ギロロ+クルル/付き合う前のふたりの初めまして。大幅捏造設定あり
軍部での兄の部屋に入れば、ソファでそれが当たり前でもあるかのように惰眠を貪る見知らぬ黄色い男がいた。おそらく兄から何度か聞かされた兄の上司だろう、何よりも胸に歪に曲がってどうでも良さそうにつけられた勲章がそれを証明している。少佐だということは覚えているのだがあいにくと名前までは覚えていない。
額に掲げられた真っ白な左腕に走る幾つもの傷跡がやけに痛々しい。位置的に見ておそらく自分で付けたのであろう傷はまだ完全に塞がってはおらず、肌の下の赤をちらりとみせていた。
一般に自傷と呼ばれるその行為の意味が理解できない、しかし理解できないが治療くらいはできるのだ。全く起きる素振りのない兄の上官にひとつ溜息をこぼして、救急箱を探す。何度か来たことのある部屋なのでどこになにがあるかは大体知っている。
意識のない人間(しかも上官である)になんの断りもなく勝手に肌に触れるのは流石に失礼だと思い、声を掛けてみたが名前も知らない上官はただ意味のない寝言を零して深い眠りについている。何にせよ治療をして文句も言われないだろうとそっと傷口に消毒液を浸したガーゼを押し当てていく。よほど疲れているのか身動ぎひとつしない上官が今本当に生きているのかさえ不安になり胸の辺りをじっと見つめてみたが呼吸は睡眠時の人間としては通常値の範囲内だった。
生きている、そんな当たり前の事に何故か安心した。ここは戦場ではなく自軍の軍本部なのだ、大規模な戦闘もないこの時期に本部内で不当に死亡者がでる方がおかしい。それは分かっていたが何故かこの上官にはそんな常識が一切通用しないように思えたのだ。
考えを膨らませながらも治療の手だけは休ませず、包帯を巻き終えたところで一息ついた。なんにせよこれで今できる事は終わりだ。他にもやろうと思えばやれる事はあるがそのためにはまずそのためだけに薬品を取りにこの部屋からはなかなか距離のある研究棟まで行かなければならないし、いくらなんでも見ず知らずの上官にそこまでする義理はない。それに元々塞がりかけていた傷だ、悪化させるような事さえしなければ何の支障もなく治るだろう。
救急箱を元あった場所に片付け、ソファの前に戻ってみたがどうにも手持ちぶさたで何か飲もうと腰をあげた。キッチンにおいてあるインスタントコーヒーの袋をあけカップにセットする。あとは湯を入れれば完成だ、ふわりと湯気をくゆらせながら辺りに独特の良い香りが広がる。
「俺もコーヒー」
突如上がった見知らぬ声、その声は予想通り先程までソファで寝息をたてていた上官のものだった。何も言わずに自分の為にいれたコーヒーを差し出せば上官はさんきゅ、と小さな声で礼を言った。
悪事を働いたとは自分でも思っていないがやはり本人の了解なく勝手に手当てをした事が心にひっかかる。そわそわと落ち着かない心を落ち着けようと自分の為にもう一度コーヒーを淹れなおし、口をつけた。砂糖もミルクも入っていないコーヒーは思いの他熱く、苦かった。
「なぁ、これあんたがやったのか?」
これ、とあからさまに包帯が巻かれてある左腕を翳される。何故だか返事をするのがためらわれて一瞬の間をおいてからはい、と返事をした。その間がとてもおかしく感じたがいくらなんでも話の最中に唐突に笑うのは失礼だろうと思い必死になって笑ってしまいそうになるのをこらえた。
「俺が誰だか知っててやったのか?」
「名前は知らなくとも怪我人を治療するのは当たり前です」
「クク、あんたおもしれぇな。」
名前も知らない上官は嫌味に笑った。自分でもよく分からないがその顔がとても綺麗だと思った。
「じゃあ俺は行くから。兄ちゃんによろしくな、ギロロくん」
「え、あ、はい」
何故名前を知っているのか、とは聞けなかった。そんな隙を与えずに名も知らぬ黄色い上官は部屋をでていった。ほんの数分の出来事がまるで夢のようにふわふわと心の中に浮いていた。いつの間にかそこにいて、心を乱して去っていった黄色い男。
またいつか、近いうちに出会う予感がした。
その予感が見事的中したのはそれから一週間後だった(ケロロ小隊のメンバーを紹介するであります!)
.