1 先生と生徒
都心某所。
見上げるほど高いマンションの中ほどにある一室で着替える事もせず、でもスーツのジャケットは脱ぎ首元を緩めたシャツのままお酒を交わす男が二人いた。
録嗚未は、椅子の背もたれにもたれ掛かると暑いのかもともと開けていたシャツのボタンを更に緩めた。
1つ酒を入れると部屋を見回す
「あー…。相変わらず綺麗にしてんなー隆国」
「そうか?」
隆国はテーブルに肘を付け氷を入れたグラスをカランと回すと目の前の買ってきたつまみに手を延ばす。
どう見ても、床に何1つ落ちていない
物も少な過ぎず多過ぎずちょうど良い配置。
そして、どう見てもこだわっているだろう家具たち……
「……そういえばー、晋は?
お前の妹にしては、なかなかの不良娘じゃねーか」
そう言いながら壁に掛かっている時計を見ると短針が9を指していた。もちろん外は暗い。
「あぁ。学校帰りに櫂の所に寄ってくるとか言ってたから遅いんだろうな」
「ふーん。
…………ホントは男とだったりしてなァ?」
そう録嗚未がニヤッと口角を上げて笑うと隆国は眉間に皺を寄せグラスに入っていた酒を飲み干した。
「………俺に会わせるまで男との夜の外出なんか許すわけがない」
「今時の女子コーセーが、そんな事するかよ」
ニヤニヤ楽しそうに録嗚未がつまみに手を伸ばすと、玄関ドアについているウィンドチャイムが鳴るのと同時に「ただいまー」とゆったりとした声が聞こえてきた。
「お、噂をすれば」
「…………」
隆国は何とも言えない顔だ
ガチャ
とリビングの扉が開きヒョコッと制服姿の晋が顔を出した。
「あ、れー。玄関に靴が1つ多いと思ったら、まぁた録嗚未さん?
お兄ちゃん達付き合ってるンじゃないの?」
そう言いながら晋は部屋に入り、キッチンへと足を進め冷蔵庫から飲み物を取り出すとコップに注ぎ始めた。
「あ?こんな几帳面な嫁いらねーよ」
「俺もこんなガサツな女はいらんな」
「私も録嗚未さんをお義姉ちゃんにはイヤだなー。家事やらされそう…」
お前が言うんじゃねーよ!!と録嗚未が叫ぶと晋はあははは!と笑いながら喉に飲み物を入れた。すると、つまみを食べていた隆国が口を開いた。
「そういえば、晋。夕飯は大丈夫か?」
この言葉に酒を口に入れようとした録嗚未が目だけ隆国を見てグラスでわざと口元を隠しながら笑った。ストレートに聞かずに遠回しに聞こうとしてるところが隆国らしい。
「うん、大丈夫だよ。今日は王騎先生がご飯作ってくれてねー……
「そうか」とやや安堵の笑みを浮かべ酒を口に入れる隆国に小さい声で良かったなとニヤつく録嗚未。隆国は睨みを効かせた。
すると今度は晋が叫び出した。
「あー、お兄ちゃん!!
おつまみは、外で買わないでって言ってるじゃん!」
「?あぁ、すまん…」
「もう。おつまみいるなら、私が作るからって言ってるでしょ……ちょっと待ってて!すぐ作るから新しいの開けないでね!!!」
そう言い残し、晋は自分の部屋へ制服を着替える為にリビングを出て行った。圧倒されてしまった二人はしばらく言葉が出てこなかったが、ドアが閉まると同時に録嗚未が事切れたように笑い出した。
「さっすが、お前の妹だな!!」
「……あぁ。」
「きやぁぁぁああああっっ!!!!」
ガタガタッ!!
「晋!?」
「どうした?!」
女の、晋の悲鳴が聞こえ二人は驚くと同時に立ち上がり隣の部屋へ向かおうとリビングの扉に近づくと、向こう側から扉が恐る恐る開いた。
「!」
「お、お兄ちゃん……!!」
「晋、大丈夫か!?なにが…
向けられた晋の顔はひどく怯えており、隆国は急いで晋を部屋に入れ、扉を閉める。晋は隆国のシャツを掴むと睨み見上げた。
「な・ん・で、
騰さんが部屋にいるのッ!!!」
「「………はぁっ!?」」
とある女の子の悩み@
「入れないでって言わなかった!?」
「入れたつもりはない!!」
「おいっ騰!!なにしてんだよ!!」
リビングでは兄妹喧嘩
そのリビングから出て元凶を確認しにいく録嗚未。
物語は始まったばかり。
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