私得(笑)誕生日企画





顔を洗って改めて見ると外は真っ暗で、高くそびえるこのビルに今は警備員と私くらいしかいないと思ってた。


「……?」



帰るわけでは無かった。むしろすでに電車が無くなってしまったので途方にくれた自分が通りがかった同階に薄っすらと光があったのを確認して、ナゼか私だけでは無かった、と安堵を感じて誰でも良いから話し相手が欲しかった。


でも近づくと、それは見慣れた後ろ姿。



「あれ、騰?」


振り向いた彼は何故か夜なのにサングラスを掛けていた。相変わらずだなぁと思い笑いながら、彼にしては残業が珍しいと思い口を開きかけた時に、騰は急に立ち上がった。


「終わったのか?帰るぞ」

「ん?ん、え??」




思わず情けない声が出たが、ズンズン進んで行く彼について行く事しか出来なかった。

去り際にチラッと見えた騰が座っていたデスクのパソコンは画面が暗かったのが見えた。





「…………」

「…………へー……騰て、こんないい車乗ってたんだ」



一階まで降りビルを出ると目の前に白塗りの車が停めてあった。それに近づき騰は当たり前の様に助手席側を開け私を迎え入れるが、私は呆気にとられ更にされるがまま。
座った直後、思わず感嘆の声を上げていた。



「乗せた事がなかったか」

エンジンを掛けハンドルを握る彼をチラッと見てさっき暗闇の中でサングラスをしてたという事を思い出して苦笑いを浮かべた。


「…う、うん。そうね」



それから車が発進しても、私たちは多くの事を話さなかった、むしろいつもは私が一方的に話して騰は聞いてくれる。だから私が発端を作らないと始まらないのかもしれないが、今日はどうしても外の景色をゆっくり見ていたい。







「……
うちの方向でも騰の家でも無いみたいだけど、

私を何処に誘拐する気なの?」


「ん?…ああ………」


騰が指差した先は、名の知れている高級ホテル。



「……は?」

「……………」


なぜ黙る。



「……え、誰が泊まるの?」


表現を変えず、その長い睫毛をパチパチさせて騰は自分自身を指差した。


「私は何で同行してんのよ!?」


思わず張り上げた声とは裏腹に、相変わらず理解ができない事をする騰に思わず笑っていた。




「…………そのまま独りになるつもりか?」





騰のその言葉に、あの事が頭をよぎり私は目を伏せると同時に音を鳴らして車はホテルの駐車場に止まった。






「…………そう……騰にはなんでもお見通しね」



苦笑いをしながら彼の方を向くと、視線が合う。




「晋の事ならな」

「……私?」


シートベルトを外しグッと近づいてきた騰が私のシートベルトも外し、ロックされた助手席のドアまで追いやる。
彼のテリトリー、最初から逃げ場なんて無い。まっすぐ見つめてくる目は真剣なのかふざけているのか正直読みにくいが、威圧だけは感じて目が離せない。


呼ばれた名前はすぐ近くで聞こえ、

彼との距離がキスできるほどだった。




「………素直にならないのか?」



目の前まで近づいてきた顔に思わず目をつむるが、キスからの空振りでそれは耳元に寄せられた。ただし、いつもと違う彼の雰囲気に飲まれて内容が一つも頭に入ってこない。

近すぎる彼の香りと聞き慣れた筈の低音が五感を犯しに掛かってきていた。




フラれたばかりの
抵抗しない私は馬鹿なのか


なかなか振り向かない私をキスまで追い込んでいる彼が阿呆なのか。







違うわ。
私が本当の気持ちに蓋をし続けた。



そう、大馬鹿者。





体を離そうとした彼の首に腕を回して無理やり引き寄せる。




「ホテルなんか嫌。

騰の家でする…」



今度は私がソレを耳元に寄せる番。



彼の腕によって抱えられた私はそのまま運転席の彼の膝の上に座らされ



それは必然的にどちらともなくキスをする合図。





「……………っ」

「…な、なによ………」



リップ音と共に離れる私の唇は
二度目をすぐに欲しがる。



それを、馬鹿にした様に笑う彼。



はいはい。分かって無かったのは私ですよーーーーだ。




「……私、狡い?」

「そうは言っていない」





「ぢゃあ、何?」



騰が私の顔をなぞり、私の唇に親指を這わせる。



「…………嬉しさを噛み締めていた。

それがまるで、欲しい物を買ってもらった子供のようだなと、笑った」




「へぇー……

騰くん、嬉しかったの?」


唇を這る手を私の手と重ねて頬に擦り寄せ悪戯な笑みを私は浮かべた。



「もちろん」

「あら」

「数分刻むごとにその想いが大きくなり……それを吐き出せる場所は、

さて何処か」



ニヤッと笑う彼の笑顔から何やら大変なモノを感じた私はすぐに助手席に戻りシートベルトを装着した。


「さ、行きましょう」


「…ここで始めないのか?」



キッと睨みつけると、名残惜しそうに私がいた場所を見てる彼の首元のシャツを掴み自分に無理やり引き寄せもう一度キスをしてやる。とそれを待っていたかの様に後頭部が抑えられ口内に舌が入り犯され始めた。


「………こ、…これで我慢してッ」



キスが上手かったのも、それがとっても良かったのも私の顔が赤いのも全て隠すために強気に言って騰とは反対側に顔を向ける。
それを面白そうに笑っているであろう彼もサッサと車のエンジンをかけ始めた。




「あ。あのホテルのケーキ買ってない!食べてみたかったのに……」

「…数分刻むごと……

「分かった。ごめん。行こう」





No I don't wanna live
Without love







「そういえば、ホテルをキャンセルして大丈夫だったの?」

「………ん?」

「だってあそこ予約以外受け付けてないでしょう?当日キャンセルなんてバカにならない……」


「それが分かっていて、私の部屋に来るのか?」


「…ご、……御免なさい……」



ココココッとまたもなお、馬鹿にした笑い方をするトウを睨みつけるが一泊代パーにした私が何か言える立場でもないので謝るしかない。くそぅ…


出会った頃から、彼は私の一枚上手をいくそんな人だった。



そんな彼の気持ちに気付かないフリをしたツケをこれからたくさん支払っていくのかと思いながら窓の外を眺めて目に溢れたモノを手でぬぐった。


「ただ……


私は一度もホテルを予約したなど言っていない筈だが」


「……ん?」



二枚ほど上手でした。

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