れない晋は床ばかり見つめていた。
近づいて来る騰が晋の髪を触った時を機に、晋は唇を紡ぎ顔を上げ騰をまっすぐ見つめる。



「……覚悟ができたのか?」


ニヤッと笑う騰に、言葉を理解していながらも晋はわざと小首を傾げる



「…と、申しますと?」




「長い間我慢をしたせいで、歯止めが効かんぞ。という事だ」



なおもクスクス笑う騰とは真逆に予想外の言葉で体を硬くした晋は、騰によって横抱きされ寝台に連れてかれた。



「ま、待ってください」

「?」



寝台に寝かされた晋は覆い被さる騰が自分をまっすぐ見つめてくれるまで待ってゆっくりと言葉を紡いだ。



「騰様…私は、貴方様に尽くし…貴方様を守り……愛しぬくことを誓います」


「…………」



いつにもなく真剣な顔をした晋に騰は不覚をつかれしばし呆然と晋を見つめた。




「騰様?」




「………………興奮した」


「え、え、え、え!?ちょ、と
まって。ま……や、優しくお願いいたします」


首筋にキスをし始めた騰はその言葉に一度顔を上げると、眉間に皺を寄せる



「頭の片隅にでも入れておく」


間髪入れず言われ、晋の次の言葉が発せられる前にそれは塞がれた。



拭えきれない恐怖心は騰の服を強く掴む手に現れていたが、そこには指輪が月光と共に輝いていた





終わり




いつもありがとうございます。
甘いの書きました。私が甘いの書くと傾向が似てるなと思うけど…

こういうシチュが好きなんです!!!



こちらはアイディアをいただいたカリメロ様に献上いたします。
煮るなり焼くなりしちゃってくださいませ!!!


ALICE+