男と女




女の荒い息遣いが暗い部屋に途切れ途切れに響き渡る。その音の間には接吻を象徴する独特な音と女の小さな抵抗の声。それはそれは艶かしさが一層増し男の欲を誘う事を女は深く理解していない。

女は大きく呼吸を整えたいがその抵抗できる腕を2つとも男の手により頭上で拘束されている。始まってしまったのだからこの男から逃れられる事はできない。それを理解できたのは果たして何度目だ?

男はなぜ甘い接吻をしてやらないのか。焦り?怒り?それとも久方ぶりか。全て違う。これが常。これが彼等にとっていつもの事なのだ。


「…はぁ、ぁッ……ゃッ…と、う、様ッんん」


「………………」


女を試している。私はここまでする。お前はどうする?そう伝えたいのかもしれない。
接吻の激しさとは打って変わり男の大きくいかにも武人らしく皮が厚くしっかりとした手が女の頬を滑り降り着物の合わせめに流れ着くと、合わせ目を少しずつずらしていきながら女の滑らかな肌を堪能していく。

女はその武骨な手によってこれから起こるであろう快感を頭に抱かずにはいられなかった。だから自然と呟く甘い声と共に腰が小さく浮く。


「…………感じるか?」


執拗な接吻に気が済むと男は、さらに顔を近づけて女の耳元に声をひそめる。
右耳。女は右耳が感じやすく、更に愛する男の低く熱を持った声に弱い事を熟知していた。
だから男はワザと掴む手を強める。


「いやだ……、もう、離して」

色が付いたその弱々しい声にもはや抵抗の意味を成さない。睨みを利かせているのならば尚更。むしろ男の興奮を駆り立てているようなもの。


「晋にしては珍しいな」

「っん…え?」


着物の合わせ目から滑る様に無理やり広げながら柔らかく膨らみを見せるソレを片方だけ露わにするとその大きな手で弾力を確かめる様に包む。ここも女が感じやすいところだ。何度も顔を背けながら身をよじるが、男の言葉に疑問を抱きそちらに顔を向ける。


「故意で誘っている」


そう男が言葉にしてすぐ、ツンとたっている突起を口に含み舌で弄ばれる


「あ、んッ…ん」


いつの間にか離されていた女の両手は男の肩の服を掴むとその亜麻色に流れる髪を指に通しながらそれを掴み取る


「……騰様は、好きな子をいじめたくなるお人か、と」


男は顔を上げる。するとクスクス笑いながら自分の顔に掛かる髪を退けてくれる優しい女がいる。



「…ああ。そうだな。」



その表情に男は愛しさを噛み締めそしてそれを歪ませるための方法ばかりが頭をよぎるほど逆上せているのもたしか。

だからか、男は少しだけ体を浮かすと女の乱れた着物から出てきた方足を持ち上げもう片方にグッと力を入れ付け根を広げる様にした。



「ダメですよ」



だが、この男に抱かれる女の攻略がそう容易いわけがない。
笑っている女のその柔らかな口調が、なぜか聞き入ってしまうほど艶やかな言葉


「ダメ」


私を楽しませるだけで悦ぶと思っているの?そんなの愚の骨頂にすぎない。

合わせた目がそう物語っていた。
それを見た男は自然と口角が上がる。


大軍を率いるのは時に人を思い通りに動かす事。それは人間の行動パターンを経験によって推し量る、もしくは予想する。それができる立場にいるこの男にとって
想像の上をいく存在というのは、時に面倒で時に好奇心を駆り立てる魅力的な存在として映るだろう。

この男にとっての
この女はそんな存在。






People always do crazy things, when there’re in love.


ーーー映画「ヘラクレス」よりーーーー





「でも結局は私が負ける…」

「ココココ。若輩者が私に勝てると思いますかぁ?」



一通り…いや三通りくらいの情事が済み寝台の上で壁に寄りかかる騰は書簡を読みながら、晋は対面する形で騰の膝の上に座り胸にぐったりと身体を預けていた。必然的に頭上で聞こえた王騎の真似をする声に余計に悔しさを煽られ眉間にシワがよる。



「晋がもう一度すると言うのなら………さすがに私が参るな」



その言葉に胸に寄りかかっていた頭が上がり、それこそ悪戯めいた笑顔を向けた。


「年齢的に?」











騰は目をパチパチさせた後、持っていた書簡を床に落とす。




「……………試してみるか?」



策にハマったと気付いたのは、
その顔を見た時。

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